冷やしすぎたシャンパーニュ  にしかたゆうじ 2006/02/07
 先日、甲府の会で、アラン・ロベールのビンテージ・シャンパーニュ 1986ル・メニル テット・ド・キュベをロブマイヤー社のバレリーナシリーズ シャンパーニュ・チューリップ・トールに注ぎ分けたのだが、このときの温度設定に油断があり、少し冷やしすぎてしまった。この場を借りて、言い訳のひとつも展開してみたいと思う(笑)。

 1986年という古酒といっても良いくらいのビンテージシャンパーニュを空ける際は、通常のシャンパーニュの時とはその液温に差を設けなければならず、それはシャンパーニュの熟成を表現するためには、きりりと冷やして清涼感を楽しむのではなく、ブルゴーニュの銘醸系白ワインと同程度の緩めの温度設定によって、芳醇な味わいを楽しむべきであるからだ。

 セラー内の温度が16℃前後だとすると、個人的にはこの温度でも可能と思われるが、セラーから出して、抜栓するまで時間がある場合には、暖房の効いた室温になじむうちに、シャンパンの温度も自然と上昇するので、ある程度は冷やしておいたほうが、適温を維持できる。そこで大抵は一度冷やすことにしているのだが、その按配が少し難しかったりする。

 というのも、今回抜栓した銘柄は、以前に別の場所で抜栓してもらったことがあり、その時は、室温でサービスされ、今ひとつぬるいと感じたことがあった。その時の記憶がトラウマとなって、もしもう一度室温になじみすぎていたらどうしよう、と悩んでしまったのだった。一度グラスに注いだシャンパンは、容易に冷やすことができず、さりとて、もう一杯注いで温度を調整するには量が足りず、何人かでひとつのボトルを楽しむ場合は、温度設定一発勝負の要素も含んでいたりする。一方で、ワインを温めることは意外に簡単で、しばらく置いておけば自然と室温になじむし、急ぐ場合は掌で温めてもよいと思われる(生産者の多くがそうやってワインを温めるように・・・)。

 今回は事前準備の段階で、液温が温かった記憶が見事に蘇り、いつもより余計に冷やしてしまったからに、アラン・ロベールの傑作シャンパーニュは、想定よりも少し冷やしすぎてしまい、それはブショネチェック用に取り分けた少量のシャンパーニュからも察知し、温度を上げるべくボトルを両手で抱いたりしたのだが、一度芯まで冷えたボトルは用意には温まらず、しかし時間は刻一刻と進むのであった。

 とりあえず、少し冷やしすぎた嫌いはあるものの、シャンパーニュとしての温度には問題はなかったので、ここは潔くサービスした。しかし予想通り、その温度設定は、このシャンパーニュを楽しむためには、冷たく、1986年という20年前の収穫にもかかわらず、熟成感は遠くに消えて、新鮮な果実味とシャープな酸が前面に出ることになり、やはり違和感のある温度になってしまっていた。

 しかし、ここで神の手が下りることになる。このシャンパーニュは偉大なシャンパーニュだったので、冷たいから適温に進む時間軸の間で、内在する要素を、あたかもバラの花びらを一枚ずつ取り除くかのごとく、ゆったりといろいろな表情を見せてくれた。怪我の功名というには、少しばかり違和感も拭えないが、温度変化による熟成型シャンパーニュの楽しみが、ここに展開され、思わずホッと肩をなでおろすのだった。

 冷えすぎたシャンパーニュを温めるには、室内の温度を暖かくすればよい。偉大のレベルに到達シャンパーニュは、いろいろな温度で楽しむ懐の大きさを持っていて、しかし、できることなら最初から適温にすべきで、今回のトラウマによる液温設定のミスは、次回の会に役立てたいと思うので、今回はいい経験をしたというカテゴリーに納めていただければ幸いであり、そんな感じで許してもらえるとうれしかったりする。

 シャンパンもまた偉大なり。ということで今回は丸く治めて・・・。


つづく


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