プリューレ・ロック
試飲日 2002年09月08日
場 所    神奈川県内某所       
照 明 蛍光灯
種 類 フランス ブルゴーニュ産AOC赤ワイン   
生産者 Domaine Prieuré Roch (Nuits St.Georges)
Vintage 1993
テーマ プリューレ・ロック登場
ワイン CLOS DE VOUGEOT Grand cru
 
<クロ・ド・ヴージョ>
 澱が多量につき、前日よりボトルを立てて準備。抜栓後INAOグラスへ。液温19℃。茶褐色系の趣のある色合い。腐葉土、なめし皮、ふわりとした赤系果実が複雑に、しかも豊かに混ざり合っていて、INAOからこぼれる香りに一瞬背筋がゾクっとする。口に含めば、静かなる心地よさ。完全に熟成モードに入り、果実味が充分こなれていて、滑らか過ぎるほどの食感だ。歯茎にしみじみ染みるタンニンと熟した果実味が、やさしい味わいを醸し出す。口の中はうまみ成分の塊で満たされ、唾もじわりと溢れ出る。ゆっくり飲みこめばアフターテイストの戻り具合に溜息である。余韻も長く、しみじみと時の流れを実感する次第だ。

 少し休憩して、時の流れを待つ。グラスの中で、どんな変化を見せるのか心待ちだ。しかし、若干期待外れの装いを見せてくる。時間と共に酸味が立ちはじめ、やさしさと水っぽさの端境をうろつき始めたからだ。パワフルな果実味がないために、早くも崖っぷちに片足突っ込んでしまったかのような危うさが満ちている。このワインは今が熟成のピークで、否、熟成の下り坂にさしかかりつつ、あと2,3年でその使命を終えるのかと思ってしまう。もしもこのワインをデカンタしてしまったら、一気に味が壊れ、せっかくの微妙な味わいが堪能できないかも知れない。いわんやグラスをぐるりと回してしまったら、ただの酸っぱい赤い水になりかねない。難しい。しかし、この繊細な味わいを、このワインの信条とするならば、この味もまたピノ・ノワールの極意なり、である。やさしく、やさしく飲みたい逸品だ。

 このワインを抜栓する前は、否応なく期待が膨らんでいた。1993は造り手によっては偉大な年(註1)であり、ロマネ・コンティの共同経営者のプリューレ・ロックであり、特級クロ・ド・ヴージョだからである。濃縮した果実味が力強く健在し、ようやく熟成モードに入りかかっているものと思われた。しかし、このクロ・ド・ヴージョはそんな期待されたほどの力強さはなく、やさしさが全体を覆っている。そのために、そのギャップをカバーしきれずに、やや残念でもあった。ただし、これは好みの域を脱しないかもしれない。しっぽりとした熟成感が大いに楽しめることに異論はないからだ。熟成したワインが好みの方なら、このワインは十二分に心を満たしてくれるかもしれない。あとは個人の判断に任せよう。

 2002年8月ドメーヌセラー蔵出
 生産量は僅かに1樽分。


<プリューレ・ロック>
 当主のアンリ・フレデリック・ロックはロマネ・コンティの共同経営者の一人で、マダムが去った後のルロワ家側の代表者。今回のクロ・ヴージョがこのドリンキングレポートでは、はじめての登場だが、過去に数回試飲はしていた。今までは正直な話、ロマネ・コンティという大看板を意識しすぎるあまり、ロックのワイン自体はいまいち感動したことがなかった。ただ現金な者で、某所でアンリ・フレデリック・ロック氏自らのお酌により自身のニュイ・サン・ジョルジュを頂いてから、かなり注目していたが、出会いに恵まれなかったのだ。今回の出会いに感謝である。

 ところでこのクロ・ヴージョであるが、畑の地図(註2)を見渡しても、ロックの畑は見つからない。いったいどこから葡萄を調達したのだろう。ルロワ家所有の畑から自分の取り分を別個に醸造したのだろうか。それとも誰かの畑と耕作契約を結んで造ったのだろうか。謎である。そして謎はもうひとつ。このエチケット、ワープロで打ったかのような印象があり、文字が浮いているのだ。生産量がたったの300本しかないのだから、印刷するのをケチったのかな。大金持ちのはずなのに。しかも自身の名詞にはクロ・ヴージョのお城が裏面を飾っているのに、である。つくづく不思議な造り手である。ちなみにPrieuréは小修道院の意。

  アンリ・フレデリック・ロック氏 (撮影にしかた)


註1 ルロワ デュガ ユベール・リニエなど 但しパーカーはこの年の評価はかなり下げている。
註2 Bourgogne Aujourd'hui no.15 参照


以上



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