ベルナール・デュガ・ピィ | |||||||||||||||||||||||
試飲日 2004年11月20日 | |||||||||||||||||||||||
<はじめに> 今回はスペシャル企画としてジュブレ・シャンベルタンの区画に植わるピノ・ノワールの樹齢別に醸造されたワインを4種類楽しむことにした。それぞれのワインは抜栓後は当然のように硬く閉じた状態にあり、凄まじいパワーをうまく表現できないでいたが、いつものブルゴーニュ魂的手法(都合により内緒です)により開花させることに成功し、それは、ご一緒させていただいた某氏の崩れゆく笑みが、その味わいを代弁してくれていた。 つくづくワインは飲み方だと思う。デュガピィの2001年は、抜栓するたびに、INAOまたはDOC、ISOグラスではその魅力を表現できず、まさに器が違う状態になる。そしてただワインをそんなグラスに注ぎ込むだけでは、無愛想な表情しか見せてこず、そんな飲み方をしてワインを批評するには、批評者自身の本質的な実力のなさを証明してしまうかのごとく、両刃の剣で斬ったつもりが、浴びた血は全て己の血だったという事態になるようで、ワインの批評の難しさを知るところである。 <ブルゴーニュ・アリナール> 樹齢30年未満の本来ならばジュブレ・シャンベルタンを名乗れるはずのワイン。ピノ・ノワール史上最高レベルに濃い色合いで、この色合いは最近の自然派の流れを組むワインに慣れていると、ちょっとした違和感を持つが、味わい自体はそれほどの濃さを持っておらず、若々しく、ある意味やんちゃな果実味が、いとおしくさえある。たっぷりとしたうまみがあり、およそ他社の一級ワインに匹敵する味わいは、驚異的ですらある。(ある意味最もお買い得なワインかもしれない・・・) <ジュブレ・シャンベルタンVV> 樹齢30年以上50年未満のワイン。色調は同じ。なるほど、キュベを分けたベルナールの哲学が反映し、なめらかで落ち着いた果実味が非常に心地よい。ベリー系の果実味が、丸みを帯びながら熟練の職人技を見るかのごとくの滑らかさが印象に残る。余韻も長く、時間と共に移ろいゆく様に身を委ねたくなる。アリナールが、まだ若造であることを、このワインが証明しているようで、樹齢の妙に納得である。 <ジュブレ・シャンベルタン クール・ド・ロワ> 樹齢50年以上のワイン。同じ色調。やや酸味が前面に出てきつつも、シルキーで滑らかな果実味は、格の違いを見せ付けるのに十分である。余韻はすこぶる長く、グラスの中でゆっくりと成長し続ける味わいに、ピノ・ノワールの成功を感じる思いである。複雑味、うまみ、余韻、スケール感、奥深さ、そのどの点においても、前者の二本を圧倒し、究極の球体に近づく実力を備えつつ、まだ完全な球には、なりきれていないところに、AOCの精度を確認しつつ、村名の村名たる理由を感じるところだ。しかし、うまいワインである。すばらしい。 <ジュブレ・シャンベルタン エボセル> 村名畑指定で、樹齢の面から言えば、クール・ド・ロワに組み込まれてもいいところであるが、ベルナールが敢えて個別のキュベとしてリリースした理由は、ワインが全てを物語っていた。非常に濃いエキスを感じるのに、飲み応えは極めてシルキーで、この矛盾する違和感に戸惑いながらも、香りにコート・ドールの畑に立つたびに感じる「海」のニュアンスが再現され、ミネラル感が途方もなくすばらしいワインに、表現する言葉を失わざるを得ない。このワインを自身の体で感じる時、幾億年もの前の、太古の記憶がようやく蘇ったかのような、そんな大地にしみこみ続けた雨の味わいを想像し、身震いを抑えるのに必死になるからだ。時間と共にもゆっくりと、そしてゆったりと奥深くなっていくこの味わいは、村名ワイン史上最高レベルの味わいを表現しており、おそらくは特級ワインと同等の扱いを受けるべきであろう。 <まとめ> デュガ・ピィの2001年は海外の各誌絶賛のごとく、すばらしいワインである。ただ、そのすばらしさを自身のグラスで表現するならば、闇雲に抜栓しても、いとわろしで、持てる知識を総動員しなければ、高くて、濃くって強いワインだけの汚名に埋没しかねず、抜栓が難しいワインの一つに挙げられそうである。しかし、今宵は美味しく飲めたと自負できる。これぞ必殺ブルゴーニュ魂、と思いたいが、実は飲み手ぞれぞれの表源方法によって、その味わいは変わってしまうので、ブルゴーニュ魂的なデュガ・ピィの表現方法を、ご一緒させていただいた方々と共有できていれば、嬉しいだけだったりする。 そして2003年以降、ポマール、ムルソー、シャサーニュに手を出してしまったデュガ・ピィのワインにとって、進出以前の2001年と2002年がその最高峰に君臨しそうな予感も漂いつつ、その評価は数年後のワイングラスの中で証明されることだろう。 今宵の出会いに感謝。 以上 |