ベガ・シシリア
試飲日 2000年9月9日
場 所    神奈川県内某所   ベガ表   ベガ裏
照 明 蛍光灯
種 類 スペイン D.O.赤ワイン
生産者 BODEGAS VEGA SICILIA S.A.
Vintage 1981
テーマ ベガ・シシリア ウニコに驚愕。
ワイン VEGA-SICILIA "UNICO" 


<味の印象>
 熟成された黒褐色。エッジには紫もあり、この葡萄品種特有の色らしい。複雑な香で、スパイシーなオークやカシスジャムを基調にしながら極めて上品である。時間と共により甘く、特にミルク香を強く感じる。味は口に入った瞬間は甘く濃厚だが、舌の全面で味わう頃には心地よい辛いに変化している。余韻はすこぶる長い。濃密な味わい。溢れんばかりのうまみ成分。余計な水気が徹底的に排除され、喉をゆっくりと落ちていく。選りすぐられた葡萄の房の本当のエキスだけを発酵させたような感触。グラスの涙も時間をもてあそぶかのようにゆっくりと伝わっていく。飲みながら自分の涙腺が緩む。正直、まじうまいっす、泣けてくるっすとしか表現できない。
 グラスの差が味覚の差を明確にした。数種類のグラスにて堪能したが、特にリーデル社のソムリエシリーズのシャルドネが、好みの味を演出していた。INAOグラスでは野暮ったさが残った。しかし、そのINAOグラスも最後の最後で威力を発揮する。小ぶりで香を逃がさないその形状が、ゆっくりとこのワインを花開かせたのだろう。
 赤ワイン史上の最高傑作の名を欲しいままにする極上の一杯。ボルドーのグランヴァンにこの味を期待するのは少し酷である。第一飲めること自体が、奇跡でもある。


<補足>
 このヴィンテージは1995年まで樽熟され、ボトルで4年間瓶熟され、蔵出し後に空輸されたワインで、保存状態は完璧。細かい澱もあるが、味に影響はほとんどない。この澱を静めるのには一ヶ月の時を有するらしい。新宿某店では4万円。


<葡萄品種>
 60% ティント・フィノ(テンプラニーヨ)
 25% カベルネ・ソーヴィニョン
 15% その他(メルロー。マルベック。ガルナッチャ・ティンタ。アルビーヨ・ブラン)


<ベガ・シシリア>
 このワインはチャールズ皇太子とダイアナ妃の結婚を祝う酒として、エリザベス女王がスペイン国王を経由して購入依頼を出したことで有名である。女王のワイン選別にあたって、ワインの世界的権威者はそろってこのベガ・シシリアを推薦したという。ボルドーでもなく、ブルゴーニュでもなく、このスペインのワインが選ばれたことで、このワインの名声と実力を窺い知る事が出来る。ちなみにボデガ ベガ・シシリアは女王陛下からの申し込みは断って、お祝いとして1ケース贈った。イギリスの晩餐会担当者はこの大名醸が12本も贈られてくることを心待ちにしたが、実際に届いたのはたったの3本だけだった。スペインでは1ケースは3本入り。同じヨーロッパでも文化の違いを見せるエピソードのひとつである。また、ワイン愛好家として知られた故ウィンストン・チャーチル卿はスペイン大使館の晩餐会にてその無知を露呈している。当時すでに名声を博していたこのワインの存在を卿は知らず、ボルドーの逸品と勘違いして、絶賛していたという。

 このベガ・シシリアの格付けはD.O.クラス(Denominacion de Origen)である。フランスのAOCに相当する。このD.O.Ribera del Dueroリベラ・デル・デュエロは1982年に指定された最も新しいD.O.であるが、このベガ・シシリアの名声は、当然それよりも以前に確立されている。ベガ・シシリア効果のもと、このD.O.内のワインの評価も上がっていてリオハやベネチスに比肩している。しかし、このベガ・シシリアは完全に別格である。
 VEGA SICILIA is VEGA SICILIA。別格も別格。ボルドーの五大シャトーですら足元にも及ばない逸品である。この星には、どうしようもないほどずば抜けた名品がある。

 デュエロ地方の気候は非常に厳しい。特に夏場は昼夜の寒暖の差が激しく、収穫期には霜害の危機にさらされる。1971年には壊滅的な被害も受けたという。川面からは霧が発生し、複雑な微気象の影響を受ける。この特殊な環境が、世界のトップ評価のワインに仕立てている。まさに奇跡の地である。高度765メートルにある畑は松林に囲まれていて、川の左岸に位置し、そしてなんと北向きの斜面にある。畑の向こう側にはバルブエナ村があり、ちょうどブルゴーニュのコートドールのような丘陵が続く。このため冷たい北風の進入を阻止できているのだろう。土壌は粘土質と砂地で石灰質を含んでいる。

 創業者のエロイ・レカンダ氏がボルドーでの経験を生かし、1864年にボルドーの主品種をこの地に移植した。カベルネ・ソーヴィニョンなどを、地元産のティント・フィノ種とブレンドして造られる。このワインの最大の特徴は長期熟成であるが、それはカベルネ以上にこのティント・フィノの影響が大である。この地でのこの葡萄品種が世界の頂点たらしめる。隠し味的にブレンドされるアルビーヨ・ブランはソフトな香と豊富なグリセリンをもたらすが、その存在を味覚で判断するのは困難である。
 低く抑えられた収穫量(20ヘクトリットル/ha)と厳しい選別。発酵は特製のセメント槽で行われ、秋の涼しさから発酵温度が28度を越えることは稀である。オーク樽でマロラクティック発酵を行い、その後三度にわたり徐々に小ぶりの新樽に移される。最低4年、時には10年以上も樽熟される。これほどの長期の樽熟成は世界的にも例を見ない。
 醸造はガルシア氏(マドリッド大学醸造学専攻出身)が担当している。
 またこのワインは飲み頃まで市場に出さないことでも知られる。今回のウニコで最低10年、レゼルバ・エスペシアルでは30年以上にも及ぶ。造るほうも大変である。生産から資金の回収まで相当期間待ちつづけなければならない。天然の微気候、葡萄品種の特徴に加え、かなりの資金力がなければこのワインは完成されないのだ

 このワインは長期間に渡り人間の手で管理されている。葡萄本来のうまさというよりも作為的に創造されたワイン、という感も否めなくもない。世界中の銘醸ワインとは一線を画す製造方法により、万人には必ずしも評価されないが(嫉妬も含めて)、一度口にすればイギリス王朝が捜し求める理由も自ずとわかるものである。

 日本での発売は1988年より開始。年産約30万本のうちほとんどがスペイン国内で消費され、各国割当制のもとで極一部が輸出されている。このワインの飲み頃は出荷直後であり、出荷後一年以内に飲みきるのがベストである。これほどの逸品を購入後すぐ飲むためには相当の勇気と決断力と、それに伴う知識が必要だ。
 出荷後3年を経過した場合、今回のうまみは失われているという。葡萄の栽培から、ワインの醸造、強いては飲み手の知識まで、本当にこのワインは奇跡の積み重ねによって育まれている。

ベガ・シシリア ウニコ1981年をレポートするにあたり、関係者各位に感謝申し上げます。

以上


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