アンリ・ジャイエ | |||||||||||||||||||||||
試飲日 2004年01月11日 | |||||||||||||||||||||||
<ヴォーヌ・ロマネ 1級 クロ・パラントー> 抜栓後すぐINAOグラスへ。とても美しいガーネット色は、まさにアンリ・ジャイエ色として表現しうる極上の色彩である。エッジの透明感はまだそれほど幅広ではなく、ここに18年の歳月を感じると、感慨もひとしおである。香り立ちは、爆発するようなタイプではなく、静かに、そして複雑に、グラスに漂う趣である。紅茶、中国茶、熟した赤系果実、なめし皮、カカオ、トリュフなどが複雑でアジアンスパイスのようなオリエンタリックさも漂わせ、この村の熟成のピークをいかんなく発信している。この最高級のピノ・ノワールだけが到達しうる極上のブーケは、極めて上品に、まさしく妖艶にして官能的である。 口に含めば、絹ごしのごとくの滑らかさにして、構造が凛としている。熟成のあるべき姿が甘美であり、容姿は威風堂々とし、一方でまだまだ果実味があふれ出て、活力ある味わいがかもし出されている。そう、ワインが活き活きしているのである。熟成モード全開にしてこの活力は、驚きを持って歓喜の声を上げ、そして悩殺されていく。このエレガントにしてエキゾチックな味わいは、飲み手の言葉を封じ、全身全霊を一杯のワインに捧げる様は、客観的に見れば異様な風景かもしれないが、主観的に見れば、まさに極楽浄土の装いなのである。押し戻ってくるうまみ成分にしばらく身を委ねる様は、そうそう体感できない最高の一瞬でもある。余韻はもちろん途方に暮れるほど長く、気がつけば有体離脱する自分に気付き、そしてふと我に返るまでのそう短くない時間をたっぷりと漂い続けるから凄すぎである。 ワインを飲みながら不意に瞳を潤ませ、そして泣きながらそれを照れ隠すように笑ってしまう感覚は、極上のワインを飲んだときにしか感じない感慨だ。ここに神の手を持つ男 アンリ・ジャイエの味わいを知る。恐るべしアンリ・ジャイエ、恐るべし一級クロパラントー、なのである。そして一本20万円近い価格で取引される状況に、不本意ながら納得せざるを得ないのが辛くもある。 ただし、ふと我に返れば、このワインは特級ではなく、一級である。しかもビンテージ的に最高評価は得られにくい年でもある。その現実は、このワインよりも上位に来るワインの存在を意識させ(注)、同じ村のロマネ・コンティを意識すれば、格付の意義も意識せざるを得なくなる。まだまだ上には、上はある。それは、確かにロマネ・コンティなど数本しかないのだが・・・・。神話になりつつあるクロ・パラントーがそれでも一級であることに、ブルゴーニュの奥深さを知るこの頃なのである。 (注) 地元誌「Bourgogne Aujourd'hui」の46号(2002年6-7月号)で、アンリ・ジャイエのクロパラントーの垂直テイスティングの模様が紹介されている。アンリ・ジャイエ本人も参加してのテイスティングは1978年から1999年までの13本が抜栓された。今宵の1986年は20点満点中14.5点と低めの評価で、最高は1990年の19.5点だった(1978は次点の19点)。1990年や1978年のクロパラントーを飲む機会は、(金銭的にも、存在的にも)、おそらく一生巡りあいそうになく、比較テイスティングすることは来世を含めてもほぼ不可能なので、あくまでも参考として留めておこうと思ったりする。 以上 |