ルロワ
試飲日 2000年7月15日
場 所    神奈川県内JR沿線某所             
照 明 蛍光灯
種 類 フランス ブルゴーニュ産AOC赤ワイン
生産者 Leroy Negociant ( Auxey-Duresses )
Vintage 1982
テーマ 熟成したルロワを楽しむ。
ワイン Beaune Cent-Vignes


 18年前のネゴシアン・ルロワを試飲した。完璧であった。この味わいは万人共通の喜びで あるように思われる。ワイン初心者・ブルゴーニュ初心者そしてブルゴーニュ愛好家 そのすべてを満足させるに余りある。このワインはワインを愛する人をほぼ全員魅了する。

 熟成の頂点にある極上のワインを10,000円で楽しませる実力を感じざるを得ない。

 それはつまり、ワインを追求する者に脱力感を与えやしないか。ワインの決め手は場所であり、 葡萄品種であり、作り手であり、生産年である。どのワインが自分の好みなのか。 どのワインがどの料理と相性がいいか。ベストマッチを考えることはワイン好きの 喜びであるし、時として苦しめたりする。失敗も多いが、完璧な取り合わせに出会えた感激は、 言葉に出来ない類のものだ。ワインパーティーを主催するときなど、予算や参加者の ワインの好みなど、あれやこれや考えるのも悪くない。高いワインが人を楽しませるとも 限らないところにワインの深みを感じるのだ。

 しかしこのワインはどうだろう。最大級のもてなしとしてワイン愛好家が熟考のあげく 選び出した一本と、ルロワの名前だけで選ぶ一本が同じになってしまう。ブルゴーニュには 天才も有能な作り手も数多くいるが、ルロワは段違いに卓越している。 日本語としておかしいが、要はそういうことなのだろう。川釣りはフナに始まり フナに終わるという。ルロワはその域に達している。ん。意味がまた違うか。

 ルロワの実力は他者を圧倒している。ルロワの白いエチケットを自分のワインセラーに 埋め尽くすことはブルゴーュワイン愛好家の憧れという。毎年安定的にワインを市場に 送り出し、テロワールを代表し、時としてその場所の最高傑作を生み出す。 マダム個人所有のドメーヌ・ドーブネとドメーヌ・ルロワは味も最高なら、価格も 最高レベルだ。ロマネコンティとの経緯を得て、それを超えるワインを目指し、 実現しているかと思われる。

 庶民の手の届く範囲はネゴシアンものが限界であることは、悲しい現実ではあるが、 さりとてその味わいは世界最高水準にある。その判断をこのワインがさせてくれる。

 そもそもブルゴーニュにとって1982年はヴィンテージとしては厳しいものがある。 ロバート・パーカーJrのブルゴーニュ日本語版でも、この年はわずか12行の記述で、 8月後半の雨がワインを水ぶくれにさせたと紹介し、一部の一流生産者を除いて3,4年以内に 飲みきって欲しいとアドバイスしている。その助言から10余年が経ってしまっている。

 ちなみに1982年はボルドーの今世紀最大級のグレートヴィンテージだ。年号につられて他の 産地を飲むとえらい目にあう。私もルロワ以外のブルゴーニュには触手は伸びない。

 しかしマダム・ラルー・ビーズ=ルロワは年号の芳しくない年に至福のワインを造った。 しかもネゴシアンとしてである。ワイン愛好家にはネゴシアンもののワインを ドメーヌものよりも軽んじる傾向がありはしないか。しかしそんな風評をこのワインは いともたやすく蹴散らしてしまう。マダムルロワについてここでは多くは語らないが、 今回のワインも他と同様、彼女流に仕立てたワインを購入して自社のセラーで瓶詰めし、 長い年月をかけて瓶熟させたものだ。セラー蔵出し直後のものを今回試飲したわけで、 このワインを今、市場に出す自信が垣間見られる。まさにパーカーの言う 一部の例外生産者なのだ。

 ルロワは外さない。決して裏切らない。したがってココゾという夜には最高の酒である。

 しかし冒険したい夜もある。高水準で安定しているルロワを打ち破るワインを探したくなる。 リスクは大きいが、「ルロワ = 一番」に納得したくないのは、ワインを楽しむ上で 必要なはずだ。しかしその欲望は満たされるものなのだろうか。少し自信がない。

 ところで肝心の味についてであるが、詳細については勘弁してもらおうと思う。

 同時に飲んだ数種類のワインがこくってうまかったため、酔っ払ってしまっていたからだ。 どうもすんまそん。酔いながらソバ耳立ててた情報に寄れば、ボーヌの個性は 超越していたようだ。酔ったついでに言わせてもらえば、ルロワのワインは喉で味わいたい。 テイスティングだけでは、本来の実力を堪能できないからだ。色調・香・味の三拍子そろった 最高ランクのワインはごくごく楽しみたいものだ。空になったINAOグラスの底には ガーネットが残り、鼻を近づけるとブーケがまだ残っていた。

 ちなみにあわせる料理としては、血滾る系の癖のある肉料理に合わせたい。または気合も 予算も十分な料理にだろう。極上のワインは料理の気合を選別する。

<<追記>>
 このワインはエチケットには記載がないが1級畑である。ボーヌの市街より北東に位置し、 ベリサンドの隣にある。ルロワのワインは1級を強調しなくても、 高値が約束されているからか、知ってて当然だからなのか。それともこのワインを 日常的に飲む人々にとっては、どうでもいいことなのだろうか。不思議だ。

<<余談>>
 実はこのワインを翌日も堪能した。ただその時は飲み比べた相手が悪かった。 ルーミエのボンヌマールとコルトンシャルルマーニュに挟まれ、少し肩身が狭かったようだ。 そのときの感想についてはまた別の機会に。ちなみにその夜は皆既月食だった。

以上


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