フェブレイ
試飲日 2002年08月06日
場 所    レストラン キノシタ
照 明 スポットライト
種 類 フランス ブルゴーニュ地方AOC赤ワイン
生産者 Faiveley (Nuits-Saint-Georges)
Vintage 1986
テーマ 夏を乗り切る
ワイン Volnay 1er cru Champans
 

<ヴォルネイ シャンパン>
 
抜栓後しばらく経ってリーデル・ブルゴーニュグラスにてサービスを受ける。色合いは大変美しく、エッジから透明、オレンジ、ガーネット、黒めのルビーへと続くグラデーションに目が釘漬け状態だ。しかもキノシタの照明はスポットライトの狙い撃ち。白いテーブルクロスに落ちる雫はガーネット色にゆらゆら揺れている。この時点で完璧である。今回もホストテイスティングさせていただいたが、グラスを鼻に近づけただけて笑みがこぼれ、一口含んだだけでマダムとシェフにうっとりとした眼差しを送ってしまった。熟した赤系の果実を砂糖漬けにして少し焦げ目をいれたような、熟成の極みとも言うべき、しとやかさを持ったブーケが鼻腔に留まり、複雑なヴォルネイワールドが展開されている。口に含めば、果実味を残しつつ熟成感がたまらない。女性的でエレガントな味わいは、繊細で華やかタイプ。すばらしい。凝縮した味わいがエレガントに肩の力を抜いたような、そんな感覚だ。これは、うまい。リッチで華やかで、奥行きがあり、深みのある理想的なヴォルネイ。この味を求めて、今まであの畑を歩いてきたような気がしてくるから不思議だ。余韻も非常に長く、しばらくは食事の楽しい会話も中断され、誰もがワインに酔いしれている。

 うっとりしていると、キンメダイが運ばれてきた(料理名不明)。なぜだ。なぜ、このキンメにも合うのだ。キンメのからりとした皮と甘味のある身に、このヴォルネイは染みこむように混ざり合う。うますぎである。キンメの背中をぐいっと押すような力強さが、ワインストーリー(註1)を彷彿とさせる。時間と共に、合わせる料理と共にヴォルネイは容姿を変える。その懐の大きさに目を見張らずに、何をしたらよいのだろう。

 そしてメインのハトとフォアグラが登場。う。今まで女性的だったヴォルネイが知らぬ間に男性的などしりとした重みのあるヘビー級ワインに変身している。ジビエ料理を夏場に食べさせるキノシタシェフの自慢の腕と、新鮮な食材。濃い目の味付けは、パワフルでアグレッシブな味わい。まさにキノシタシェフの独壇場だ。繊細な味わいを求めるなら余所で食べてねと断言されるような、そんなキノシタワールドだ。その力強い料理とこのヴォルネイがまた合うのだ。ハトをこう調理するなら、俺(ワイン)はこうサポートするよとでも言っているような名優ぶり。ハトだけでは味付けが濃すぎて、きついかなと思いながらも、このヴォルネイがあればばっちりだ。重層で、複雑な味わいのヴォルネイは少し前まで鼓動していたであろう心臓との相性もばっちりで、ジビエの血生臭さをエレガントに包み込む。すばらしい。ヴォルネイ・シャンパンは繊細でエレガントなヴォルネイにあって男性的な一面を覗かせる畑であり、相性のよさはある程度は予想していたが、この想像を超えた組合せに脱帽である。恐れ入りやの鬼子母神である。

 東京はこの夏一番の暑さ。この夏を乗り切るには鰻もいいけど、ハトもいい。シビエ特有の食べ終わった後の体温の上昇が、ヴォルネイで冷やされていく。目をつぶれば、あのヴォルネイの坂をハトが勢いよくかっ飛んでいる。食に文化あり。完璧である。

 キンメにしろハトにしろ、まさに柔よく柔を征し、剛よく剛を制すである。熟成したヴォルネイだからこそ堪能できる芸術的な組合せに、額に浮き上がる汗を拭ったりした。ちなみに今回のヴォルネイがお店の在庫の最後の1本。存在そのものも奇跡だが、その俄か考えられない低価格にびっくりだ。いくらだったかは内緒にしておこっと。

 帰宅後パーカーの本をめくってビックリした。「一級ワインのレヴェルでは、衝撃的なヴォルネイ・シャンパンが一頭地を抜く傑出ぶり。弾けんばかりの芳醇濃密なワインで、ラズベリーとイチゴの果実味が溢れ出て、信じがたいほど凝縮されていながら優雅であって、ブルゴーニュの赤としては特例中の特例である。(註2)」と大絶賛している。僅か600本しかないのになぜ、飲めたのだろう。不思議だ。ワインとの一期一会に感謝である。そして食後、ワイン談義に花咲かせていただいたキノシタご夫妻と、ご一緒させて頂いた某夫妻に感謝である。


註1 ワインストーリー 造語 
抜栓してから飲み干すまでの味わいの変化のことを指す。この変化こそブルゴーニュの醍醐味であり、
どうカーブを描かせるかは飲み手の力量も加味されると信じている。

註2 ブルゴーニュ 飛鳥出版より抜粋 (ちなみにパーカーズポイントは96と他を圧倒)


以上



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