1997年ビンテージについて  2002/09/22
 ここ1週間でブルゴーニュの1997ビンテージを少しまとめて飲む機会に恵まれた。ドリンキングレポートには未掲載だが、少しまとめてみたいと思う。あくまでも個人的な感想なので、額面通りに受け取らず、話半分程度でお願いしたいところだ。

 1997年ビンテージは個人的に思い入れがある。当サイトのヨーロッパてぶら旅は1997年11月から12月にかけての旅日記である。そこでも触れているように、1997年は私がはじめてブルゴーニュ、コート・ドールの地(ディジョンを除く)を踏んだ記念すべき年なのだ(その時ボルドーとシャンパーニュにも行っているが、こちらはとんとご無沙汰である)

 そしてブルゴーニュワインを本格的に飲み出したとき、市場は1997年ビンテージが溢れていて、忘れ得ぬかの地の思いと共に、相当の数のブルゴーニュを飲みまくったりした。その1997年ビンテージの変化に気づいたのは今年の6月、都内某所のドメーヌ・デュジャークのモレ・サン・ドニを飲んでからだ。かなり熟成がすすんでいるのだ。この熟成感がたまらなくおいしかった。ある意味忘れられない味わいのひとつだ。

 ここ最近は1999や2000のビンテージが店頭をにぎわしているので市場で1997年を見つけるのは困難になりつつある。そう、あれほど飲みまくった1997年をしばらく飲まない間に、ワインの熟成が相当進んでいることに驚きを隠せなかったのだ。そしてこの1週間の6本。なんとなく自分の1997年をまとめてみたくなった。飲んだワインは下記の通り。

年号 ワイン 種類 ドメーヌ 試飲日
1 1997 ビアンブニュ・バタール・モンラッシェ 白・特級 ポール・ペルノ 2002/09/15
2 1997 クロ・ヴージョ 赤・特級 ショパン・グロフィエ 2002/09/16
3 1997 リュショット・シャンベルタン 赤・特級 ジョルジュ・ミュニュレ 2002/09/16
4 1997 ACブルゴーニュ 赤・地方 コンフュロン・コトティド 2002/09/21
5 1997 ACブルゴーニュ 赤・地方 ユベール・リニエ 2002/09/21
6 1997 ACブルゴーニュ 赤・地方 ルロワ 2002/09/21

1.ビアンブニュ・バタール・モンラッシェ
 浜松某所にて。熟成感と新鮮な果実味の両者を同時に楽しめるふくよかな味わい。さすがポール・ペルノの看板ワインだ。非常にすばらしい味わい。このワインだけ白なので、ここでは多くは触れず参考程度に留めよう。


2.クロ・ヴージョ 
 某氏宅にて。そもそもショパン・グロフィエはやさしい果実味が身上であり、そのクロ・ヴージョはロバート・パーカーをして、ブルゴーニュの最も偉大な赤ワインのリストに名を連ねさせる大銘醸ワインである。当人は1997年ビンテージの頃には引退し、ショーブネ・ショパンに継承されているはずだが、ワインはしっかり存在するので、なんとも現在調査中である。この造り手は短期間に二度ドメーヌ名を変更していて、話がややこしい。

 それはともかく、今回のワインは明らかにやさしすぎる味わいだった。赤系果実味が非常に繊細で、少しでもグラスを揺らそうものならあっという間に壊れてしまいそうな味わい。特級クロ・ヴージョがかくもやさしい味わいでよいのだろうか。あきらかに果実味が後退しつつあり、熟成モードとは違う方向に進んでいるような、そんな味わいなのだ。決して痛んでいるわけではなく、飲み頃のピークを下がり始めてしばらく経っているような印象が拭えない。繊細なショパン・グロフィエとして飲むのになんら不都合はないが、1997年をして特級クロ・ヴージョと思うと、少し期待にズレが生じていた。


3.リュショット・シャンベルタン
 某氏宅にて。ジョルジュ・ミュニュレはヴォーヌ・ロマネ村のミュニュレ博士の未亡人とその美しい娘さんたちによって運営されていて、ミュニュレ・ジブールとは同一ドメーヌである(その違いについては別途紹介したい)。このドメーヌに対しては、女性が造るブルゴーニュという印象を私は持っていて、彼女らは非常に上品で繊細なまさに女性的なワインを造っている。実際にお会いすると非常にやさしい親子であり、いろいろお世話になり感謝しているところである。

 このリュショット・シャンベルタンはアルマン・ルソーのクロ・デ・リュショットと道一本東側で接していて、ジュブレ・シャンベルタン村のパン屋さんで買ったキッシュをこの畑の土手に座りつつ、よく食べたものだ。それは置いといて、このリュショットも非常に女性的な味わいが楽しめる。しかしジュブレ・シャンベルタンの特級に期待をはせながら飲むとそのギャップは結構埋まらないかもしれない。ただでさえやさしい味わいに、熟成が過度にすすんでしまった味わいは、力強くない分少し部が悪い。パワフル感を求めていると肩透かしを食らう状態だ。熟成感が優先し、新鮮な果実味はあまり感じられない。とにかくやさしい味わいで、特級のイメージには少し合わないところが辛くもある。


4.ACブルゴーニュ コトティド
 某氏宅にて。薄い。ヴォーヌ・ロマネ村の住人にして、ある程度の薄さを承知で飲んだが、色合いそのものの薄さはまったく問題ないが、赤系果実味のかなり薄くて平板な味わいは残念を通り越していた。開けたとたんに、すばやくあっちに去っていく様は、何とも寂しすぎる。このボトルだけが悪かったのか。次ぎのリニエと比べるには、土俵が違いすぎると思わざるを得ない。もう1本試したい欲求が起こらないので、誰かに確認してもらえれば幸いだ。このクラスにして5年の歳月は少し酷なのだろうか。まるで80年代のワインを飲んでいるかのような錯覚が寂しい。若きイブ氏にこのワインの感想を直接伝えたい気分だ。彼は何と言うだろうか。ただし、このワインは南ローヌの白ワイン(ルーサンヌ+マルサンヌ+ビオニエ)(あまりおいしくなかった)の直後に飲んだため、その力強い味わいに押された感もあることも付け加えておこう。


5.ACブルゴーニュ ユベール・リニエ
 某氏宅にて。うまい。黒系果実味がしっかりとした熟成感を持っていて、非常に滑らかな味わいにコクが加わり、クラスを超えた喜びに包まれる。エレガントなモレ・サン・ドニ的な要素を十二分に持つACブルゴーニュだろう。コトティドより200円高かったが、その差はその20倍以上の開きがある。さすがリニエだ。この年のクロ・ド・ラ・ロッシュの実力がこのACブルゴーニュというスタンダードワインからも窺い知れるというものだ(いや、少し無理があるかも)。とにかく抜栓後じんわりと力強さを増していく。そこはそれ、ACブルゴーニュゆえのコンパクトさはあるが、食事と合わせるには充分過ぎるほどのワインである。このリニエのワインも熟成モードがしっかりあり、この瞬間が熟成のピークであるかも知れない味わいだった。いつもと違う某所に数本あったので、買占めに行きたい欲求もあったりする。ちなみにコトティドも同じ某所で購入。


6.ACブルゴーニュ ルロワ
 某氏宅にて。定番中の定番。熟成感はリニエよりあり、その外さない味わいは、逆に面白みをそがれたりする。うまくて当たり前。超お買い得だが、予想通りの味わいは、知的好奇心をくすぐらないので、少し寂しかったりもする。熟成感のある果実味は若干リキュールっぽさを伴っていた。


まとめ
 1997年は明らかに熟成モードに突入している。一流の造り手のワインならば、これからもグイグイ楽しめそうだが、それ以外は、もはや飲み頃を過ぎている可能性もある。一流のなかでもやさしさが基調にあるドメーヌは、判断に迷う。今飲んだほうが、喜びは持続できるかもしれない。そのやさしい味わいを最大限かつ最終局面で味わえるかもしれないからだ。

 5年前の1997年ビンテージがかくも熟成がすすみ、一方では溢れる果実味と熟成感という一挙両得のおいしさに出会え、一方では飲み頃の下り坂に入っているワインもある。新鮮な果実味に慣れ親しむ者にとっては、この下り坂感は残念でしようがない。1997年は早く飲んだほうがいいのではないかと、なにやら、そう思う今日この頃だ。

 今回のコラムはまったくの個人的な感想であり、食事と合わせてのドリンキングだったので、あくまでも参考程度ではある。10本を超えないサンプル数は判断を決定するには少なすぎる向きもある。そもそも特級ワインとACブルゴーニュという数ランク離れたワインを同時に考えてはいけないという説もある。しかし1995年のクロード・デュガのジュブレ・シャンベルタンでさえ昨年時点で下り坂まっしぐらの傾向があったことを思うと(サンプル数4,5本)、せっかくのおいしいワインはおいしいうちに飲みたかったりする。

 ワインは難しい。しかしその難しさもまた喜びのひとつだと思うのだった。ワインの旅は続く・・・。

 
以上



ドリンキングレポートへ ワインコラムへ  HOME

Copyright (C) 1988-2003 Yuji Nishikata All Rights Reserved.