再び1997年考  2003/10/01

 昨夜、自宅の近所に3ヶ月前に出来たレストラン兼ワインバーで、タルデュー・ローランのヴァンドペイドック・キュベ・スペシャル(リーデル製グラスに入って一杯500円って安いぞ)をカウンターに座って一人で飲んでいた。お客は私のほかにはテーブル席の女性二人組と、同じくテーブル席の若いカップルだった。カウンター越しにメートルさんとの会話は盛り上がり、店内のインタリアや配置の話になった。店内をぐるりと見回すと、カップルたちが飲んでいるワインのボトルが目に入った。それは遠めにも分かるブルゴーニュワイン。そうドメーヌ・デュジャークのそれだった。ワイン名までは確認できなかったが、ワインリストを覗けば、それが1997年のモレ・サン・ドニ(村名)だということが分かった。「綺麗な女性と、いいワイン飲んでるなあ」と寂しそうに呟くと、思わぬ会話が耳に触れた。

 「97にしてはおいしいね」

 ん。その一言が、ちょっと酔ってる私の何かに接触したようだ。

 この一言から推測できることは、いくつかある。まず、彼氏はワイン通であるということだ。そう安くはないデュジャークを飲んでいることからもそれは伺える。そしてビンテージ情報にもある程度精通していて、ワインの知識もそこそこありそうだ。しかし、である。「97にしては」の「にしては」にはある意思を感じ、それは私の思いとは決して交わることがない一言だった。「97年を笑う奴は97年に泣く」とまでは言わないが(言ってもいいかも)、彼は97年にそれほどいい印象を持っていないと想像させる一言である。

 確かに日本での1997年のブルゴーニュのビンテージ情報は控えめな評価だ。しかし1997年の評価は誰がして、誰が流布しているのだろう。1997年のフランスでの評価は度重なる上方修正を経て、今この瞬間に飲むには最高のビンテージであるということを知っていて欲しかった。そして、もちろんブルゴーニュ魂的にも大好物ビンテージである。1997年は赤も白も、そもそもおいしいのである。この年のピノノワールとシャルドネは日本人の味覚に最も合うビンテージの個性ではないかと思ったりしている。和のお出汁系の味わいに通ずるビンテージなのだから・・・。

 なにが「97にしてはおいしいね」だ。かわいい彼女とお洒落なお店で幸せそうにデュジャークの1997年を飲むなんて・・・。桃のタルトなんてデザートに頼みやがって。ちくしょ、うらやましすぎるぞ。てやんでえ。

 要は・・・、そういうことかも。


おしまい



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