＜特級クロ・ド・タール＞
　抜栓後少し待ってINAOグラスへ。思ったほどガーネットが進んでいない黒系ルビー色は、漆黒のごとく輝き、そして美しい。熟した黒系果実が枯れていくような香り、タール、カカオが複雑に香り立ち、妖艶な魅力を放っている。口に含めば、華やかさを秘めつつも重い質感に、奥深い味わい。熟成感があり、黒系果実の豊かな果実味を覆いつつ、まだまだその力強さは衰えることを知らず、上り坂をゆっくりと、あせらず、確実に登っているようでもある。卓越したポテンシャルが感じられ、モンスターワインの名に相応しいワインである。余韻も長く、非常に優雅で、この上なく豊かな味わいである。

　直前に試飲したユベール・リニエのモレ・サン・ドニ VV 1993を特級にしたい気持ちを一掃する力強さは、これぞグラン・クリュたる格の違いをまざまざと見せつけられる思いである。リニエのVVも並みの特級を凌駕する味わいながら、本物のグランクリュの前では、やはり格付けの重みは超えられなかった。モンスターでありながら、この途方もない上品な味わいは、特級たらしめる重要な要素なのだろう。

　そしてこのワインの魅力を最大限に演出するグラスこそ、ロブマイヤ社のブルゴーニュNo.3であろう。大きすぎないこの繊細なグラスの丸いカーブに添うように、クロ・ド・タールはその姿を変え、静かに口元に流れ込む。一瞬後ずさりするほどのパワーを持ちながら、驚くほどエレガントで滑らかな口当たり。ここに官能の世界が待っていようとは・・・。これぞブルゴーニュワインの頂点のひとつなのだろう。

　今宵の出会いに感謝である。


以上