トリンバック
試飲日 2002年03月03日
場 所    神奈川県某所
照 明 蛍光灯
種 類 フランス アルザス地方AOCワイン
生産者 Trimbach (Alsace)
Vintage 1972
テーマ 30年前のミュスカ
ワイン Muscat réserve

<ミュスカ>
 抜栓後INAOグラスへ。透明感のある黄色が美しく輝いていて、とても30年前のワインとは思えない初々しさがある。抜栓直後は沈みがちな香りも、時間と共に花開き、なんだかとんでもない世界へと誘ってくる。コルクはすでに一杯一杯だったが、香りにはコルク臭はなく、健全なワインである。香水、ケーキ系の甘い香り、かすかな麦わらが時間と共にグラスに充満し、不思議な悦びに包まれる。味は爽やかさを保ちながら、しっかりとした辛口のあじわい。酸もまだ持ちこたえ、温度の影響からか若干の苦味も伴いつつ、たいへんすばらしいアルザスワインである。きりりとした味わいのなかに鄙びたおいしさが見つけられるワイン。乱暴に扱えば、即崩れてしまいそうな微妙なバランス感覚。30年もの時を経た熟成感と予想外の新鮮さとのマッチングに、動揺も隠せずにいる。もっと弱々しいか、完全に逝ってしまっているかとの思いは、あっさり裏切られ、INAOグラスに満たされた甘い香水のブーケはしっかりと存在感を主張してくる。

 グラスを換えてリーデルのミュスカグラス(廃盤・写真左)に注げば、香りはきれいに流れ出し、こもった感覚はなくなる。味はややばらけてしまうかな程度に落ち着いている。リーデル・ソムリエシリーズ アルザス(400/5)(写真中央)に注げば、INAOの満たされた香りを更に増幅させてくる。味のバランスも良く、さすがリーデルの技術力の高さに感心する。おいしい、という表現以外に適切な言葉は見つからない。もう二度と出会えないワインとして、この「時の共有」の喜びと、グラスに注ぐほどに減っていくワインへの愛おしさが募るばかりだ。飲みこんだ後の余韻は、30年の歳月もプラスされ、なんだか夢心地である。
左から ミュスカグラス・アルザスグラス・INAO
 アルザスのミュスカは熟成期間は3年から5年と言われ、出来たでがおいしいワインのひとつである。30年も熟成させたミュスカはどんな味なのか。興味津々であった。今回のワインは完璧な保管ゆえに堪能できた逸品で、自宅で30年寝かせてもこの味は堪能できないだろう。しかるべき保存状態だからこその味わいであり、こういうワインとの出会いも、心踊りながら、たいへんうれしい次第だ。そしてミュスカの最新ビンテージも楽しみたくなっている。魅力的な甘い香りの辛口ワインは、ドイツの甘さが苦手な人に受けも良く、少しこだわってみたくなったりする。

 今回のスペシャルテイスティングに際し、駅の無い町に住む某氏といつも素敵な某女史と関係各位に感謝申し上げます。


以上
 


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