結局、お前なのか  にしかたゆうじ 2008/07/25

 昨日、甲府某所で開催した第39回ブルゴーニュ魂ハッピー・ワインセミナーにて、日ごろから大変お世話になっている某女史よりワインの差し入れを頂き、デカンタ後ブラインドにて、ロブマイヤー・バレリーナ・ブルゴーニュグラスにサービスさせていただいた。

 色合いは、まさに黄金色で、濁りのない、その照り具合は、これはもう大変な騒ぎの予感が漂っている。

 完熟したマンゴーを彷彿とさせるトロピカルフルーツの香りが静かながら、それは極めて美しく、上品に香っていた。快適なセラーで充分な時を過ごし、夏場ということで、開栓直前に冷蔵庫にて空冷したもので、幾分冷たい温度でのスタートだったが、時間と共に、一枚一枚ベールが剥がされるようで、移り行く様も極めてエレガントだった。蜂蜜香や白い花の香り、ヘーゼルナツ、白い胡椒系のエキゾチックな香り、ヒノキ、バニラ、そして後半にはカスタードクリームなどが複雑に、それでも決してケバクなく、香りが積みあがっていく。グラスを回さない、決して回してはいけないオーラが、このワインから発せられてくる。それはこの香りたちを丁寧に積み重ねていく作業に似ているからかもしれない。ワインの香りをかぐだけで、なぜかキーンと鳥肌が立ってきて、体全身が、キュキュと心地よい締め付けられる。この感覚は、なかなか味わえるものではないが、時々、それはふいに私を襲ってくるのだった。口に含めば、まさに水のごとく味わいで、水にはないとろみ加減が、舌の上で至福を感じざるを得なかったりする。ミネラリーかつ、しっかりとした酸に口元と頬は緩みつつ、余韻の長さは、それはもう長いこと、長いこと。うまみのピークは、まさに飲み終わった後にやって来る。それもきわめて高い山を意識させながら・・・・。そんな極上の一杯だった。

 以前、同じワインの1985や2000もセミナーで登場しつつ、その両者にも似ていない味わいのなかに言い知れぬ共通項を感じ取る。このワインは、ビンテージを問わず、やはり心して、脱帽して、跪いて、飲むべきワインなのかもしれない。うつくしく、そして何事もなかったかのような静けさと共に、体内に浸み込んでは、途方もないうまみ成分と長い余韻に心は動揺するのだった。

 結局、このワインなのか。

 いままで、数え切れないブルゴーニュを飲んだり、試飲したりしてきたつもりだったのに、鳥肌が立ち、武者震いが起こり、全身に電気が走るワインは、いつもこれだ。あの味わいをかみ締めたり、思い出したりするたびに、なぜだか急に切なくなって、そのうまみは心に突き刺さっては、翌日、パソコンの前に座りつつも、あのときの余韻が私を惑わしてくる。翌日のワインの面影ほど、すばらしいものはないと自負する者にとって、この感覚は何者にも変えられない至福の時。幸か不幸か、そんなワインは、過去に何度か経験したが、そのワインはいつも決まって、お前だった。やはり、お前しかいないのか。

 やるせない気持ちと出会えた喜びか交差する中、ワインの頂点を極めて強く意識させてくれた。

 そのワインとは・・・・。













 1997 特級モンラッシェ ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ。


 行き着く先のその先には、必ず、お前さんが、何気なく佇んでいる。


おしまい




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