竹林 ふかまり (2002/02/13)

 
 2002年3月号のdancyuの特集は「怒涛の日本酒」だ。dancyuといえば「一食入魂」を連載する小山薫堂氏目当てに一冊購入してしまうほどのグルメ雑誌である。そんなdancyuの28ページに先月湘南・葉山某所で頂いた「獺祭」と今月湘南・平塚某所で頂いた「梵ときしらず」が隣り合うように紹介されていて、うれしくなって前回のコラムを書いたりした。
 コラムを書きながら手元に日本酒が一本もないことに気がついて、なんだか寂しくなったので、プールに寄る途中、蔵の装飾がきれいな酒屋さんで手軽な一本を購入した。30種類近くの日本酒を眺めながら、とんと味のイメージがつかめないので、ご主人に純米または純米吟醸で、「だっさい」のような味のお酒はありますかと聞いてみた。やさしそうな親父さんに「真澄純米吟醸あらばしり」と「竹林 ふかまり」を薦められて、値段の安い「竹林 ふかまり」を選んで、今こうして飲んでいる。驚いたことに、この日本酒もdancyuに紹介されていてた。33ページの左端にあり、「農産酒造」と称して、山田錦を自家栽培し、米の味を生かす酒造りを目指しているという。ブルゴーニュでいうところのドメーヌ元詰だ。

 味わいは、フルーティな濃醇甘口系の味わいである。ややみどりがかり、白さも感じる透明感がすっきりしている。香りは、その名の通り竹の皮やマスカットなどが青っぽく感じられ、本道の日本酒からは少し違う路線のような印象を受ける。口に含めば、17.3度というアルコール度数がキツメに感じつつも、甘い味わいである。外気で空冷した温度はひんやりと冷たく、甘い味わいがいつまでも舌に残らず、すっきりした酒である。甘いお酒好みとしてはなかなかお気に入りである。飲めば飲むほどに甘さが旨みに変わりそうな勢いがあるが、元来日本酒は量が飲めないため、少しばかりさみしい思いが募ったりする。ともかく日本酒再発見である。0.72リットルで1200円。ワインより格段に安い価格も驚きながら、こんなフルーツっぽいお酒もあるのかと新しい発見だ。ただこれを称して、白ワインみたいだねとは言ってほしくない。白ワインと日本酒は見ようによっては似ていなくもないが、元来が違う酒。少なくともブルゴーニュにはこの味に共通する要素は全くないので、これはこれとして楽しみたい。話が脱線しそうなので、江戸っ子のおやっさんの声に耳を傾けてみよう。

 「甘い酒が好き何ザァ、酒飲みの風上にも置けやしねえ」と江戸気質の各方面から厳しい声が聞こえてくる。「まあそう言わずに、まずはご一献。」この一杯を飲んでから、ぬる燗でもいきましょう。新しい風が吹きまっせ、おやっさん。

 ところでこの酒は味もさることながら、ビンの裏面が気に入った。原材料と米の銘柄、アルコール度数、日本酒度とともに、しぼり日と蔵出し日が記載され、瓶詰番号まで打たれている。日本酒にAOC(原産地呼称統制法)を持たないこの国で、必死に品質の向上を目指している酒蔵がある。この精神はブルゴーニュのDRCやルロワ、シャンパーニュのボランジェ、ブリュノパイヤールといったトップ評価の造り手にも共通している。丸本酒造。今宵はいい酒を教えてもらった。日本酒もまた酒なり。日本に生まれて良かったよ。
<記載記事の抜粋>
原材料 : 米・米麹
米の銘柄 : 
自家栽培及契約栽培山田錦
アルコール度数 : 17.3
日本酒度 : +6.0
しぼり日 : 平成14年1月22日
蔵出日 : 2002. 2.
瓶詰番号 : 3082

おしまい
  

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