エマニュエル・ルジェ PART2
試飲日 2001年1月20日
場 所    神奈川県内某所
照 明 蛍光灯
種 類 フランス AOCワイン
生産者 Emmanuel Rouget (Nuits-St-Georges)
Vintage 1990
テーマ 雪降る湘南の夜に
ワイン Vosne-Romaneé
 

<飲み方>
 某和食系の名店を貸し切ってのテイスティング。一週間前から押入れの片隅に立てられ十分に澱が静められていた。折しも深々と雪が降り積もる夜であったため、ボトルはかなり冷たかった。ストーブからやや離しゆっくりとテイスティング温度まで温めた。ボトルが温まるまでのひとときドイツ・フランケン地方のシュペートレーゼで優雅な食前酒を楽しむ。ボトルが温まりかけた頃、ほっそり型のデキャンタに移し替え、蓋をして待つことしばし。ゆっくりとINAOグラスとブルゴーニュグラスに注がれたこのワインが今世紀に味わったワインのなかで、ダントツにすばらしいと感激するのに、そんなには時間はかからなかった。


<味の印象>
 暗い蛍光灯のため色合いの正確な判断はできないが、かなり深みのある紫系のルビー色。直後に堪能させてもらったモンジャール・ミュニュレのエシェゾー1990のうすいルビー色とは対照的な色合いだった。ルジェらしい甘くやや焦した香がグラスに溢れ、偉大な予感をそそられる。口に含めば濃縮感がたまらなく嬉しく、熟した果実味には上品な甘味を感じる。タンニンも十分にあり、渋みと甘味のバランスが非常によい。これはうまい。熟成したヴォーヌ・ロマネは何でこんなにうまいんだ。背筋がぞくぞくする感触もたまらない。「これぞ」という逸品である。
 と、ここまでならば大変おいしゅうございます、で終わるところだが、今回のワインには偉大な結末が待っていてくれた。

 ゆったりとしたブルゴーニュグラスでルジェをみんなで堪能した後、ワインはモンジャール・ミュニュレへと移っていった。グラスにワインが少し余っていたが誰も手をつけない。所謂関東のひとつ残し的である。先輩方は、それぞれにこれまた偉大なエシェゾー1990をINAOグラスでテイスティングしていた。んん。ブルゴーニュグラスが足りない。そろそろブルゴーニュグラスでもエシェゾーを堪能したい頃合いで、お店の女将さんにも味わってもらうべく、ルジェのワインを飲み干す必要があった。その大役に私が選ばれた。はやく飲み干してエシェゾーを注がなければならない。私は一気に口にワインを運んだ。意外にもかなりの量が残っていて、私の口はルジェで溢れんばかりであった。このまま一気に飲み込んでは、もったいない。私は鼻で息をしながらできる限り口の中に留める作戦に出た。唾液が混ざりながらも少しも薄まる気配のない豊かさには驚愕の思いだ。
「ごくっ」ようやくルジェを飲み干して私の細胞が一斉に整列した。指の先から肩にかけて、両方の腕の細胞が高速のドミノ倒しのごとく一気に向きを変えたのだ。この勢いは両足からもやってきて、四方向から身体の中心に集まった勢いは私の背筋に一気にやってきた。背筋が唸る。身悶えしながらこの衝撃のやり場に困る。骨がきしむ。ううう。この身体がよじれるほどの「うまさ」はなんなんだ。凄い。凄すぎる。こんな強烈な感激が村名クラスのワインで味わえるなんて、この村の底力に脚も震えている。
 飲み干して身悶えしながらも、決して消えることのない余韻。もわんもわんした、うまみ成分が身体全身を覆い尽くし、既に夢心地である。この感激を例えるならば、深々と雪深き夜、ようやく辿り着いた温泉で、湯加減がまさに好みの湯に味を沈めたときにやってくるあの感触だろうか。少し違うな。或いはその温泉で若い女性が恥らいながらも「背中の流しっこ」しませんかと誘ってきたような戸惑い。いや、これも違う。ただの憧れだ。だんだん話が下世話になってきたので、例えを探すのは止めにしよう。
 ともかくこの鳥肌が立つどころか、身体がよじれるほどの衝撃こそブルゴーニュ、特にヴォーヌ・ロマネの魅力である。この衝撃はヴォーヌ・ロマネという偉大な畑の実力からもたらされる。加えて1990年という偉大なビンテージのためでもあり、10年以上の熟成の賜物でもある。そしてなにより神の手を持つアンリ・ジャイエの指導を受けるエマニュエル・ルジェという造り手の偉大な才能でもある。


<おまけ>
 このワインのパーカーの評価は意外に低く88点である。パーカーの舌を疑う逸品である。
 また、今回のワインはルジェの本拠地がニュイ・サン・ジョルジュにあった頃のもので、いつフラジェ・エシェゾー村に引っ越したのかも気にかかる。

 さらに本来ならばモンジャール・ミュニュレのエシェゾー1990も偉大なワインとしてその名をワインレポートに記したいところであるが、ルジェの衝撃の後ではタイミングが悪い。次回の機会に譲ることにしよう。またテイスティングの後でこの店の自慢料理の「鯛めし」をいただいたが、これもまた無茶苦茶うまかった。過去最高の鯛めしだった。

 今回のテイスティングに際し、関係各位に感謝申し上げます。

以上


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