ベルナール・デュガ・ピィ
試飲日 2005年03月21日
場 所    espace oiso
照 明 白熱灯
種 類 フランス ブルゴーニュ地方赤ワイン
生産者 Domaine DUGAT-PY (Gevrey-Chambertin)
Vintage 2002
テーマ デュガ・ピィの2002
ワイン Charmes-Chambertin Grand cru

<シャルム・シャンベルタン>
 室温にて抜栓し、ブショネチェック用に少しだけ注ぎつつ、2時間半ほど待ってから二口分をINAOグラスへ。エッジに紫が感じられない濃い目のルビー色で、もっと濃い目を想像していただけにこの薄さ加減は意外であった。(とはいうものの、濃い目の部類には入るが・・・)。香りは華やかで、カシス、ブラックベリー、イチゴ、スミレ、黒系スパイス、バニラなどが優しく複雑に鼻腔を満たしてくれる。口に含めば、非常に滑らかで、テイスティングのつもりでしばらく口の中に留めようとしても、するりと喉元を通過してしまうほどで、気付くとワインは口の中に残っていない状態だ。しかし、である。ワインがないのに、舌全体を覆うばかりのうまみ成分が、しっかりとしたミネラルと心地よい酸味と共に滞留し、いつまでも続くかと思われる余韻に浸りながら、何でこんなにうまいんだと、思わずほくそえんでしまったりする。自分の舌自体が、とてつもなく美味しくなっているような、そんな錯覚すら覚えてしまうほどだ。渋くなく、酸っぱくなく、堅くなく、柔らかすぎず・・・、強いて言えば新樽のニュアンスが程よく感じられるくらいか。全てのバランスが見事に調和し、それはあたかも赤い水を飲んでいるかのような、違和感の全くない、不思議な液体だ。舌の上に乗せただけで、それが細胞に染みこむような、体の水分とワインが互いの表面張力を破棄し、見事に一体化したかのような、とても不思議な感触を覚えることができる。

 そして時間と共に香りには、燻したニュアンスが加わってきて、腰で感じるムスクの要素も存在し、某氏たちにサービスしたリーデル・ヴィノム・ブルゴーニュグラスが空になった頃、ひそかにその香りを楽しませてもらうなら、日本人の美味に共通する本枯れ系の鰹節のワールドに包まれるのだった。

 デュガ・ピィの2001年ビンテージで感じた難解さは、2002年のシャルム・シャンベルタンにいたってはほとんど感じられず、ただグラスに注いだだけで、究極のワールドを感じてしまう。あっけないほどの美味しさ。この美味しさは、シャルムの個性よりは、ル・シャンベルタンの特徴に似ており、いわゆる濃くって強いワインではなく、するりと自然体の優しい味わいに、肩透かしを食いつつ、なんとも妖艶な面持ちを感じたりする。

 いわゆる濃くって強いデュガ・ピィのワインは、天空を目指した芸術系官能ワインの代表的な存在で、トコトン突き詰めれば究極の美を味わえる代わりに、途方もない疲れを感じざるをえなかったりもするが、このワインに関しては、いとも簡単に癒されることが出来、ブルゴーニュでのデュガ・ピィへのよからぬ風当たりの強さを鑑みて、なんとも混乱するワインかもしれない。デュガ・ピィの2002年は、薄口のうまくち系ワイン愛好者にとっては、とんでもない大傑作ワインなのかもしれないし、濃い口系に重きを置く人たちにとっては、意外なほどあっけないワインなのかもしれないし、その評価は個人差によるところが大きくなるのだろう。それはつまり、ワインの点数制評価にその限界を感じさせてくれる一本、ということになるかもしれない。

 揺れるデュガ・ピィへの思い(後述)が・・・、さらに揺さぶられたりするワインである。


おしまい

 


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