シャトー・カンボン
試飲日 2002年05月09日
場 所    神奈川県内某所       
照 明 白熱灯
種 類 フランス ブルゴーニュ産AOCワイン
生産者 Château Cambon (St Jean d'Ardières)      
Vintage 1998
テーマ なぜ今、シャトー蔵出?
ワイン Beaujolais Villages
 
<はじめに>
 今、飲みながらこれを書いています。1998というボジョレーにしては飲み頃のピークは過ぎているかと思うようなビンテージを飲んでいます。このワイン、なぜかこの4月にシャトーのセラーから蔵出しされ、本日某店に入荷していました。ボジョレーにして通常よりも3年も遅く出荷された理由がどこにあるのだろうか。


<味わい>
 某店より搬送後すぐ冷蔵庫に入れて小1時間ほど待つ。抜栓後すぐINAOへ。おっと。熟成感のあるガーネットが絶妙に混ざり合う、淡い赤系のやさしい色合いだ。グラスを口元に持ってくれば腐葉土を思わせるブーケが、野生のイチゴ香と共にINAOに充満している。口に含めば、酸味が豊かで旨み成分が口の中にあふれてくる。鼻から抜く香りに熟成香を感じ、余韻もすばらしく長い。んん。おかしい。これは、1998年のボジョレー・ビラージュのはずだ。エチケットを何度見てもそうとしか書いていない。ボジョレーなのだ。なぜだ。なぜだ。なぜ、こんなにうまいんだ。これは衝撃が走るほどのうまさだ。熟成香に隠れてはいるが、しっかりイチゴも熟れていて、砂糖を少し焼いた風味さえある。タンニンも滑らかに存在し、枯れゆく果実味に重なるような存在感に、言葉を失いかける。噛むようにして飲むと一層旨みが強調される。おいしくってぐいっと飲んで、グラスに少しだけワインが残る頃になるとガラスがガーネット色に輝いている。その黄昏色が無垢(だった)な心に刻まれていく・・・。心が洗われていく・・・。

 買いだ。買占めだ。うまい。これはうまい。本当にうまい。

 これはボジョレー・ビラージュの1998である。今は2002年の薫風の頃。おかしい。ボジョレー イコール早飲みタイプという方程式がガラガラガラと崩壊していく。その姿をただ呆然と立ち尽くして眺めるより他に何もすることが出来ない。なぜだぁぁぁぁぁ。うまあああぁぁぁぁい。吐く息までうまいぃぃぃ。ちょっと待ってくれぇぇぇぇ。うううぅぅぅぅ。おおおぉぉぉぉ。

 マーセル・ラピエールがプロデュースするシャトー・カンボン。完全天然ワインの代表格にして、ボジョレーの最高傑作ワインだ。瓶詰めから先月までじっとシャトーのカーブでこの時を待っていたワイン。14℃で保存するようにと注意書きがあるが、全くその通りの温度設定で眠っていたワイン。ワインの熟成とは格あるべしと教科書に載せたいワイン。ボジョレーなんてもう卒業さとほざいている諸兄にガツンと飲ませてやりたいワイン。いやいやそんなもったいないことは出来ない。大切な人と大切な夜に、シャトーカンボンのボジョレービラージュ1998。これぞジェットコースター理論(註)の完璧な裏技だ。2000円台のワインにして、数万円のワインと同等の感動を呼び起こすパワーは何なのだろう。1998年に瓶詰めされたであろうボジョレーのワインを3年間も市場に出さずにじっとシャトーに留めていたのは、マーセル・ラピエールのワインへの愛の深さと関係があるに違いない。だとすれば、氏は相当の御仁だ。もう呼び捨てなんか出来ない。マーセルと親近感を持って呼び合う仲になりたい。とにかくこのボジョレーには涙腺を緩ませ、心躍らせ、じっとエチケットを凝視させるパワーを秘めている。ありがとう、マーセル。ありがとうカンボン。である。


<追記>
 少し冷静になって試飲してみると、弱点もちらほら見えてくる。まずは3杯目以降のインパクトの弱さだ。正直少し飽きてくることは否めない。そこはそれ。2000円のワインなのだから致し方ない。一人で飲むのではなく、二人または4人くらいで楽しみたいと思ったりする。でもうまい。弱点を見出しつつもやっぱりうまい。買占め欲求に間が指すことはないのだ。今のうちに本当に買い占めておきたい。


(註)
放送作家の小山薫堂氏が提唱するデートで成功を収める理論のひとつ。その理論こそ、彼女の心を奪う必殺技である。例えば、高級料亭で食べるカレーライスのごとく、最高ランクのステージから日常的な話題に急降下させ、その落差によって彼女の心をつかむ大技。現在、テレビ朝日で放送中のトリセツに詳しいので興味のある人はクリック。クリック。筧利夫も歳とったなぁぁぁ。



以上



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