熱いワイン  2004/08/09

 ワインが泣いていますシリーズを数回・・・。


 しかし、今年の関東地方南部は暑い日が続いている。(←夏なので当たり前ですが・・・)

 こんな暑い日は、ワインにとっては喜ばしくなく、輸送が特に難しい季節である。酒屋さんの14-16℃に設定されたワインセラーや空調の効いた部屋から一歩外に出れば、そこは摂氏30度以上の灼熱?ワールド。この気温差でボトルの中のワインが膨張し、コルクの隙間を狙ってワインが吹き零れてしまうし、そもそもアルコール度数12-14%のワインは、30度以上の環境には耐えられない飲み物なのだ。(だから先人たちはマディラなどの酒精強化酒を発明した・・・)

 夏場の輸送については、酒屋さんからのメールでもその難しさを指摘しながら、クール便での輸送を働きかけているし、一部の良心的な酒屋さんでは、クール便指定に伴う費用を負担してまで、ワインの輸送に責任を負っているところもある。

 そんな中、ちょっとエっと思う光景に遭遇した。

 「このワインを秋になったら飲む予定なんです」

 某所で、某氏が某氏に嬉しそうに差し出したワインを横から拝見すべく、ちょっと触ってみると、非常に熱かった。私の体温は36.5℃くらいなので、その体温をして熱いと感じさせるからには、少なくとも36.5℃以上になっていると推測される。某氏によれば、車の助手席にワインを置いて、この場所に来たという。車にはエアコンがないらしく、バッグの中に入れて運んだとはいうものの、夏の車内の高温を想像すると、このボトルの熱さの原因は容易に判明するのだった。俄か私には信じられない光景だ。夏のこの時期にエアコンもかけずに、さらに保冷剤を用意するでもなく運ばれたワインは、至極残念なワインになってはいないだろうか。(そのワインの種類や品種の特性からして、高温に耐えるとは思えない)

 それはつまり高温による微生物の活性化による腐敗や劣化など様々な悪影響が想像されるのだ。

 そもそも、このワインは、人のワインなので、どう飲もうが勝手といえば勝手である。しかし、私はそのワインは、温度耐久の実験を名目としていない限り、誰かに飲まれることに非常な「ためらい」を覚えてしまう。一度高温にさらされたワインに対してなんら疑問を抱いていない素振りを見せる某氏(注)には、温度管理の重要性を説くことに困難さを感じ、言葉で説明することに違和感と面倒くささを覚えながら、そのワイン一緒に飲みましょうと誘われようものなら、どうやんわりと断ろうか悩みつつ、結局は断られず、一人だけワインの温度耐久の実験モードがばれないように、素直にそのワインを一緒に飲み、しかめっ面がばれないようにしないといけないのかと思うと、少しばかり憂鬱な秋を迎えそうである。または、そのときこそ正直に高温劣化の可能性を指摘すべきであろう・・・。

 そのワインをもって、そのワインの評価が下されることに、違和感を覚える。

 ワインが泣いています。

 夏場のワインの輸送は、特に慎重に。(保冷剤や空調設備は必須です)

 それが、ワイン好きの最低限のモラルであって欲しいと願うばかりだ。


おしまい

(注) なお文中の某氏は、程度の差こそあれ、複数存在し、彼らが全くのワイン初心者ならば、真っ先に温度管理の必要性を説くものの、どうもそれほど初心者でもないようなので、むにゃむにゃむにゃと会話が終わってしまったのだった。小心者ですみません。



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