グラスの妙  にしかたゆうじ 2007/11/10

 先日、大阪・心斎橋のワインバーにてプロフェッショナルを対象としたセミナーを開催しました。その時のテーマのひとつに、シャンボール・ミュジニの畑の斜面の違いと、適応するグラスについて、がありました。テイスティングしたワインは下記のとおりで、グラスはいつものように、ロブマイヤー社のバレリーナシリーズ・グラスVとブルゴーニュでした。(会費とグラスの値段が全くつりあっていません・・・(笑))

 2005 シャンボール・ミュジニVV        ユドロ・バイエ
 2005 シャンボール・ミュジニ1級シャルム  ユドロ・バイエ
 2005 シャンボール・ミュジニ1級レクラ    ユドロ・バイエ

 シャンボール・ミュジニ村の特徴を押さえておくと、この村は基本的には赤ワインの産地で、ピノ・ノワールが全面的に植わっています。しかし、特級ミュジニには白ワインとしての格付けも有していて、シャルドネでワインを醸せば、すなわち特級ミュジニを名乗ることが出来る産地なのです。コート・ド・ニュイ地区で唯一、白の特級畑を有するシャンボール・ミュジニ村は、その事実を反映するかのように、赤ワインであるのに、モンラッシェやコルトン・シャルルマーニュとの相性に冴えを見せるブルゴーニュ・グラスとの組み合わせに妙技を見せることが多いようです。

 で、今回はそれを実践してみました。参加者は7名様でしたので、グラスを二種類用意して、均等注ぎしてご案内しました。つまりは14等分ですね。750mlの14等分は、62.5mlで、いくぶんボトルに余らせたので、おそらくは50mlずつのテイスティングとなりました。

 過去の経験則から行って、シャンボール・ミュジニの華やかさを表現するには、開放型のブルゴーニュグラスとの相性がよく、香を閉じ込めやすいグラスVでは、その質感が邪魔をして、シャンボールらしさが閉塞され、シャンボールよりも重みを特徴とするモレ・サン・ドニちっくな味わいを感じやすくなります。ただし、これは個人の経験や嗜好性も影響を受けるようで、一概に教科書的にどちらが正解というのでもないのですが、私はシャンボール・ミュジニの華やかさを、ブルゴーニュグラスでもって楽しみたいと思っています。しかし、今回は事情が違いました。参加者の表情が怪訝なのです。

 グラスVのほうが好きかも、という意見が聞こえてきます。私のいう、シャンボール・ミュジニは、ブルゴーニュグラスのほうが相性がいい、という説明の信憑性が揺らぎつつ、私は立ち位置を探し始めたのでした。(焦)

 しかし、私はハタと気づきました。量が少ないのです。わずか50mlの量では、ブルゴーニュの開放さに対応しきれず、アロマは薄らぎ、味わいも平べったいものとなってしまったようなのです。一方のグラスVでは、その少なさが功を奏し、いいあんばいにうまみが表現されてきています。これはこれでおいしいのですが・・・。

 そこで、14等分にもされて少なくなってしまっているワインを片方のグラスに移して、7当分の分の量にしてもらいました。すると、どうでしょう。ブルゴーニュに満たされたピノ・ノワールは、質感を取り戻し、うすべったい味わいからも開放され、舌触りにシルキーさを持ち、スミレとカシスの華やかな香が鼻腔をくすぐってくるではありませんか。一方、グラスVの方に移し替えたグラスは、予想外の質感を持つことになり、シャンボールらしい華やかさよりも、構造的にしかっかりとしたニュアンスを、表現し始めたのです。質感のあるピノ・ノワールといった感じです。ワインの分量の違いが味わいに大きく影響を及ぼした瞬間です。

 同じワインをグラスを換えて味わえば、味わいも違います。

 そしてその同じグラスでも、ワインを入れる量によって、その味わいは違いを見せるのです。この違いの確認は、極めて楽しい作業。そしてもっといえば、全く同じグラスに、同じほどの量を、ほぼ同時期に注いだワインですら、隣どおしのはずなのに、その味わいは、劇的に違ってくることがあります。それは注いだときの角度やらグラスの中での対流具合やらが影響してくるものと推測されますが、現に同型の二つのグラスを並べて、味が違う事実は、ワインの深みへと誘ってくれるようで、少しばかり危険な香に包まれたりもします。

 また、不幸にもグラスを回してしまったシャンボール・ミュジニと、まわさず、ゆったりと楽しまれているグラスとでも、その味わいは歴然と変わっています。これがなぜなのか、いまひとつ資料もないのですが、そこにワインの楽しさを求めると、なんだかいつもと違った風景も見えてくると信じます。ロブマイヤー・バレリーナシリーズという、ワインを最も美しく味わえるグラスをして、その違いを確かめつつ、シャンボール・ミュジニは、華やかに頬を染めてくるのでした。

 今回はロブマイヤー同士での比較から、シャンボールの個性に迫ってみました。肝心のテイスティングコメントですが、私が感じるところ、斜面が角度を持つほどに、シャープな酸と深いミネラルを感じました。村名は3つの区画(うち二つは国道74号線沿い)のVV(古木)バージョンですが、地に張り付くような味わいを特徴とし、村の中心に位置する一級シャルムは、ふわっと、スキップしたような軽やかさがあり、ボンヌマールの隣の隣で、斜面もきついレクラは、キリリとしまる酸とミネラルが、ワンランク上を感じさせます。斜面以外にも、もちろんワインを特徴付ける要素はたくさんありますが、斜面の角度にテーマを絞ると、ワインのひとつの表情も浮かびますね。それぞれに格付けの意味を感じつつ、ヒエラルキーの存在も。

 今回は、他にルフレーヴのシャルドネに対するアプローチも体感していただきましたが、その話はまた違う機会に・・・。大阪秋の陣は、こうしてフィナーレを迎えたのでした。ありがとうございました。


セミナーで使用しているグラス

左から チューリップトール バカラ リーデルソムリエモンラッシェ ブルゴーニュ グラスV


おしまい


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