エマニュエル・ルジェ
試飲日 2006年03月11日と12日
場 所    Papanoel さん / cou cou c'est nousさん
照 明 白熱灯
種 類 フランス ブルゴーニュ地方赤ワイン
生産者 Emmanuel ROUGET (Flagey-Echezeaux)
Vintage 2003
テーマ ルジェの2003ビンテージ
ワイン 2003 ヴォーヌ・ロマネ1級クロパラントー
2003 特級エシェゾー 
2003 ヴォーヌ・ロマネ
2003 サビニー・レ・ボーヌ
2003 ブルゴーニュ 
2003 ブルゴーニュ・パストゥグラン 
<エマニュエル・ルジェの2003考>
 ワインセミナーにて。室温になじませてから、抜栓後すぐINAOグラスへ。褐色系を偲ばせるパストゥグラン以外は、紫含みのルビー色で濃いピノ・ノワールの色合いが2003年をカラーの面から彷彿とさせる。ブショネチェックののち、初日はボトルからダイレクトに、翌日はダブルデカンタをしてから、ロブマイヤー・バレリーナ・グラスVへ10等分してサービス。なお看板ワインのクロパラントーとエシェゾーはブラインド・テイスティングとし、会の冒頭にサービスさせて頂いた。

 以下それぞれのワインについて

 【ブルゴーニュ・パストゥグラン】

 このワインは、明らかにマディラ香が前面に出ており、熱劣化の様相が顕著であった。この傾向はスティルワインとしてはいかがなものかと思いつつ、たまたまインポータが違うロットを用意できたので、二社のインポータのパストゥグランを飲み比べて判断することにした。結果は、両社扱い共に全く同じ香と味わいで、ここに輸送上のトラブルではなく、このマデイラ香はルジェのセラー内で発生したものと推測された。

 味わい的には、このマデイラ香は嫌いではなく、しかし限りなくマディラに近い味わいは、微妙な感じを持ちつつも、意外とおいしく飲めるから不思議である。「変だけど悪くない味」なのである。ところで、抜栓した両方のボトル(翌日分も含めると3本ともに)には大量の滓が溜まっており、参加者の中には「これは返品する」と指摘する人もいて、ちょっとした動揺も広まったりした。ただ、自然派ワインの現場に慣れているものにとって、これはとくに異物混入とは思えず、やややりすぎの面はあるが、これがノンフィルターの現象であり、有機の大根に泥が多めについているのと同じかと思われるのだが、ここは意見も分かれそうな気配である。(ただしグラスには相当の滓が残るので、洗う身になると辛い・・・)

 思うに、2003年の酷暑はルジェのセラーにも忍び寄り、醸造または熟成中に極端な暑さの影響を受けたか、あるいは瓶詰め後にボトルの保管に何かしらの問題があり、そこで瓶内マデイラ化が進んだ可能性があるように思われる。また大量の滓はロットの底部の部分に当たると思われ、酷暑の影響で収穫量が相当減少し、澱とのバランスを考えて、いつもならストップするはずの限界量を超えて、ボトリングしたためと思われるが、これは後日本人に確認したいと思う。

 というわけで、不思議なパストゥグランはおもしろいワインだった。


 【ブルゴーニュ】
 
 このブルゴーニュにも若干のマデイラ香があるが、しばらくすると気にならなくなるくらいの程度。味わい的にはかなりのボリューム感があり、グラスマジックの相乗効果と共にリッチな味わいがうれしくなる。明らかにワンランクまたはその上の味わいは、濃縮感があるのにくどくなく、滑らかなタンニンと適度な酸味が心地よい。若干甘い印象は否めないが、このリッチさは特筆すべきだろう。ただ価格が・・・うーんではあるが。


 【サビニー・レ・ボーヌ】

 赤系果実の優しい味わいは、とてもチャーミングな印象を持ち、ややもするとすっぱくて鉄分を感じるこの村にして、違和感なく飲み進められる和やかさが適度なアルコール感と共に心地よい。「サビニー・レ・ボーヌがおいしいと、食卓はうれしくなる」を持論としてもつ者にとって、和食のお出汁にも通じるうまみ成分がにじむルジェのサビニーは、価格を除いて大満足の逸品だ。やや揮発酸が強く、セメダインのような香が好みを左右するが、デカンタをするなりすれば、完全にとは行かないまでも、程なく消えてくれるので、それもまた一興かもしれない。


 【ヴォーヌ・ロマネ】

 黒系果実の充実した味わいは、この村にロマネ・コンティがあることを意識させるほど品質がよく、構造的にもしっかりとしており、甘みベースながら、全体のバランスがよく、納得の一本だろう。他のビンテージに比べれば、圧倒しうる二次元的なボディ感があるものの、奥行き感がややコンパクトであり、余韻の長さももうひとつほしいところだが、それがこの年の個性と読むならば、ヴォーヌ・ロマネの斜面とそれを照りつける太陽を意識させ、少なかった雨を感じさせるところが心憎い。ひどく暑かった斜面に育ったピノ・ノワールは、自らの葉の隠れようとしている姿が目に浮かぶ。クロパラとエシェゾーの高コストを考えれば、このワインを数本キープしたほうが賢い買い物になりそうだが、そもそもこのワインは1万円を超えているので、コストパフォーマンスがいいという表現には、違和感を感じたりするが、買うならヴォーヌ・ロマネという決断が・・・。


 【ヴォーヌ・ロマネ1級クロパラントーと特級エシェゾー】

 両者ともブラインドで提供。まずはクロパラントーをロブマイヤーに均等注ぎして、全員に配り終えた後で、エシェゾーを均等に注ぐ。初日はボトルから、翌日はダブルデカンタして小一時間待ってからサービスした。ボルトから直接バージョンは、最初閉じた印象が否めず、それが緩やかに開花する様を楽しみ、デカンタバージョンは、花が開いたところからのスタートとなった。

 飲み方の違いが、グラスに注いだ直後はダイレクトに影響を及ぼしたが、ワインのポテンシャル自体の判断には時間軸のずれこそあれ、概ね同じように表現できた。両者の違いは、一言で言えば、華やかで美しいクロパラントーに対し、エシェゾーは質実剛健的で、派手さは一歩譲るがワインの本質の面で特級の優位性を覗かる、ということになるだろう。両者とも大変すばらしいワインで、品質において頭ひとつも二つも抜きん出ていて、日本人のフィーバー振りにも共感を持つが、いかんせん価格がちょっと馬鹿げた領域にあり、その価格は上がることはあっても下がることはないんだろうなと思うと寂しくなったりする。

 そして思う。クロパラントーの格付けは1級で、エシェゾーは特級。両者の違いは意外と明白で、クロパラントーがかなり早くグラスの中で平板になっていくのに対し、エシェゾーは少なくなりながらもそのポテンシャルの高さを最後まで示しているところからも推測できるように、AOCの格付けの正当性を認めるところである。クロパラントーは、リトル・リッシュブール的な印象をもち、しかしあくまで一級の最高峰に位置すべきと認識し、一方のエシェゾーは、格の違いを見せつけながらも、フラジェ・エシェゾー村という現実も否定できなかったりもする。


 全体的にルジェの2003は大変すばらしく、若い今のうちからこれほどまでに甘美な世界を提供しうるパワーと芸術性に感銘を受けるのだった。コクって強くって、少し甘いが、ピノ・ノワールらしいお出汁の余韻が美しいのである。


おしまい

 


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