ブショネについて  にしかたゆうじ
 先週発売されたワイナート誌25号に興味深い特集記事がある。「あなたのブショネ体験」というコーナーだ。ここでは読者からのアンケートとして、ブショネに当たる頻度が紹介されているのだが、その数字は驚きに値するかもしれない。アンケートに寄れば、ブショネに当たったことがない人は全体の51.4%で過半数を占め、50本に一本程度が44.7%に達しているのだ。一般にブショネは5%程度と言われており(統計により数値はまちまち。ここでは世界の名酒事典から堀賢一氏の意見を参考にした)、統計と一般消費者の認識が異なっているのだ。

 これはどういうことなのだろうか。

 考えると結論は一つしかない。「日本では、ブショネが認識されていない」ということだろう。これはある意味幸せなことでもあるが、一方でワインの欠陥が認識されていない事実も重要で、健全なワインの妨げになっていそうな気配に一抹の不安を覚えたりする。

 私の経験では、正確に本数を数えていないので、誤差は承知しているが、だいたい15本に一本(6.7%)位の確率でブショネに遭遇し、痛い目にあったりしている。ワインセミナーの場合は代替ワインを手配できないケースが多く、致し方ないので、これがブショネのワインですと宣言しつつ、参加者に紹介したりしているが(ココがワイン会ではなく、ワインセミナーであることの由縁だったりするが・・・)、これがメインのワインだったりすると目もあてられなくなるから、ちょっとドキドキなのである。(かつてドー○ネのアリゴテで遭遇した時は、かなり悲しかった・・・。)

 少し脱線すると、いつもお世話になっている某氏に寄れば、白ワインがブショネになっていると、神田の古本屋街の某書店の洋書コーナーの香りにそっくりとのことで、古本屋巡りをされている某氏にとっては、ブショネの香りは懐かしさも手伝って、決して嫌いな香りではないと言う。たしかに某氏とそんなワインを確認しあえば、それはそれで悪くないから面白い。

 ブショネの対応は、立場によって微妙に異なるので、対策は難しいようである。たとえば、ご一緒した人が、「このワイン美味しいね」と、ブショネのワインに感動してしまっていたら、もうその時点で、そのワインがブショネであることは指摘できなくなる。レストランとしてもブショネはワインの欠陥につき無料交換の要件に該当する(注)が、軽度の場合はその判断も難しく、安易に認めれば利益が減少するし、頑なに否定すれば、お客は遠ざかる・・・。ブショネは、ケース・バイ・ケースで対応せざるを得ないと言うのも納得できる話で、たとえばレストランで煙草を吸いながらテイスティングするお客さんのブショネの指摘には対応できないだろうし、デートでガチガチに緊張している男性に気を遣いつつも、ワイン好きと推測できる相手の女性が怪訝そうな表情でグラスを確かめていれば、その男性に代わってソムリエが率先して対応すべきものだろう。ブショネには程度の問題もあり、それを認識する能力差も存在するのだから、一層その対応を難しくしている。そして困ったことに、ブショネを認識できないソムリエも多いようで、それはソムリエ試験にブショネ認識の項目もないことからやむを得ないと言えばそれまでだが、「御飯を美味しく食べるところ」というレストランの位置づけが危ぶまれつつ、行きつけのお店はだんだんと固定していく現実もまた、やむを得ないと思ったりする。

 ブショネは、対応も難しいが、コルクを栓に選んでいる以上やむを得ない欠陥につき、その対応はケース・バイ・ケースながら、お店の真摯な対応に期待したい。そしてそんな対応ができるお店には、あしげく通ってハッピーワインを大いに楽しみたい。

 しかし、一般消費者のほとんどがブショネを認識していない事実は、酒販店やレストラン関係者につかの間の安堵を与えているような気もするし、正しく指摘することは、多くの人を敵に回すような気もするが、美味しいワインを心底楽しむためには、ブショネの認識も必要であると思うこの頃である。

 「すべては美味しく飲むために」


おしまい


(注) 対応しないお店があるとすれば、ワインに利益を乗せていない場合を除いて、すぐさまお店を出た方がハッピーかと思われる。



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