マリオネ
試飲日 2000年7月15日
場 所    神奈川県内JR沿線某所
照 明 蛍光灯
種 類 フランス ロワール産地酒白ワイン
生産者 Domaine Henry Marionnet  ( Touraine )
Vintage 1999
テーマ 8,500円もする地酒(Vin de pays)を飲む 。
ワイン Provignage vin de pays du jardin de la France


 8,500円もするヴァン・ド・ペイを飲んだ。普通このクラスのワインはスーパーでは 1,000円前後で売っている。また8,000円も出せば、シャブリの名手が造るグランクリュが 買えるし、コート・ド・ボーヌなら極上のAC村名クラスが飲める。

 それでもなお、このワインを飲めたことは非常に有意義であった。

 このワインには説明が必要だ。ワインの経験を積んだ者だけが、 その価値を共有できると思われる。このワインを味わえたことで、ワイン人生の第二ステージに 登れたような気がしないでもない。庶民にとってこの金額は決して安くない。ワイン初心者が 奮発して買うワインではない。もっと飲みやすく、もっと分かりやすいワインはたくさんある。

 このワインは下記の点でワイン通の肝臓をくすぐってやまない。

<<この白ワインの特徴>>
 (1) プレフィロキセラであること
 (2) 葡萄品種がロモランタン(ROMORANTIN)であること
 (3) 生産量は900本と極端に少ないこと
 (4) 生産者がロワールを代表する作り手、アンリ・マリオネであること

 この葡萄は樹齢150年を超えて、フランス国内でも最古参である。1864年から始まった フィロキセラによる大打撃を免れ、接木をされず今日まで葡萄を実らせつづけている。 ヨーロッパ各地に壊滅的な打撃を与えたこの病害は、アメリカ系の台木を接木して なんを乗り越えられた。それゆえ接木されていない純粋な葡萄はプレフィロキセラと呼ばれ、 学術的にも貴重だという。ボルドーでのメドックの格付けが1855年であるから、 150年前の重みも伝わってくる。またその樹齢により生産本数は900本しかない。 しかもその多くはマリオネのセラーに貯蔵されるので、このワインを市場で見かけること自体が 奇跡とも言える。奇跡を味わうことが喜びでもある。

 ロモランタンという葡萄品種自体も珍しく、トゥーレーヌTouraine地区のごく一部でのみ 生産されているという。この品種には興味がそそられるが、各種ホームページにも 葡萄品種の欄には記載があるものの、詳細な文献は探せずにいる。

 そもそもこのワインは、Vin de pays du jardin de la Franceである。素性のはっきりした テーブルワイン。ACロワールと地理的にダブってはいるものの、ランク的には下位にあり、 普段飲みタイプのワインである。普通は何も気にせず飲むワインであるから大衆向けの本にも 載っていないし、インターネットで購入するにはコストがかかりすぎる。近所のお店で 山積みされているクラスなのだから、特に何も考える必要もないはずだった。

 しかし、フランスは広い。この地酒クラスのワインにもこんな一品があるのだ。 AOCワインの魅力に取り付かれてもなお、誰も知りえない名醸があるのだ。おそらく この葡萄品種ロモランタンではACロワールが名乗れないのだろう。そのために格下の ヴァン・ド・ペイに甘んじているはずだ。AC法の例外を見つける作業が心地よい。

 マリオネがこの畑を入手したのは最近である。1996年。おそらくこの畑を入手するのが マリオネの悲願だったのだろう。その悲願達成の喜びは、飲めば容易に想像できる。

<味の感想>
 色は赤っぽさが残っている。ライチを思い浮かべた。言うなれば、赤ワインを仕込んでいて 急に心変わりして白ワインに切り替えたような赤みが残っていた。微発泡するかしないかの 舌ざわり。酸があり、かなり辛口に仕上がっている。マリオネはシェーブルや白身肉を 推薦しているが、残念ながらテイステイング時には両方持ち合わせていなかった。   

 その飲み慣れない味わいを率直に表現すれば、不思議な感じ。ただ物珍しいだけでは 終わらせない何かがあった。それがなんであるかは、飲んでのお楽しみ、ということで。


 坂本竜馬が土佐藩を脱藩したころに、地球の反対側で植えられた葡萄の木。 フィロキセラ病害を免れ、幾度の戦争、チェルノブイリ原発事故をも乗り越えた奇跡。 歴史が身近になると共に、葡萄の生命力に驚きを隠しきれない。今でも細々とではあるが 葡萄を実らせ、そしてワインとなる。

 ワインを味わう上で、その味覚以上に心躍らせる逸話がある。

 そんな物語を共有できれば、その食卓には素敵な時間が流れることだろう。

以上


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