甲州ワインの美味しさ  2004/10/12
 
 先日、山梨県勝沼の某ワイナリーでワイン造りのお手伝いをさせてもらった。デブルバージュ、シャプタリザシオン、総量チェック、除硬破砕、低温浸漬の準備、等々・・・葡萄の収穫期のこの時期、ワイン造りはもの凄い忙しさなのだ。私も、時にはホースを抱えて醸造所内を駆け抜けて、時には箱あたり10キログラムの葡萄が入ったケースを持ち運び、時にはタンクを清掃したりした。なかなかに重労働なのである。そして仕事のワンクールが終了すると、すぐさま清掃に徹する日々は、レストランの美しい厨房にも似ていて、青山の某シェフの「美しいものは美しいものしか生まれない」という名言が心に響くのであった。

 で、そんな重労働を終えて、醸造スタッフと夕飯を食べに近くの食堂に向かった。ここは、いわゆる定食屋さんで地元の人に愛されているといった風情が漂い、夜は10時に閉店しますという張り紙があちこちに張られ、地元の人の良き酒宴の場も兼ねつつ、「あまり夜遅くは勘弁ね」というメッセージが楽しい場所であった。定番らしいもつ煮込みと野菜炒めを頼みつつ、まだ一仕事残っていたが、ワインを飲もうということになった。ビールじゃないよね、ワインだよねという暗黙の了解の下、運ばれたワインは地元の他ワイナリーの甲州ワインだった。

 どぼどぼどぼ・・・。頑丈なグラスに豪快に注ぎつつ、素直な仕草で、口にすると甲州の独特の苦味に食欲をそそられて、「あらよ」という間にいい気持ちになってしまった。そして遅れてやってきた名物?のカツカレーとともに甲州を飲み続けた。

 「うまい」

 疲れた体に染みる味わいは、カツカレーと甲州ワインの相性云々を論ずるより前に、「うまいなこれ」の世界に突入してしまったのだ。合う合わないのレベルではなく、「うまいなこれ」の世界。ワインの地元でワイン造りで生計を立てている人と、重労働系の一仕事終えて楽しむ夕飯の美味しさに、ハッピーを感じつつ、甲州ワインは何の違和感もなく、そこに存在しているのだった。これぞ、食中酒としてのワインの本領発揮といったところだろう。

 カツカレーのとなりに、甲州ワインがある。

 言葉で書くとワイン好きならちょっとした違和感を覚えそうだが、現物がふたつ、ちょこんと並んでいると、妙にマッチするその光景に、日本におけるデイリーワインの昔っからの姿がここにあるような気がして、酒が進むにつれて醸造談義で盛り上がる酒席の末席を汚しつつ、勝沼での素敵な夜は過ぎていくのであった・・・。まさに甲州の美味しい飲み方発見であり、「ワインはシチュエーションの作りかた次第」という日本屈指の某ワイナリーの美人で博学にもかかわらず関西お笑い系の精神をこよなく愛する某女史(←こうかくとまた怒られてしまうかも・・・)の言葉が思い出されるから嬉しくなってしまうのであった。そして、どうやらデイリーに甲州が楽しめる環境を、勝沼界隈だけに留まらず、日本全国に広げたい症候群が私を襲ってくるのであった・・・。

 力仕事のあとに、カツカレーとともに甲州ワインを楽しむ夕べ。ぜひ。


おしまい


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