ルロワ
試飲日 2002年03月08日
場 所    神奈川県内某所m     
照 明 蛍光灯
種 類 フランス ブルゴーニュ地方白AOCワイン
生産者 LEROY (Auxey-Duresses)
Vintage 1978
テーマ 選ばれしもの
ワイン Puligny-Montrachet 1er cru Les Chalumeaux

<はじめに>
 今回はスペシャルテイスティングです。冒頭にあたり某女史と某氏に感謝申し上げます。今回のワインは自らのドメーヌを立ち上げる10年前の天才マダム・ルロワの作品で、偉大なビンテージ1978年という四半世紀前の白ワインがいかなる展開を見せるか、熟成に対するひとつの答えとして非常に興味深いテイスティングであった。2002年2月ドメーヌセラー蔵出。畑はブラニー村(ACムルソー)に接し、ピュリニーのシャン・カネの山側にある。


<コルク>
 ワックスシーリングされた逸品で、ワックスが被ったままの状態でソムリエナイフを立てるとボトルの中にストンと落ちた。一瞬の出来事に状況もつかめなかったが、某女史の機転の利いた対応により、事無きを得てワイン自体には問題は発生しなかった。瓶中のワックスは澱と同様の扱いをし、コルクは沈めたままにした。


<ピュリニーモンラシェ シャリュモー 1978>
 一度ワインクーラーでワインを芯まで冷やし、室温近くになるまでボトルを落ち着かせる。そして抜栓後いろいろあってINAOグラスへ。青っぽい堆肥のような怪しげなブーケが漂い、ああ、あっちの世界(劣化)に行ってしまったのか、残念だなぁぁぁと一瞬頭をかすめるが、どっこい俄然こちら側に戻ってきた。ドライフルーツをリキュールに漬け込んだような香りに、少し燻し気味の上品な、甘いハニー香が堆肥系のそれを押しのけてくれたのだ。黄金の雫と表現したくなる実に深く、実に重く、そして輝く黄金色である。とろみ感もあり、涙の脚も非常にいい。色と香りだけで判断するなら貴腐ワインかと間違わんばかりだ。ゆらゆら漂う微妙な香り。口に含めば、とろみ感が心地よく、しっかり辛口な味わい。つくづく優雅に上品だ。舌の両脇がぎゅっと刺激され、舌中央に向かって唾が、勢いよく噴出すかのようなパワフルな味わい。うまみ成分の塊が目に見えるようで、余韻の長さは天下一品だ。酸味もしっかり心地よく、余計なものが削ぎ落とされた筋肉質な奥行きに、まったくもって言葉は不要なのだ。鼻から抜く香りは、体温で温まった分だけ柔らかくなり、更に複雑さが増してくる。こんなに凄い白は滅多に体験できないぞ。

 リーデルの・ソムリエシリーズのシャルドネ(400/0)に注げば、よりいっそう旨みが増してくる。INAOでのこもる感じがなくなり、優雅な品を提供する。時間と共にミルク香も現れ、ドライフルーツとリキュールと蜂蜜とミルクが複雑に混ざり合い、夢心地な空間をもたらす。目にはうっすら涙さえ浮かべてしまう。さらに油脂分を感じるバター香も現れる。これはもう、うれしくって拍手喝さいだ。パチパチパチである。

 同じくリーデルのモンラシェグラス(400/7)に注ぐと、広い開口部のためか香りの濃さは薄まるものの、グレープフルーツを連想する、ほかのグラスには無いブーケが漂ってくる。飲み口が柔らかで、すいっと入る感覚もまた楽しからずや。このレベルに達すると、どのグラスで飲むかはすでに好みの問題であり、芯まで冷やした甲斐あってか、途中でへたることも無く、飲むたびに感動を伝えるルロワの古酒にただ溜息をつくばかりである。熟成したシャルドネのそこはかとない実力に跪くしか手立ても無い。

 このおいしさを敢えて8字以内で伝えるとすれば、「うまああああい。」しかない。


<マダム・ルロワ>
 ルロワはすばらしい。なぜ今このワインをセラー蔵出したのか。そしてなぜ極東の日本で出会えるのか。ルロワの本当のおいしさを、からだ全身で受け止める幸せ。マダム・ルロワの愛情が注ぎこまれ、四半世紀の間ルロワのセラーでそのときを待っていたワイン。
この強烈なラブレターを理解するためには、全神経を集中させる必要があり、飲み終える頃には42.195kmを走り終えたマラソンランナーのような表情が浮かんでくる。疲れているのに、達成感に満ちたあの顔だ。某氏は「最後の晩餐」のワインに選びたいという。なるほど。いい選択だ。もうこれ以上は果実味が戻って来たり、深みが増したりすることは無いだろうが、あと数年はこのうまさをキープするに違いない。ゆるやかに衰えていく様が、人生の夕暮れに重なるとき、マダム・ルロワの微笑みに生きた証を感じることだろう。

 すべてのワインがここまで到達するとは思わない。地球上の99%以上のワインは同じ歳月を得てもここまでたどり着けないだろう。そんな圧倒的な存在感がこのワインにはある。1962年に勝るとも劣らないと評価される偉大な1978年のワインを2002年に飲む奇跡。そうこれはまさに奇跡と呼ぶにふさわしい。感謝である。


<余談>
 三人集まれば、普通二本か三本はワインを飲めるはずである。しかし、このルロワのピュリニー・モンラシェ1級は、後にも先にも他のワインを遠ざける。圧倒的なパワーと立ち向かった後に飲むワインはないのだ。こんなときは缶ビールに限る。いつもはSPドライだが、今宵は少しリッチにエビスビールとともにルロワ談義に花が咲いたりした。八百屋さんの手違いで皮が剥かれた銀杏を頬ばりながら、某所の夜はふけていった。


以上
 


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