お客様は神様なんかじゃないよ (2002/10/01)

 
 予約が取れないフレンチとして有名なレストラン・キノシタが場所を移してリニュアル・オープンした。キノシタシェフやマダム、従業員の方とも懇意にさせていただいて、ここは超お気に入りのフレンチレストランだ。いろいろなご縁が重なり、ほぼ毎月のようにお邪魔させて頂いて、恐縮であると共に、そのすばらしい料理とこれまたすばらしいワインリストを楽しむことに無常の喜びを感じていたりする。そのキノシタに某日また行ってしまった。

料理名は不明だが、記憶と共に思い出すと・・・。
1.アミューズとして牡蠣の何チャラと鯨の竜田揚げ
 なぜに鯨の竜田揚げがフレンチで出てくるのだろうという疑問は、食べているうちになくなる。
 これがキノシタ流フレンチだ。その昔、給食で出ていたあの鯨の竜田揚げと同じ味がして、郷愁モード突入だ。
 牡蠣の酸味とシャンパンもまた楽しからずや。

2.蛙をから揚げにして、ラタトゥイユの上に載せた前菜
 蛙がうまい。鳥の唐揚げをより繊細に、よりジューシーに仕上げたような味わい。
 何故こんなにうまいのですかという質問の答えは明快だ。「この蛙、高いから」。すばらしい。
 ラタトゥイユも酸味が利いていておいしい。最後の客だったので少しお代わりしてしまいました。あとで後悔。 

3.鮭の瞬間燻製をパイ生地の上に載せてとなりに温かい新鮮野菜
 キノシタ名物瞬間燻製シリーズ。今回は定番の鮭。うまい。薫香と甘味のある鮭に卒倒。
 隣に添えられた新鮮野菜がなぜ温かいのか。いい。この不思議な感覚と共にうまさ爆発。

4.甘海老丸ごと出汁にしたスープにパン、チーズ、ニンニク何チャラを入れて食べるスープ
 よくよく考えるとキノシタのスープは初めてかもしれない。
 出汁がでまくったスープは単独で飲んでよし、パンを落として良し、ニンニクとチーズとの相性も良し。
 そしてボーヌ1988にも完璧にマッチし、目にうっすら涙も浮かぶ。

5.金目鯛のパリパリ上げを肉汁と共に煮込んだもの
 キンメもこの店の定番ながら旧店舗からまた一段グレードアップした旨みに言葉を失う。
 このパリパリ感と甘味のバランスが絶妙過ぎて、笑いが止まらない。

6.ハトを大胆に焼いた一皿に松茸とボルチーニ茸添えが本日のメイン料理
 ハトのあらゆる部位をソテーしてくれた上に、でかい松茸とボルチーニ茸が添えられ豪快な料理に。
 食べていくうちに身体にポッと火が灯ったような感覚。
 うまい。しかし量が多すぎて、味わうよりも胃に押し込める感覚だ。
 デュジャーク1997がうますぎて泣きながら食う。
 ラギオールのナイフで頂くと超リッチ。
 
7.失念
 

8.お口直しのメロン小鉢
 この小鉢どのタイミングで出てきたか記憶があやふや。さっぱりしていてうまい。

9.デザート(今回パス)
 これ以上は何も胃に入らないので、パス。残すよりいいかなと思って。  

10.エスプレッソコーヒー
 新規導入のエスプレッソマシーン。旧式のものより味わいぶかいという。
 極上のエスプレッソに砂糖を入れても甘くならないことを知った。
 砂糖を入れることでよりコクが出て深みが増す。


 以上が新作7200円お任せコースの全貌だ。料理は季節によっても日によっても食材によっても変わることだろう。しかしである。ああ。せっかくの料理なのに名前がわからない。完全にお任せ料理だったので、メニュにも名前は書いてないので、非常に幼稚なメニュになってしまった。あとで料理名を教えてもらうことにしよう。この料理に合わせたワインはドリンキングレポートに詳しいので詳細割愛するが、シャンパン1杯、白1本、赤3本も飲んでしまった。要するに腹いっぱいのもう飲めない状態だ。フレンチでここまで腹をさすりながら帰宅したこともあまりない。それほどビックな量だった。

 新生キノシタもまた予約が取れない店ではあるが、席数も増えて営業時間も延長されているので、従来よりは比較的予約も取りやすいだろう。初台時代よりもパワーアップした味わいを堪能させていただくことができて幸せである。あの夜、あの瞬間に、お客の立場で、キノシタワールドを共有させていただき感謝である。

 この店の料理を味わうと「お客様は神様です(Le client est roi !)」という文句に疑問が生じる。神様はこんなに感動しないだろう。神様をやったことが一度もないので想像の範囲を超えないが、お店とお客はフィフティ・フィフティ50:50というバランス感覚の上に成り立っていると思う。キノシタシェフがおいしい料理を造り、笑顔が素敵なスタッフがサービスし、お客が食べて、対価を支払う。ここに上下関係はない。それぞれの立場でこの食空間を共有できたときが、本当に幸せだと思ったりする。

 腹いっぱい食べるなら280円あればいい。
 ただウマけりゃいいのなら、ガンコ親父に怒られながら食べればいい(私は行かないけど)。
 
 しかしキノシタには「おいしい」の上にある「しあわせ」感が堪能できる。
 日常生活から少しだけ外れた非日常がある。
 グランメゾン系フレンチとはまた趣を変えるキノシタワールドに今後も注目だ。


 おしまい


目次へ    HOME

Copyright (C) 2002 Yuji Nishikata All Rights Reserved.