ルロワ | |||||||||||||||||||||||
試飲日 2002年08月04日 | |||||||||||||||||||||||
<ブルゴーニュ 赤> 少し冷やして抜栓後INAOグラスへ。この色合いは何と表現すればよいのだろう。少し濃い目の赤系ルビー色の色が褪せたような、煉瓦色までいかない微妙な色合い。香りは今一つ上がってこないが、熟成感のある赤系果実が基調となっている。口に含めば、鉄っぽさをかすかに感じ、ミネラルなしっかりした味わい。抜栓前の予想では、焦がし香と果実味が交錯しているかと思われたが、焦がし香はなく果実味がかなり落ちつきを払っており、熟成感のほうが優先している。熟成モードに突入してしばらく経ったかのような落ちつき感だ。飛びぬけた特徴がない代わりに、何の落ち度もない、いわゆる定番ルロワの熟成版。5年前の1997にして早くもこの域に達しているとは、少し驚きだ。そしてこのミネラルでバランスのよい味わいは、食事と合わせたら、さぞすばらしいだろうと想像させる。例えば・・・。 例えば、夜の東京タワーが見えるホテル最上階のステーキハウスで、このルロワを注文してみたい。彼女との楽しい会話に東京タワーの大きな花束が彩られ、すばらしい夜になるにちがいない。決して外したくない夜だからこそ、ルロワが欲しい。赤み肉の滴る肉汁にルロワの赤がマッチすれば、肉のうまみをぐいぐい引き上げる。予算の関係でACブルゴーニュしか頼めないとしても、このおいしさはワインが食中酒である事を再確認させてくれる。食事にはこのクラスがベストマッチなのだ。今宵のメインは彼女との楽しい食事。合わせるワインは、偉大な脇役。このクラスの味わいを知った上で、あえてこのワインを注文する自分に酔いしれながら、食後は東京タワーの真下にでも連れてってやるかななどと、いつもより多めの唾を飲みこんだりする。 タクシーの車内では彼女は近づく東京タワーをじっと見つめている。まだあどけなさが残る横顔を見つめながら、プロ野球の話題をふってくる運転手に、静かにしてくれと言えない自分に、はみ噛んだりする。ようやく真下に着いて、見上げる彼女の二つの瞳に映るちっちゃい東京タワー。少し潤みがちの二つの塔に自分の影が重なり、彼女が瞳を閉じようとしたまさにその瞬間、身をよじるように身体を離しながら彼女はこんなことを言うだろう。「ねえ。今日のワインおいしかったわね。」「そうだね。ルロワの1997年のブルゴーニュワインさ」「へぇ。ルロワっていうんだ。おいしいワインね。」ハイヒールを手に持ち、広い駐車場を裸足になって駆け出す彼女。その背中をじっと見つめる自分。焦ってはいけない。「今宵のルロワはコート・ド・ボーヌ系の味わいだったかな。ルロワ帝国のベーシックワインは、巨大メーカーゆえに素性が知りにくいが、マダム・ルロワのメガネにかない、決して外さないおいしい味わいがうれしいんだよね。」などといつのまにか駐車場のアスファルトに座ってしまった自分に言い聞かせるように呟く。こっちに向って元気よく手を振る彼女の姿を見つめ、さて・・・。 その後の展開はマダム・ルロワの知るところではないだろう・・・。 以上 |