サント・ネージュ | |||||||||||||||||||||||||
試飲日 2002年12月03日 | |||||||||||||||||||||||||
<日本の匠シリーズ 第一弾>
今回のワインはスペシャル企画です。1960年代から70年代にかけて、日本が世界一のワインを造ろうとしていた頃のワインを試飲する機会に恵まれた。超有名某所にて30年にもわたり大切に貯蔵されていたもので、おそらくは某所以外での試飲は不可能だが、日本の匠に敬意を表し、このレポートで紹介したい。 ボルドーから持ち帰った苗木を10年育て、ようやく完成したワインで、1972年が初ビンテージ。世界一のワイン造りを目指しつつも、その採算性の悪さから市場に出回ることは少なかったようで、このワインを欧米のワインコメンテーターに渡るほどの量を造り続けていたならば、日本がボルドーに引けを取らない世界筆頭のワイン産地になり得たかもしれない悲劇のワインでもある。日本人は工業製品だけでなく、ワインの世界でも世界を取れたはずの、幻とも言えるワインである。裏面の説明書きによれば、1976年にブルガリアで開催された第三回国際ワインコンクールにてラージ・ゴールドメダルを受賞している。 <セミヨン 1972> 抜栓後デカンタをして蓋をし、待つこと20分。液温18℃。静かにINAOグラスへ。琥珀色というべき深みのある黄金色。お菓子を連想する香りは、マロングラッセにリキュールを添えたような香り立ちだ。デカンタをしたためにコルク臭は消えていて、純粋にワインの香りだけがINAOから漂っている。時間とともに焦がしたカラメルも現れ、甘いイメージが頬を緩ませる。口に含めば、滑らかで角のない極上の口当たり。とろみ感もすばらしく、心地よい酸味が口いっぱいに広がっていく。ほんのり苦甘い第一印象にもかかわらず、本格的な辛口仕立て。アルコール感がたっぷり載っていて、唾もじわりじわりとあふれ出る。リキュール的な要素も感じられ、余韻もほのぼの長い。このつくづく繊細な味わいは、グラスを慎重に扱ってこそ楽しめる逸品で、30年の眠りからようやく目覚めたような印象だ。うまい、というより感激である。まさにNHKの「プロジェクトX」よろしく中島みゆきの「地上の星」が耳の奥に流れている。
日本の匠シリーズ 次回は1964年のシャトー・メルシャン カベルネソービニヨン 以上 |