MONOPOLE 単独所有畑  2002/10/12
 ブルゴーニュからの問題。
 ブルゴーニュ地方はひとつの畑に複数の所有者がいるが、例外的にその畑を単独で所有しているケースがある。その畑をモノポールMonopoleといい、エチケットにも堂々と記載されている。今回はその幾つかを列挙してみたい。畑の中の小区画のみを単独所有しているケースもあり、知り得る限り載せてみた。これ以外にも幾つか確認されているが、追加情報は都度UPしたい。ただしとりたてて取り上げる必要のない畑については意図的にUPしていなかったりもする。ちなみにブルゴーニュ全体では特級畑33、一級畑562、村名アペラシオンは42、地域名アペラシオンでも22ほどある。村名格以下の名称畑は一帯幾つあるのだろう。途方もない数がありそうなので数えるのはやめておく。(数値の参考資料 = 祝福された地ブルゴーニュのワイン フランス食品振興会発行の小冊子)

 全体数から見て下記の数量は明らかに少数である。

格付 AOC 名称畑(区画名) 所有者
AOCの単独所有(このアペラシオン内には他の所有者は存在しない)
特級 ロマネ・コンティ 同左 ヴォーヌ・ロマネ DRC .
特級 ラ・ターシュ 同左 ヴォーヌ・ロマネ DRC .
特級 ラ・ロマネ 同左 ヴォーヌ・ロマネ リジェ・ベレール家 a
特級 ラ・グランド・リュ 同左 ヴォーヌ・ロマネ フランソワ・ラマルシュ .
特級 クロ・ド・タール 同左 モレ・サン・ドニ モメサン .
名称畑の単独所有(名称畑=クリマ の全てを単独に所有))
一級 モレ・サン・ドニ 1er cru クロ・ド・ラ・ビュシエール モレ・サン・ドニ ジョルジュ・ルーミエ b
一級 ヴージョ 1er cru クロ・ブラン・ド・ヴージョ ヴージョ レリティエ・グヨー .
一級 ヴォーヌ・ロマネ 1er cru クロ・デ・レア ヴォーヌ・ロマネ ミッシェル・グロ 1
一級 ニュイ・サン・ジョルジュ 1er cru クロ・ド・ラ・マレシャル プレモー フェブレ .
一級 ニュイ・サン・ジョルジュ 1er cru クロ・デ・フォレ・サン・ジョルジュ プレモー ドメーヌ・ド・ラルロ .
一級 ニュイ・サン・ジョルジュ 1er cru クロ・デ・ラルロ プレモー ドメーヌ・ド・ラルロ .
一級 ボーヌ 1er cru クロ・サン・ラドリ ボーヌ ブシャール .
一級 ボーヌ 1er cru クロ・ド・ラ・ムース ボーヌ ブシャール .
一級 ヴォルネイ 1er cru クロ・ド・ラ・ブスドール ヴォルネイ ラ・プス・ドール 2
一級 ヴォルネイ 1er cru クロ・デ・デュック ヴォルネイ マルキ・ダンジェルヴィーユ 3
村名 ジュブレ・シャンベルタン アン・モトゥロ ジュブレシャンベルタン ドニ・モルテ .
地方 ブルゴーニュ・オート・コート・ド・ニュイ クロ・サン・フィリベール オート・コート・ド・ニュイ メオ・カミュゼ .
名称畑の小区画の単独所有 (名称畑の一部や古区画を単独所有する)
特級 リュショット・シャンベルタン クロ・デ・リュショット ジュブレシャンベルタン アルマン・ルソー .
特級 コルトン クロ・デ・コルトン・フェブレ ラドワ・セリニ フェブレ c
一級 フィサン 1er cru クロ・ナポレオン フィサン ピエール・ジュラン
ジュラン・エ・モラン
.
一級 フィサン 1er cru クロ・ド・ラ・ペリエール フィサン フィリップ・ジョリエ .
一級 ジュブレ・シャンベルタン 1er cru クロ・デュ・フォントニ ジュブレシャンベルタン ブリュノ・クレール .
一級 ヴージョ 1er cru レ・プティ・ブージョ クロドラペリエール ヴージョ ベルターニャ .
一級 ニュイ・サン・ジョルジュ 1er cru ポワレ クロ・デ・ポワレ ニュイサンジョルジュ アンリ・グージュ .
一級 ボーヌ 1er cru オー・クラ クロ・ド・ラ・フェギーヌ ボーヌ ジャック・プリュール .
一級 ポマール 1er cru クロ・デ・ゼプノー ポマール コント・アルマン .
一級 ヴォルネイ 1er cru クロ・デュ・シャトー・デ・デュック ヴォルネイ ミッシェル・ラファルジュ d
一級 ヴォルネイ 1er cru カイユレ・クロ・デュ・60・ウヴレ ヴォルネイ ラ・プス・ドール .
一級 ヴォルネイ 1er cru クロ・ドーディニャック ヴォルネイ ラ・プス・ドール d
一級 ムルソー 1er cru クロ・デ・ペリエール ムルソー アルベール・グリボ .
一級 ピュリニ・モンラシェ1er cru クロ・ド・ラ・ピュセル ピュリニ・モンラシェ ジャン・シャルトロン .
一級 ピュリニ・モンラシェ1er cru クロ・ド・ラ・ガレンヌ ピュリニ・モンラシェ デュック・ド・マジャンタ e
一級 ピュリニ・モンラシェ1er cru クロ・ド・ラ・ムーシェル ピュリニ・モンラシェ アンリ・ボワイヨ .
一級 シャサーニュ・モンラシェ 1er cru クロ・ド・ラ・シャペル シャサーニュモンラシェ デュック・ド・マジャンタ e
村名 ムルソー クロ・ド・ラ・バール ムルソー コント・ラフォン f
 註 小区画の場合は、エチケットにmonopoleと表記していないものも多い。
 a  醸造から販売までブシャール社が担当。
 b  畑名はラ・ビュシエールだが、ルーミエのエチケットを優先した。
 c  コルトン・エ・ロニェの区画にあり、1935年発令のAOC法の特例として商標名が許可された(1930年の判決による)。
 d  ヴォルネイの市街地を囲む一級ル・ビラージュと呼ばれる集合体の古区画のひとつ(ずつ)。
 e  醸造から販売までルイ・ジャド社が担当。
 f  クロ・ド・ラ・バールはバールの一部として扱った。

その他
 ドメーヌ・フジュレール・ド・ボークレールはシャンボール・ミュジニ村側の唯一のボンヌ・マールの所有者
 ドメーヌ・ジャック・プリュールはミュジニの小区画のコンブドルボーを単独所有。

 
<モノポールの重要性>
 モノポールとは単独所有畑のことであり、たった一人(法人・個人を問わない)の生産者しか、そこからワインを造り出すことはできないことを意味している。したがってブルゴーニュの大きな特徴である「複数所有者による品質のばらつき問題」は発生しないということだ。常に他者と比較される運命にあるブルゴーニュのワインにあって、この例外はどういう意味を持つのだろうか。私はそれを「その造り手のフラッグシップ的ワイン」と位置付けて、接している。比較されないということは、その造り手の技術や哲学がそのワインの評価に直結しているからだ。

 例えば、ドメーヌ・ミッシェル・グロはヴォーヌ・ロマネにクロ・デ・レアという畑を単独所有している(記の1)。この畑は細分化されたグロ家にあってなお、単独所有が守られている貴重な畑である。この単独所有形態を維持するために、父ジャン・グロの生前贈与の時、ミッシェル・グロは妹のアンヌ・フランソワーズ・パランに貴重な特級リッシュブールを相続させたのではなかろうかと推測したくなるほど、この畑の意義は大きい。商売的には当然特級リッシュブールを所有することが大きなメリットに繋がるが、その畑を簡単に妹に譲ってまでクロ・デ・レアの単独所有を維持したとみるほうが、「人がいいお兄さんだから妹の頼みはすぐ聞いてあげた」的な推測より説得力があるかもしれない。

 クロ・デ・レアは村名畑オー・レアに接し、評価的には限りなく村名に近い一級畑である。この村を代表する畑はもちろんロマネ・コンティだが、一級畑だけに焦点を合わせると、リッシュブール側のクロパラントーやボーモンの方が評価が高くならざるをえない。それは両者を比較試飲すれば一目瞭然である。ポテンシャルがまったく違っていることに気づかずにはいられないからだ。しかし単独所有という貴重な所有形態が、格下に見られがちなクロ・デ・レアの注目度をアップさせている。ドメーヌ・ミッシェル・グロのビンテージの評価は特級クロ・ド・ヴージョもさることながら、このクロ・デ・レアの出来不出来が影響していることは周知の事実である。

 ヴォルネイの雄、マルキ・ダンジェルヴィーユのクロ・デ・デュック(記の3)もグロ家のクロ・デ・レアと同様、村名畑に接している。一般的にこの村を代表する畑には、カイユレやシャンパンが挙げられるが、このクロ・デ・デュックはやや軽い印象を受けるものの、気品に溢れ、非常に高水準である。

 また、ラ・プスドールの単独所有畑のクロ・ド・ラ・ブスドールBousse d'Orも面白い(記の2)。この畑には曰くがある。自社の所有する畑名をドメーヌ名にするときは、その畑以外に畑を持ってはいけないという法律に抵触し、プスドールはドメーヌの目の前に広がる畑の名をブスドールに変更したというあれである。ロマネ・コンティがこの法律の対象から外れた理由も不明ながら、Pousse d'OrのPBに変えただけという超皮肉的な対応がいかにもフランスチックで面白かったりもする。それはさておき、この畑もヴォルネイの一級ではあるが、同じく一級畑のクロ・デ・シェーヌやシャンパンと比べられると少し部は悪い。このあたり一帯が一級といえども、ワンランク下がる一級畑であるためだ。しかし、プスドールを語るときは、このブスドールが評価の対象のひとつになることは、このワインがこのドメーヌのフラッグシップだからである。

 モノポールについて語るとき、どうしてもロマネ・コンティは外せない。DRCはヴィレーヌ家とルロワ家の共同経営であるが、組織は株式会社化された法人である。個人経営の場合、当主の死に伴う遺産相続により畑が均等分割される危険性がある。グロ家やドメーヌ・ソゼが典型的な例だ。しかし株式会社ならば所有する株式の相続が発生するだけで、畑が分割されることは避けられる。株主が変更されるだけだ。ロマネ・コンティは相続による分割を回避されており、それはロマネ・コンティのモノポールを守るためにも重要な選択である。それほど単独所有という形態は重要視されているのだ。

 ブルゴーニュワインを選ぶ基準に造り手の評価が挙げられる。それは同じシャンベルタンでも造り手によって品質が異なるからだ。しかしブルゴーニュの造り手は複数の畑からワインを造っている。本来ならば全てのワインを評価した上で判断するのが賢明であるが、同じ造り手の複数のワインを集めるのは困難を極める。それは生産量が少ないこともあるが、高価であることも重要な要素だ。

 そこでその造り手が単独所有の畑から造るワインに注目が集まるのは、ある意味自然な流れだ。そのワインの評価が高ければ、他の畑も高品質が予想でき、各畑の評価とビンテージ情報を考慮すれば、そのワインを買うべきか買わざるべきかの判断の一助になるだろう。他者と比較されないということは、その造り手自身が問われているともいえる。手を抜いてもバレないが、その手の抜き方は見る人には。たやすく見破られてしまうはずだから。これはワインは畑であり、造り手の情熱や哲学が反映するためである。

 MONOPOLE = 単独所有畑
 手に取ったワインにMONOPOLEの表記があったならば、それは単独所有という意味のほかに、もっと重要な意味が込められているかもしれない。そんなことを思いながら飲む夜も結構楽しいだろう。 

 次回はひとつの畑や区画に二人の所有者がいるケースを考えてみようかな。


以上



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