ロベール・グロフィエ | |||||||||||||||||||||||
試飲日 2004年08月07日 | |||||||||||||||||||||||
<特級シャンベルタン・クロ・ド・ベズ> 抜栓後すぐINAOグラスへ。黒系のルビー色に熟成のエッジが見え隠れするニュアンスの色合い。香りはカシスやブラックベリーなどの黒系果実をベースに、時間と共に様々な要素が複雑に溢れ出し、湿った土壌、白粉や白い花、なめし皮、トリュフなど、いろいろあって大変興味深い。味わい自体も時間の経過と共に変化し、あるときはポートワインのようなグリップ感を伴い、またあるときは、するりとした滑らかな味わいに誘ってくる。粘土質を意識させる奥深さも印象的だ。そのどれもが大変すばらしく、極上のひと時を優雅に披露してくれるのだった。余韻も長く、これぞ由緒正しきシャンベルタン・クロ・ド・ベズの実力の高さを知らしめてくれる逸品だ。 この特級畑の個性を知るには、絶好のワインである。 ところでこのワインは、INAOグラスを数脚用意して、それぞれに注いだのだが、同時に同量注いだにもかかわらず、それぞれのグラスのワインの個性は明らかに違っていた。微妙に異なる消費のペースやクーラーの風の当たり方などが影響したのだろうか。そのどれもが微妙にニュアンスをかえていて、まさに神秘的な違いなのである。また時間と共に別々の歴史を刻む不思議さを持っていて、ブルゴーニュワインの奥深さを知るところとなった。あえて、共通の香りを探すと上記のようになるが、なめし皮がないバージョンもあり、なかなかに表現も難しいのだ。またロブマイヤーのNo3にも注いだが、こちらはバランスも崩しがちで、今回に関しては、INAOの表現力に軍配は上がるのだった。 また別の表現を用いるならば、本来の出番の2時間も前に急きょカメラの前に立たされた俳優が、無愛想ながらも、しっかりと観衆を魅了する演技を見せ、しかし彼は結局一度も笑わなかった、という、そんな印象も覚えるから面白い。決して笑わないが、心に刻まれる演技に、なにかを感じたりするのである。彼が舞台から降りて、しばらくたってからじわりと伝わる何かと共通するのだ。 そして、今回のクロ・ド・ベズは、巷のワインの紹介本に対して、ひとつの提言をしているかのようである。それはつまり、コメンテーターの感想は、その瞬間の味わいの一例に過ぎず、その時はそんな味わいがした程度のものであるということだ。ブルゴーニュワインは、一本のワインを数脚の全く同じグラスに同じ量を注いでも、それぞれが微妙にニュアンスを変えてくる。そしてグラスの形状が異なれば、さらにその差は顕著になる。この不思議さをもってブルゴーニュの魅力に迫るとすれば、それはたいそう楽しく、そして途方もないワールドなのである。決して終わらない魅力、これがブルゴーニュの魅力のひとつだろう。今宵、目の前のボトルをいかにして楽しむか。ブルゴーニュワインの美味しい飲み方を捜す旅は、まだまだこれからなのである。 以上 |