和食とワイン  にしかたゆうじ 2008/05/04

 和食と共に味わうワイン。銀座小十さんの場合。

 ブルゴーニュ魂では、ミシュラン三ツ星レストランの銀座小十さんにおいて、定期的にハッピーワインセミナーを開催させていただき、和食とワインのコラボレーションをお楽しみいただいています。和食とワインは合うのか、合わせていいのかというテーマもありつつも、フランス料理に与える日本料理の影響力やブルゴーニュワインがかくも日本人を魅了するのかの現状を考えるとき、両者が、同じ時、同じ空間で、楽しまれることにたいした抵抗感はなく、しかも食の頂点で繋がるそれぞれの美しさを体感したいという思いから、ミシュラン以前から大変お世話になっている銀座小十さんで、季節ごとに開催させていただいています。

 銀座小十 + ワイン + ロブマイヤー = 至福。

 そんな方程式の裏側を少しばかり紹介してみたいと思います。

 銀座小十さんでワインを合わせるとき、まずは季節の食材の大まかなイメージを膨らませた後で、その場で楽しみたいワインを考えるところからスタートします。基本はシャンパーニュ、ブルゴーニュ、そして日本の甲州ですが、ロワールとアルザスも和の食卓に似合いつつ、大将の奥田さんとの打ち合わせが始まります。大のワイン好きで自らもソムリエの資格を持つ奥田さんは、ワインと和食の相性については熟知されているので、ワインと食材の話はスムーズに進みます。野菜の苦味にシャンパーニュを、甲殻類にはシャルドネを、貝にはミネラルを感じさせるワインを、刺身や山葵に甲州を、肉と鰻にピノノワールを・・・。一皿ごとにワインを合わせていく考え方はフレンチのムニュ・デギュスタシオンと同じであり、食材とワインの共通項を探しつつ、いかにプレゼンテーションするかを重きを置いています。

 和とワインのコラボレーションを考えるとき、和の繊細な味加減を損なわせないことはもちろんですが、両者の「流れ」の違いが最大のテーマになります。それは、料理としての流れのピークとワインの流れのピークが違うところから発するものです。

 一時に数種類のワインを飲むときは、一般的に軽いタイプから重いタイプへと飲み進めるのが自然の流れで、ワインのピークは最後のメインの赤ワインでどーんとやってきます。一方、お献立の方は、季節を味わい、うまみを味わいながら、緩やかなカーブを登っていきつつも、そのピークは、ラストにあらず、途中にやってくることが多いようです。刺身と焼き物でその日の頂点を極めつつ、野菜の炊き合わせなど、ほっと一息するようなお皿を楽しみ、ついには杯を置いて、ゆっくりとご飯とお味噌汁を楽しむ流れが、和食の道だと信じます。

 食事の山場(ピーク)の違いをいかに修正し、「流れ」をマリアージュさせるかが、実は和食とワインの最大のテーマであり、醍醐味であると信じます。

 和食のそれぞれのお皿と合うワインは、雑誌や専門誌でも取り上げられているので、ワインのマリアージュの典型を考えれば、何とかなるものです(笑)。またワインは嗜好品であり、味覚も人それぞれに違うものなので、スポット的なうまいやまずいは、いろいろあるかと思いつつ、プレゼンする側が、その「流れ」のピークの違いを意識することが必要だと思うのです。またワインを飲むスピードも人によって様々で、特に夏の暑い時期は、駆けつけ一杯よろしく、料理が出てくる前にワインが空になることもしばしばだったりしつつ、その配分の量の加減に、(こう見えても)神経を注いだりしています。そんなこんなで、実際の様子はというと・・・。

 たとえば、先日の会の献立とワインリストは、こんな感じでした。

ある日のお献立

ワインリスト
付出し  平貝春菜づくし

椀     地蛤 潮仕立て

造り    本鮪 真鯛 あおりイカ

焼物一.  鰆塩焼き 筍炭火焼 刻みふきの唐揚げ

焼物二.  黒毛和牛サーロイン 穴子木の芽焼き 
       のびる 一寸豆

食事    小柱みつば御飯

甘味    苺シャーベット
n.v.  シャンパーニュ レゼルヴ       テタンジェ

2006 トゥーレーヌ・ソービニヨン・ブラン   ボワ・ルカ

2006 アルザス メール・エ・コキヤージュ ジュリアン・メイエー

2006 キザン 白 (甲州)            機山洋酒工業

1998 シャンパーニュ フ・ド・シェーヌ     アンリ・ジロー

2002 サビニー・レ・ボーヌ           エマニュエル・ルジェ

1985 特級クロ・ド・ヴージョ           ジャン・グリボー

 この夜のケースでは、付出しと椀物にはシャンパーニュ、トゥーレーヌ、アルザスをあわせ、また飲み手によってそのペース配分が異なりつつも、トゥーレーヌとアルザスはグラスに注いでからも途中でへたることのないワインを選び、ワインのミネラルや酸、その品種の固有の味わい香りを意識していただきました。一般的に刺身とワインは合わせにくく、魚の生臭さが気になるところですが、そこは樽をかませないキザンの甲州を唐津焼隆太窯南蛮コップに注げばあら不思議・・・困ったときのキザンよろしく、いい塩梅かと思われます。鰆は油脂分が少なく淡白な魚につき、これまたワインとのマリアージュも難しいですが、奥田ワールド全開で、アンリ・ジローの豊かな熟成香とリンゴを意識させる酸味が、塩焼きにあうから不思議です。同時にサビニー・レ・ボーヌのミネラルとあわせたりしてお楽しみいただきました。メインのクロ・ド・ヴージョの登場は、和牛のサーロインの少し前。サーロインの香りの強さに配慮して、1985年のクロ・ド・ヴージョの芳醇な香りを楽しむためです。クロ・ド・ヴージョの余韻はご飯の直前までお楽しみいただきつつ、ご飯と甘味でいい感じ。

 今回は、食事の前の「野菜の炊き合わせ」を、あえてはずして、焼き物を二つ重ねることで、白ワインとしてのアンリ・ジローの熟成と、余韻のうまみで勝負するクロ・ド・ヴージョのスケール感を、お楽しみいただく構成になりました。あくまでも和のど真ん中を突き進みながら、ちょっとしたアレンジで、シャンパーニュとブルゴーニュの熟成を楽しんでもらう進行に、さすが奥田さんと唸ったりしつつ、どうだったでしょうか。ご参加いただいた皆さんの笑顔に、その喜びを感じたのは、私の思い過ごしではないはずと信じます。

 ちなみに、絶品みつばご飯で春の息吹を楽しみつつ、デザートの苺のシャーベットには、ロゼのスパークリングワインをかけて、お楽しみいただきました。ワインを楽しむ会にして、極めて楽しいデザートだと思いつつ、楽しい宴は必ず終わってしまうところが辛いところだったりします。

 銀座小十、畏るべし。

 ワインの会を開催させていただくたびに、その思いを新たにし、銀座小十さんにて、ワインのおいしさ、たのしさ、はかなさをお伝えできる喜びに、ふと武者震いのひとつもしたりします。奥田さんとスタッフのチームワークの下、銀座小十さんの名器に盛られたお料理は、とても美しく、繊細で、時に大胆。そしてうまい。すばらしいです。そんな銀座小十さんには、繊細なロブマイヤーがよく似合い、ブルゴーニュとシャンパーニュの心地よさが、至福の時を体感させてくれます。唐津焼で楽しむ日本ワインも何の違和感もなく、ごく普通のそこにあるもの的なところがうれしいです。

 ところで、ココが最大のポイントなのですが、お献立とワインを考えるとき、奥田さんも私も事前にそれを味わうことをしません。(ワインの多くは、ほかの会などで確認済みの事も多いのですが・・・) 試食なしで、料理とワインをマリアージュさせる想像力と具現化。頭の中で考えたことが、形になる楽しさ。じつはそんなところにプレゼンテーション側の喜びがあったりします。そんなこんなで、次回の銀座小十さんの会が待ち遠しいのです・・・ううう。次回は、6月下旬(すみません・・・すでに満員御礼です)・・・鮎の季節ですね。どんな流れの会になるか(正確に言うと「するか」)、乞うご期待ということで・・・。

 銀座小十さんの会にご興味のある方は、メールをいただければうれしいです。今ページを読んでいただいた方に、ぜひとも体感していただきたいと思うゴールデンウィークの朝でした(笑)

無断転載禁止にて
銀座小十さんにて (Photo by Mr NAKAGAWA)


おしまい


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