ピエール・ボージェ
試飲日 2006年03月21日ほか多数
場 所    自宅などいろいろ
照 明 蛍光灯
種 類 フランス オーベルニュ地方赤ワイン
生産者 Pierre Beauget (Jussat)
Vintage n.v. (2003)
テーマ うまい、けど・・・、でもうまい
ワイン Vin de table L'Etourdi
<ヴァン・ド・ターブル キュベ・レトルディ>
 このワインは、とても不思議な自然派ワインである。これはビオロジーによって育てられたガメイを除梗せずに発酵させ、亜硫酸を用いることなく造られたテーブルワインで、その色合いは非常に薄いオレンジ色系。それはあたかも軒先の熟した柿のようでもある。このワインは数回飲む機会に恵まれ、それはパタポンで有名なクリスチャン・ショサール夫妻とだったり、自然派ワインをこよなく愛する某氏とだったりしたが、後日あらためて自宅で飲んだときの印象は、とても不思議なものだった。

 まず、押さえておかなければならないのは、このワインは、非常においしいということだ。うまみ成分があふれ出て、その余韻の長さは、ほっと頬を染めるほどである。また有機野菜の素材を生かした和のお料理との相性も抜群で、それは食をご一緒したショサール氏の笑顔にも現れていた。

 そのおいしいを踏まえたうえで、二つの点で私を混乱させるワインであった。まずは、高いアルコール度数(14.3%)により、自然派ワインでは珍しいことだが、二日酔いをした。ピエール・ボージェの750mlのボトルは一晩では飲みきれず、三日に分けて楽しんだのだが、初日と二日目の翌日は、不本意ながら、ともに二日酔いの状態になってしまったのだ。三日目は少ししか残っておらず、それは回避されたが、ほかにはアルコールを摂らず、ボトル半分以下の量で二日連続で二日酔いになったことに戸惑いを覚えたりする。これは私の体調や、アルコール耐久性に問題を見出しうるが、14.3%のアルコール度数といえば、ウイスキーの水割りよりも高めのような気がして、そういえば、このワインの甘みは、水割りの甘みに共通するアルコールの甘みに拠所を見出せそうである。

 そして二つ目の問題点は、グラスの中のワインにあった。このワインにはフェノレや酸化臭などのいわゆる醸造上の欠陥がオンパレードで展開され、言葉は悪いが、醸造欠陥祭りの装いを呈しているのだ。抜栓直後の還元臭はもちろんのこと、ブレタノミセスによる馬小屋臭(フェノレ)や過度の酸化臭、酢酸や揮発酸などがサンプルのように認知され、それは喩えていうなら、その昔、新宿駅西口通路で、ずいぶん前から寝ている、その筋の方の風下に立ったときのような、そんな臭いなのである。INAOグラスでは、かなりその香が強調され、デカンタ目的で移し変えた水用コップでもそれは払拭できず、(逆に強調されたかも)、しかしリーデル・ヴィノム・ブルゴーニュでは開口の広さに由来するのか、幾分開放される類のものだった。

 しかし、繰り返すが、このワインはうまいのである。香の諸問題を抜きにして、ごくりと楽しめば、アルコールに由来する甘みと、自然派ならではのミネラル感とうまみ成分に、あれっこれうまいなあと、首を傾げては、ほくそえんでしまうのである。そして滑らかな味わいは、するりと喉元を通り抜け、早々に酔ってしまったりするのである。

 醸造上の問題を抱えつつも、おいしいワイン。

 世の中には、醸造上の欠陥を全く有しない理想的かつ衛生管理の徹底を見つつも、ちっともおいしくないワインが存在する一方で、亜硫酸未添加による諸問題を抱えつつも、このワインのように非常においしいワインがある。二日酔いこそしたが、生命的にも、健康的にも問題がないワインが、この星に存在し、それは自然派ワインの醍醐味にも通じているようで、この分野のワインに大いに関心も寄せられるのであった。

 くさいけど、うまい。とても不思議なワインである。


おしまい

 


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