ドニ・モルテ(赤)
試飲日 2000年11月12日 et 22日
場 所    神奈川県内某所
照 明 蛍光灯
種 類 フランス ブルゴーニュ産AOC赤ワイン
生産者 Denis Mortet (Gevery Cambertin)
Vintage 1997
テーマ ドメーヌ・ドニ・モルテの看板ワイン。
ワイン Gevrey-Chambertin Au Vellé
Clos de Vougeot


     
Gevrey-Chambertin Au Vellé       Clos de Vougeot


<味の印象>
ジュブレ-シャンベルタン オーベレ (村名畑指定)
 紫がかった黒系の赤。濃い色合いである。アロマは華やかに立ち込め、キュッと締まった上品さを兼ね備えている。飲み応えも十分あり、タンニンと酸のバランスも絶妙だ。鼻から抜く香はチョコレートをまぶしたバナナを彷彿とさせる。うまみ成分が心の奥に到達する感触は何度経験しても心地よい。グラスのワインも残り少なくなった頃、ブーケは焦がしたチョコレートに。さすがドニ・モルテである。
 このジュブレシャンベルタンの村名畑指定は5月・8月に続いて今回で三度目だったが、今回が最もうまかった。三本とも同一ロット、同一セラーでの瓶熟。この味の差は熟成のためか、体調のためか、室温の差か、開け方か、注ぎ方か結論はでないが、この味の差こそブルゴーニュの楽しみである。

クロ・ド・ヴージョ (特級)
 基調は上記のジュブレと同じだが、うまみ成分を倍増させたすごみがある。香はやや静かだが、甘さが強調され、より上品な味わいである。よりシルキーな滑らかさがプラスされ、力強さもグレードアップされた、とてもおいしいワインである。うまみが耳の置くまで達し、そこは本来聴覚をつかさどる器官のような気がするが、その耳の奥がこのクロ・ド・ヴージョの偉大さを敏感に感じ取っている。
 しかし、飲み込んで後にとめどなく襲いかかるはずの極上の戻りが感じられない。余韻は十分あり、いつまでも耳の奥にやんわりと留まっているのだが、全身を奮い立たせるほどのパワフルさが・・・。この続きは<ドニ・モルテ>の欄に譲ろう。


<ドニ・モルテ>
 ドメーヌ・ドニ・モルテは1996年以降ブルゴーニュを代表する造り手である。
 DRC、ルロワ、ボグエ、デュガ・ピーと並び賞されトップ5に君臨している。しかも前述の生産者と比べ生産量が少なく、市場で見かけることはほぼ絶望的である(デュガ・ピーも少ない)。特にドニ・モルテの看板ワインであるシャンベルタンとクロ・ド・ヴージョはエチケットを見かけることすら難しい。ある信頼すべき情報によれば、日本国内の酒屋がこぞって捜し求めているという。20人ほど酒屋さんが、商売を離れ血眼になって捜し求めて試飲できるかどうかの逸品である。

 私は1999年の師走に初めてドニ・モルテのワインを飲んだ。マルサネ・ロンジュロワ1996で強烈な出会いを体験し、ACジュブレシャンベルタン1996でワイン史を完全に塗り替えられ、ACブルゴーニュの白1996で完全に感動の壺にはまった人間である。ブルゴーニュを語る上で、最も重要な造り手である。そのドニ・モルテの看板ワインを飲む機会に恵まれた。その機会をいただけることこそ感激の極みであり、関係各位に感謝して止まない。

 このクロ・ド・ヴージョは飲む前から史上最高のワインでなければならなかった。最も尊敬する造り手の偉大なワインは当然世界最高のはずだった。思い入れと、思い込み。事前の前評判からして、私の期待は頂点を極めていた。自分の身の丈を忘れた環境が、かってにこのワインを世界一に仕立てていた。

 実際に飲んでみて、そのギャップに戸惑いを隠せない。極上の一杯ではある。非常に卓越した味わいでもある。間違いなくうまいワインではある。しかし、世界一ではなかった。シャトー・ド・シャンボール・ミュジニーの偉大なミュジニー1997やエマニュエル・ルジェのヴォーヌ・ロマネ・クロパラントー1997で体験したあの感動には残念ながら及ばない。その最大の要因は、飲むごとに戻ってくるあの強烈なうまみ成分が弱いことである。その及ばない事実が、悔しくもあり、勝手な想像をしてしまう至らなさに、修行の足りなさを痛感するところである。


<ワインの評価>
 ロバートパーカーがワインを100点満点で評価するとき、例えば95点と96点の間には何があるのか疑問だった。1点の差は何か。今回のクロ・ド・ヴージョはその「差」の意味を知らしめてくれそうな気がする。世界一貴重なワインで、そんなこと知る必要もないようにも思われるが、今後ワインを楽しむ上で必要な情報のような気がしないでもない。常に意識するドニ・モルテのワインだからこそ、その僅かな点数の差が気になるのだろう。


<追記>
 資料を整理していて気がついたが、私を虜にしたドニ・モルテのワインは1996年ばかりだ。これはビンテージの差の現われか、飲んだ順番の新鮮さからくる思い込みか、今後の課題である。


<記事の訂正>
 ドニ・モルテのクロ・ド・ヴージョを11月22日に神奈川県内某所で再度試飲する機会を得た。基本的な基調は同じであるが、その味わいには圧倒的な差がでていた。酸とタンニンの絶妙すぎるほどのバランスを兼ね備え、チョコレート系の優雅な甘い香が立ち込め、うまみ成分の塊であった。前回は耳元で止まっていたうまみ成分が一気に飛びぬけて、ずどんと目の上のタンコブを吹き飛ばした印象。幸せをワインにしたような感動が、そこにはあった。やはりドニはすばらしい。前回試飲分のコメントを全文訂正したい気分ではあるが、前回との違いこそブルゴーニュの楽しみでもあることから、ここに付記するのにとどめよう。
 ロットが同一で、同じ店頭にならんでいたもののため、この味の違いは室温とワインの温度に起因するのだろう。前回はそういえば少し部屋が寒かった。

以上


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