今回は泡でもって世界を魅了するシャンパーニュについて紐解いてみよう。シャンパーニュはスパークリングワインの代名詞的存在ではあるが、AOC(原産地呼称統制法=いわゆるワイン法)によって、この地方で造られるスパークリングワインだけが、栄光のシャンパーニュを名乗ることが出来る。そしてシャンパーニュの大きな特徴にビンテージのブレンドが挙げられる。今回はこの特徴について迫ってみよう。
なぜ複数のビンテージをブレンドするのか。
それは、シャンパーニュ地方が寒冷地で、葡萄の作柄が天候によって大きく影響を受け、そのために出来上がるシャンパーニュの品質にも影響を及ぼすからである。シャンパーニュは常に同じ味が求められているので、天候による品質の差は回避しなければならない。そこで、いい年もそうでない年も、年によって差が出ないように、複数のビンテージをブレンドすることで安定化を図っているのだ。そして例外的にすばらしい実りとなった年に限って、その年だけでシャンパーニュを造り、ビンテージシャンパーニュとして高品質の味わいを達成している。
ビンテージがないということは。
造り手にとっては、品質の安定が図られ、常に最高水準のスパークリングワインを供給できるメリットがある。しかし、複数のビンテージをブレンドしているためにエチケットにはビンテージを表示することは出来ない。これが、消費者に少なからぬ影響を及ぼすことになる。
例えば、毎年11月第三木曜日に解禁されるボジョレー・ヌーボーと比べてみよう。ボジョレー・ヌーボーは新酒のお祝いであり、今年もおいしいワインが出来ました、の意味合いが強く、フレッシュな果実味が身上である。新酒であるがゆえに、このワインは長期に熟成させて飲むのではなく、11月の第三木曜日から数週間のうちに(年内?)、みんなでワイワイガヤガヤ楽しむワインだ。そして当然のことながら、ボジョレー・ヌーボーには堂々とビンテージが記載されている。ビンテージが無いと、ちょっと新酒のお祝いムードが盛り上がらないではないか・・・。それゆえ2003年の秋口に2002年のボジョレー・ヌーボーを店頭で見かけようものなら、飲み頃を逸してしまったがゆえに、かなりのダンピング価格で売られているはずだ。そして2000年や90年代のそれを見かけようものなら、ワイン好きがボジョレーの熟成をテーマに飲む場合を除いて、そこに感動的な出会いは期待できなかったりもする。(もちろん例外もありうるので、レストランで熱心に勧められたら飲んでみたかったりもする・・・)
しかしシャンパーニュにはビンテージ情報の記載がない。善良な生産者ならば、デゴルジュマン(出荷直前のある重要な作業)をした日付を記載しているが(ブリュノ・パイヤールやジャック・セロスなど)、ほとんどのシャンパーニュは、いつ収穫され、いつデゴルジュマンされたかの情報は分からないのだ。シャンパンハウスを出荷して、飛行機経由で到着したばかりのシャンパーニュもあれば、数年間も地球上を彷徨い続けた可能性があるシャンパーニュもある。その違いは、表面的には分からない。しかも、シャンパーニュは全世界の豪華な食卓をターゲットにしていて、世界中で同じ銘柄を飲むことが出来る巨大産業でもある。どこかの国で政情不安や何やらが起こってしまい、急速に外食産業や国内消費が落ち込んだ場合、一度納品されたシャンパーニュは新たな需要を求めて、各国を放浪しかねない。停滞在庫は企業にとって、由々しき問題で、流通させなければ、資金上問題を生じることになる。シャンパーニュのグローバルな側面を見る思いである。
地球を巡る冒険
地球をぐるりと廻っても、保管が完璧であるならば特に問題はない。しかし、その履歴を正確に追うことは不可能に近い。さらにはシャンパーニュは場所もとり、温度管理も大変だ。経費削減の折、炎天下に倉庫の外での日向ぼっこなどされようものなら、あっというまに品質にダメージを与えてしまう。そして都合が良いことに? その品質は外観からは分からず、コルクを抜いてみるまで分からないのだ。これは結構辛いものがあったりする。
目の前のシャンパーニュの出荷からの履歴が分からないという現実はいかんともしがたいが、唯一の判断は善良な酒屋さんからの情報を頼ることである。ワインを愛する酒屋さんはワインの流通にも心血を注いでいるからだ。善良な酒屋さんと懇意になれば、地球を巡ったはずれシャンパーニュとの遭遇は回避できる。シャンパーニュは、大切な夜に必須なワインである。そのシャンパーニュが健全でないと、せっかくの夜が台無しになってしまう。そうならないためにも、事前に酒屋さんとよく相談して、おいしいシャンパーニュで素敵な夜を過ごしたいものである。
シャンパーニュには賞味期限も書いていなければ、出荷の日も書いていない。
これはシャンパーニュのノンビンテージ制度は高品質維持の知恵であり、同時に流通の盲点でもある。
知恵と悪知恵が錯綜する中、知恵の恩恵を大いに楽しみたいものである。ワインはデゴルジュマンから一年以内に飲むべしと自負する私には、このシャンパーニュの特徴にやきもきしながらも、今のところ大変良質のシャンパーニュに恵まれ、つくづく感謝なのである。
さて、健全なシャンパーニュの見分け方だが、抜栓後コルクがマッシュルーム状にパンと膨らめばまず問題はない。しかし、痛んだ油で炒めたようなしなしなキノコになっていようものなら、ちょっと心配だ。そして溢れるはずの泡がなくなっていようものなら、それはシャンパーニュの使命を終えていることになる。そしてもちろん独特の異臭もあったりする。ただ世の中には、この状態のシャンパーニュに、熟成を感じる方もいるので、人それぞれのシャンパーニュがあるものだと思ったりもするが・・・。
いずれにしても、せっかくのシャンパーニュはおいしく飲みたい・・・avec
toi 。
おしまい
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