従来は非公開だった日本ソムリエ協会主催の2005年度ソムリエ、ワインアドバイザー、ワインエキスパート呼称資格認定試験(一次試験)の問題が、今年はWEB上で公開されているので、ぺらぺらっとめくってみた。その中に明らかに愚問と思われる問題があったので、紹介してみたい。それは【問31】だ。
問題は、シャンパーニュの法定ぶどう品種として認められていないものを4つの中から一つを選択するというもので、品種はシャンパーニュで呼称される品種の別名が列挙されている。問題はこちら。
1. Beaunois
2. Späitburgunder
3. Schwarzriesling
4. Sérine
これを一般的なワイン用語に置き換えると、
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品種の別名 |
日本語読み |
使用地域 |
一般名 |
1 |
Beaunois |
ボノワ |
トネール(シャブリ近郊) |
シャルドネ |
2 |
Späitburgunder |
シュペートブルグンダー |
ドイツ |
ピノ・ノワール |
3 |
Schwarzriesling |
シュヴァルツリースリング |
ドイツ |
ピノ・ムニエ |
4 |
Sérine |
セリーヌ |
コート・ロティ |
シラー |
参照 Les Livrets du vin Grands cépage HACHETTE等 |
シャンパーニュで使用可能なぶどう品種は、シャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエの3種類だけなので、この場合、4のSérineセリーヌ(一般名シラー)を選択すれば、正解となる。
しかし、である。
ワインを、その土地の風土を味わう食文化とするならば、その土地で育てられる「ぶどう」も文化の中核であると言え、その名称はとても大事な要素であるはずである。しかるにその土地の個性を味わうはずの文化たるワインに対し、同じ品種とはいえ、その土地で用いられることのない別名をソムリエ試験で問いかけることは、文化の軽視に繋がるものと考えられる。シャンパーニュのぶどう栽培者は、ピノ・ノワールとピノ・ムニエをドイツ名で呼ぶことはなく(ドイツ系の人は言うかもしれないが・・・)、またシャルドネについては、使用される土地が近いこともあってその名で通用する可能性はあるが、シャンパーニュのマルヌ地方の土着名「épinette」や、オーブ県の土着名「arboisier」で呼ぶよりも少ないと考えられるからだ。
私はこの問を、愚問と思う。
こんな意味のないカルトクイズを問いかけるよりも、シャンパーニュにおいて、なぜにこの三種類のぶどうだけが法定品種として認められ、世界に名だたるシャンパーニュとして、世界中の食卓に届けられるのか。その土地のぶどうの個性や歴史や風土を問いかけてこそ、食文化としてのワインを知る楽しみが増えると思う。
この問題の出題者やソムリエ協会は、ぶどう品種の別名をいろいろ言えて、うれしいかもしれないが、表面的な知識の押し付けは、ワイン文化の発展や共有の邪魔にしかならないことを知るべきと思うのは、私だけだろうか。この試験の目的は、大げさに言えば、ワインオタク養成講座なのではなく、ワイン文化の伝道者の輩出なのだから、ワインの本質を共有すべきなのであって、「ワイン薀蓄王選手権」のレベルに落としてはいけないと思ったりする。毎年、この手の問題を見つけるにつけ、なんだか寂しい思いに駆られるのが、私だけでないことを祈ったりする。
ワインの話は、その土地で使用される用語または一般名で楽しみたい。それは例えば、津軽の祭りについて、博多弁で語っても全く意味をなさないことと、同じだ。
ちなみに別の問では、ドイツと国境を接する国の数を問いかけるものもあり、それもまた微妙だったりする。ルクセンブルクはドイツと接していたかなあ???
おしまい
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