コシュ・デュリー(白)
試飲日 2000年8月26日
場 所    神奈川県内某所     
照 明 蛍光灯
種 類 フランス ブルゴーニュ産AOC白ワイン
生産者 J.F. COCHE-DURY (Meursault)
Vintage 1997
テーマ コシュ・デュリー 威風堂々。
ワイン Meursault Les Rougeots


 ドメーヌ・J.F.コシュ・デュリーに完全にはまっている。コート・ド・ボーヌ地区での卓越した赤を堪能した記憶は新しいが、今回は本命の白ワインをテイスティングした。
 コシュ・デュリーの白は過去に数本味わったことがある。その度に深く、深く、深い感動の渦へと導かれていった。今回もその渦にゆっくりと、しっかりと吸い込まれていった。

 ある信頼すべき筋からの情報に寄れば1997年のコシュ・デュリーの評価は次の通り。
 1: コルトン・シャルルマーニュ
 2: ムルソー・シャルム
 3: ムルソー・ルージェ
 3: ムルソー・ぺリエール

 今回のムルソーの村名畑指定・ルージェがぺリエールと並んで3位にランクインしている。10余種類の中での3位は堂々である。しかも他のワインは特級と一級である。その実力は飲む前から、うかがい知ることが出来る。
 極上のムルソーを味わうたびに、なぜこのAOCに特級がないのか不思議である。
 ムルソーは南にすばらしい一級があり、北にも一級畑がある。このルージェはその中間、市街地の西側に位置している。

<<味わい>>
 深みのある金色である。くすみかがっているといえばいいのだろうか。通り一辺倒の金色ではなく、趣のある色合いである。オイリーなとろみ感もいい。グラスを見ているだけで、すでにいい気持ちだ。
 香は複雑である。よく肥えた、という表現が的確か。
 遠き日のある日、高校の裏山に椎茸を栽培している農家があった。よく晴れた夕暮れ時、風向きの具合によっては、放課後の校庭でかすかに感じたあの温もりのある香に似ている。かすかな腐葉香と言えば良いのか。畑の香か。一息ごとに複雑さは増していく。炒ったナッツ香も鼻をくすぐる。香に奥行きがあり、自分でどんな香を引き出せるのかが、技量でもあり、大いなる楽しみでもある。時間とともに焦がしたマロン香も加わる。
 これは、すごいぞ。

 味わいも深い。まだ閉じている感がしないでもない。これが長熟タイプと言われる所以であろう。酸もしっかりして飲み応えも十分だ。それでいて上品。エレガントな味わいは、飲むほどに快楽のため息が部屋に留まっている。飲み終えて鼻から抜く瞬間も快感だ。

 コシュ・デュリーの白は途方もない。極上の一杯である。一本丸々楽しみたい。その価格ゆえ(25,000円)、そんな希望をかなえるためには勇気がいるが、実現できなくもない。
 時間とともに深みを増していく味わいを知らずして死ぬのは何とも、もったいない。生あるものとしてこのシャルドネを常に意識していたい。

 ワインを絵画に例えてみよう。使う絵の具は同じシャルドネである。
 普通の白ワインは画用紙に極太の筆を、たっぷりと絵の具の海に浸して、ささっと描いた感じがする。乾かない絵の具は光を浴びてきらきらしている。均一的な色が画面一杯に広がり、目にも鮮やかである。一色の水彩画。この絵が欲しくなる時間も日常生活にはきっとある。

 一方コシュ・デュリーの白は、極細の筆を何種類も選び、数種類の黄色を使い分け、少しずつ、少しずつ描く油絵のような奥行きがある。そもそも時間のかけ方が違う。どの絵の具を使ってこの色を出したか、逆算するのも悪くない。絵画は見る角度や照明具合によっても趣を変える。絵画に託した画家の言葉を見つけるのも楽しい作業だ。何時間見つめていても決して飽きることがない名画。非日常の世界を探したい日も必ずある。

 ブルゴーニュの名醸白ワインはシャルドネから造られる。葡萄品種が同じでも、その味わいは時空・次元を超越したレベルで異なる。その差は場所であり、造り手である。

 このドリンキングレポートでドニ・モルテの偉大な白を紹介したが、やはり世界最高峰の造り手の世界屈指のワインには及ばない。ドニも奥行きのある名画には違いないが、やはり限界はある。ACブルゴーニュなのだから至極当然である。これは畑の差だ。値段の差でもある。市場は結構正直である。されど、かのコシュ・デュリーに迫るドニ・モルテの実力は畏敬である。両者を知ることでワインの頂点を知ることも出来そうだ。
 やはりワインは最高を知らずして、全体は知ることが出来ない。逆もまた真なり。

以上


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