コント・ラフォンとコシュ・デュリー
試飲日 2001年7月26日
場 所    神奈川県内某所     
照 明 蛍光灯
種 類 フランス ブルゴーニュ地方AOC白ワイン
生産者 Domaine des Comtes LAFON
Domaine J.F.COCHE-DURY
Vintage 1998
テーマ 造り手の違いを味わう
ワイン MEURSAULT

<はじめに>

 今回のテイスティングは特別企画です。ムルソーを代表し、ブルゴーニュのトップ4の二角を占める両者の同一ビンテージの同一アペラシオンを、それも本拠地のワインを比べようなどと、100万年早いと自他共に認めるテイスティングをした。感激に包まれた今回のレポートは、「ムルソーとは何か」のひとつの答えを模索する格別の材料としても大変有意義であった。感謝である。


<コシュ・デュリー>
 やや薄い金色にして、エッジに緑が入っている。INAOグラスから溢れ出る燻し香は、これぞコシュデュリー節であり、同じ燻し香にしてドーブネのそれとは明らかに異なるアロマである。もうこのアロマだけで快楽の世界を堪能してしまっている。この燻し香は豊かさを伴い、温かみのある極上のアロマである。時間の経過と共に複雑さを増し、口に含む毎に細胞が震える感激がある。うまい。これは本当にうまい。土壌香も加わる頃には濃密さも増していて、これぞムルソーの楽しみそのものである。
 この1998のムルソーはキュベ・ナルボーであり、幸運にもすでに数回のテイスティングを経験させてもらっているが、飲むたびに、味わうたびに感激に包まれる。同じワインを何本も味わうといい加減飽きてくるものだが、ことコシュデュリに関しては常に新鮮な味わいがあり、この境遇に感謝して止まないところである。


<コント・ラフォン>
 コシュ・デュリと比べれば明らかに濃い金色である。柑橘系を感じ、燻し香は目立たない。グレープフルーツ系の酸味と渋みを感じつつ、上品さを前面に押し出している。僅かな量を舌に染み込ませるように味わうと、舌が敏感にそのうまみ成分を感じ取り、止めど無いほどの唾が溢れ出す。まさにワインの倍以上の唾が溢れ出すのだ。このインパクトは強烈であり、まったく新鮮である。時間と共に重なるうまみ。ミルフィーユを思わせる味わいは、このワインが熟成したときの優雅な貴賓を想像できる。
 時間がすこし進んだ。磯の香りに包まれたINAOグラスは、大人の世界の悦びを彷彿とさせる。うまい。これはうまい。否、これもうまい。ミネラル分が豊富で、染み込むようなうまさはコント・ラフォン節全開である。村名クラスにして途方もなく長い余韻は、金額の壁を超え、この快楽の為に何をすべきかを働きかけてくれる。それはドメーヌ・デ・コント・ラフォンでしか味わえない感動を共有するために、だと思う。


<まとめ>
 今回はムルソーを代表する二人の造り手のワインを同時に比べる境遇に恵まれた。ビンテージは1998年。小売価格は二本で36000円を超える。両者は甲乙つけるレベルではなく、それぞれの味わいを堪能することこそ、素直な喜びに包まれる。両者のような世界最高レベルに達するワインは、ワインを全開に楽しむためか、この瞬間を共有する目の前の異性のことにのみ神経を注ぐべきだろう。どちら身を委ねるかは、まあ人生いろいろである。ただ両者には明確な味わいの差があり、その味わいを最高のシチュエーションで味わうために、何をすべきか。胸に手を当てれば少しばかり緊張感も走るというものだ。


 コシュデュリーは世界最高峰の白ワイン コルトン・シャルルマーニュを世界に向けて発信し、コント・ラフォンは世界最高峰の白ワイン モンラシェで世界一の名を獲得している。コルトン・シャルルマーニュはアロースコルトンのAOCであり、モンラシェはピュリニーとシャサーニュのAOCである。ムルソーに本拠地を置くコシュデュリーとコントラフォンが、それぞれの特級を代表する造り手に成り得るのは、味わいのすばらしさもさることながら、所有する畑の立地条件の良さと、本拠地ムルソーの超越的な実力のなせる技であろう。また、ムルソーがピュリニーの隣村であり、アロースコルトンからもそう遠くない位置にあるためでもある。
 
 モンラシェを造るDRCがモンラシェの最高価格は勝ち得ても、モンラシェの評価では決してトップを取らないのは、その地理的な要因に影響を受けていることは否定しがたい事実である。DRCはコート・ド・ニュイ地区のヴォーヌ・ロマネ村のドメーヌだからである。モンラシェはピュリニー・モンラシェ村に本拠地を構えるドメーヌ・ルフレーブとシャサーニュ・モンラシェ村のドメーヌ・ラモネの存在も偉大であり、ムルソーのコント・ラフォンとあわせその豪華な顔ぶれは大枚ハタイテモ、手に入れられない現実が骨身にしみるところである。

 かたやコルトン・シャルルマーニュにして、それを造る卓越した造り手がアロース・コルトンには、いないということも重要だったりする。ドメーヌ・ルイ・ラトゥールはドメーヌの象徴的な存在のシャトー・コルトン・グランセをアロース・コルトンに構えるものの、造り出されるワインはコルトン・シャルルマーニュの基準にはなれど、最高点は取り得ない。けだしコシュデュリーの存在が、である。両者を飲めば、その理由は頑なである。


 また、マダムルロワ率いるドメーヌ・ドーヴネもその本拠地はオーセイデュレスの隣、サン・ロマンにあり、ドメーヌ・ルロワはヴォーヌ・ロマネにある。ワインが土地の影響を最も受け、その土地に本拠地を置く者こそ評価の対象になりうる事実もまた、現実である。ルロワに関しては生産量の少なさも少なからず影響していることだろう。ただ、ルロワやDRCはこの星を代表しているので、ブルゴーニュのピンポイントの評価で語るには、土俵が違うという説もある。
 話が脱線し、到底終わりそうにないので、今回のレポートは強引に、ここで筆を置こう。


以上
 


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