ルー・デュモン
試飲日 2004年08月15日
場 所    平塚駅西口某所
照 明 白熱灯
種 類 フランス ブルゴーニュ地方赤ワイン
生産者 Lou Dumont (Gevrey-Chambertin)
Vintage 2001
テーマ 日本人が造るブルゴーニュワイン
ワイン Bourgogne
Savigny-Les-Beaune
Vosne-Romanee
Chambolle-Musigny
Nuits-Saint-Georges VV
Gevrey-Chambertin
CORTON Grand cru

<はじめに>
 
「天・地・人」
 オレンジ色をベースにしたエチケットには漢字で「天・地・人」と書いてあり、当主の仲田氏の思い入れが表現されているかのようである。日本人がフランスで働く大変さを知る者として、仲田氏のネゴシアン業の事業経営は、それだけで絶賛モードに突入するが、ワインは飲んで何ぼのものゆえに、氏の苦労とは切り離して、テイスティングに徹してみよう。今宵は某専務の計らいにより企画され、冒頭に感謝するものである。

 ワインは抜栓後すぐリーデルのブルゴーニュグラスにサービスされ、数名の参加者により喧々諤々の議論と、時に美味しい中華料理や悲しいお肉の話など交えつつ、テイスティングはたっぷりと時間をかけて行われたのだった。


<ブルゴーニュ>
 
薄い色合いのルビー色で、ブルゴーニュにこの色合いを見つけると俄然うまみ成分に期待するものであるが、そこはブルゴーニュのランクゆえ、過剰な期待はしないほうがいいようだ。それでも赤系果実をベースとして、うまみも軽めに乗っていて、やや後味に茎っぽさを感じるものの、決して悪くない逸品だ。某氏をして、ラモネの赤に通じる味わいといった感想も、なるほど、そのニュアンスもありつつ、かなり強引かもしれないと思ったりもする。そして油断すると一気に味わいが下降するので、グラスに注いだら早めに飲んだほうがいいと思われる。


<サビニー・レ・ボーヌ>
 
少し色目が濃くなって、黒系果実ベースにハーブや動物チックな香りも加わり、好感触。サビニーらしい赤系果実や、時として鉄っぽさを感じる酸味はあまりなく、これがサビニーの味わいかと考えると肯定はしにくく、若干アペラシオン不明な面も覗かせるが、軽くないテーストとミネラリーな味わいは、丸めのタンニンとのバランスもよく、果実味をたっぷりと楽しめるので、悪くない味わいだ。


<ヴォーヌ・ロマネ>
 
香りは閉じていて、黒系果実をベースに程よく赤系果実を混ぜつつ、味わい的にかなりのこじんまり感が残念だ。しかし、ヴォーヌ・ロマネは、かのロマネ・コンティを有するがゆえに、否応なく期待は高まり、それゆえに往々にしてその期待は裏切られやすく、このワインがその域を脱していないのも、やむを得ないといえばやむを得ず、これがヴォーヌ・ロマネの宿命でもあるので、ここはひとつ、温かい大きな目で見守るモードで楽しむほうが、美味しく味わえそうである。


<シャンボール・ミュジニ>
 
今宵最も勢いがあったのが、このシャンボール・ミュジニで、とても華やかなワインである。バニラから派生する化粧っぽい派手さ加減には賛否が両論あるものの、華やかなワインが好きな人には、いい感じの味わいである。酸味の上にのった甘みにも似たニュアンスは、「受け」もよい。ただし、自然のうまみというよりは、ドミニク・ローラン・チックな、やや作られた感もあり、ジャイエ・ジルやフィリップ・ルクレールが好きな人に最も受け入れられる味わいだろう。


<ニュイ・サン・ジョルジュ VV(古木)>
 
男性的なアペラシオンの特徴をとらえた逸品。ややスケール感はないものの、タニックさと酸味のバランスもよく、ミネラリーな味わいは食事と共に楽しみたかったりする。ただ欲を言えば、果実味が少し弱いので、後のジュブレと比べれば、少し印象に残りにくいところが、ある意味特徴的かもしれない。


<ジュブレ・シャンベルタン>
 
黒系果実に加え、湿った土壌香やバニラ、そしてなんと言っても焦がした樽香が印象的な逸品で、力強さを十分に兼ね備えている。ジュブレのワインを想像する時の要素は一通りそろえているので、なるほどアペラシオンの個性を楽しむにはいい感じだろう。ただ余韻はそれほど長くはなく、木目の細かさに視線を移すと、ちょっと言葉に詰まるので、ここは大胆に、かつ大いに楽しんだほうが、いいかもしれない。


<特級コルトン>
 
強烈な酒質ゆえに、半分はボトルからそのまま注いで、半分はキャプテンデカンタに移して比較する。ボトルから直接バージョンでは、アルコール感が前面に出ていて、ガツンと来る勢いが、やや特級の品格にかけるところがあり、強いお酒を飲んでいるような感じが辛いかも。キャプテンデカンタに注いで、一呼吸おいてからサービスされたバージョンでは、今度は急に脇が甘くなり、緩さだけが印象に残ったりする。難しい。そこで、そのまま注いだバージョンで時間を置いてみることにした。すると、時間と共に、フグの白子を昆布の上に乗せて炭火で焼いたようなニュアンスの香りが充実し、コルトンらしい血なまぐささに通じる香り立ちもアペラシオンの個性を引き立て好印象だ。コンブ出汁のお吸い物に通じる味わいは、後半になるに連れて、うまみも充実し、さすが特級の格の差を見せ付けるから面白い。


<まとめ>
 
まずは、異国で奮闘する日本人に大いなるエールを送りたい。

 ワイン的には、薄い色合いが好意的で、それぞれのアペラシオンの個性は表現されながらも、シンプルな味わいが楽しくもあり、そのために複雑味はないので、もう少し、といった感もある。過大な表現を用いるなら、ジャン・ラフェの「自然派とは違う癒し系の味わい」をほのかに想像することも出来、しかし全体的に「余韻の短さ」がそれを否定させてしまったりする。また樽香がかなり効いたワインもあり、これは日本人の味覚にサプライズは与えつつ、飲み進めると飽きてくるきらいがあるので、個人的には、ファーストインパクトよりも、お出汁系の味わいに通じるバックテースト重視のワイン造りを達成してもらえるとありがたい。

 決して悪くなく、大健闘の逸品ながら、コルトンをのぞいて、抜栓直後が最も味わい的に整っていて、時間と共に、力を失っていく様が少し残念だった。しかし、それがビンテージの個性によるものか、造り手の個性によるものかは、おいおい判明していくことだろう。

 正直に告白するならば、このワインが日本人の手によるものではなく、ごく普通に造られたものなら、今回のテイスティングを最後に飲むこともなさそうではある。しかし、日本人が造っているからには、俄然応援したいではないか。このワインはしばらくは日本人が造ったという宣伝文句ゆえに販売も順調に推移しそうで、その間に、十分に体力をつけて、数年後には押しも押されぬ銘醸蔵へと成長していただきたいと祈願せずにはいられない。

 まだまだ始まったばかり。そしてその始まったことが、すでに偉業ではある。

 ルー・デュモンの今後に大いに注目していきたい思う。

追記 某氏からの連絡によると、翌日残ったワインを確認すると、かなり美味しかったという。
    これもワインの魅力ですね。



以上

 


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