博多を巡る冒険 その1 もつ鍋編 (2003/03/18)

 
 ある日、博多でのワインセミナーを終えて、憧れのもつ鍋を食べる機会に恵まれた。

 場所は博多のキャナルシティより、一直線。美野島交差点の近く、セブンイレブンの裏手にある。そのもつ鍋屋サンの名を「越後屋」という。京都の白味噌ベースのもつ鍋で、博多在住で「函館の女」を唄わせたら、北島三郎と双璧の某氏推薦の名店だ。三年前の博多うまいもんツアーでは満席のため断念した名店で、三年越しの悲願達成に感慨もひとしおだったりする。

 私たち一行は、閉店30分前の10時半に到着したので、入店と同時にラストオーダーというせわしない状況に置かれてしまっていたが、持ち前の明るさで(ん。意味不明だ)、お勧めメニューをチョイス。もつ鍋の大きさが分からないので、とりあえずバイト君に4人だとどのくらいが適量かを質問。6から8人分はいけますよとの回答に、この後の博多うまいもん巡りを考え、満腹を避けるべく、6人前を注文した。ビールで乾杯しながら、憧れのもつ鍋の登場を待つことしばし。店内を見回すと、ほぼ満卓状態だった。事前に電話してよかった。まずはホッとして憧れの「時」を過ごしたりする。ようやく現れた鍋は、まずはその美しさに目を見張るものがあった。普通、もつ鍋のイメージは、大衆酒場の一品料理の定番で、よく言えば庶民的、悪く言えば雑多な雰囲気があるものだが、ここのもつ鍋は、かくも美しく彩られている。白味噌なので全体な色合いは白をベースとしていて、中央には均等に10センチ程度に切りそろえられたニラが堂々と配置され、鍋を渡る橋のような印象を持たせる。ニラの中央部には唐辛子の赤が一直線に美しく、鍋の縁には気持ち黄色味がかった揚げ豆腐を携えている。とにもかくにも、このもつ鍋は見た目がすばらしく美しい。いよいよ食欲も増してくる。逸る気持ちを抑えて、バイト君に芋焼酎を頼みつつ、煮立ったらいつでも食べられますよとの回答を得る。

 とり皿に、もつと野菜と柚子胡椒風味の揚げ豆腐をとりわけ、汁を一すすり。

 う。うまい。上品なうまみ成分が、口の中に溢れ、早くも汁だく状態に。こ、これは、うまい。うますぎる。もつ鍋というとワイワイガヤガヤ喋くりながら、適当につまむ鍋だと思いきや、誰もが無口になり、鍋に集中している。この席だけ会話がないぞ。汁がうまい。もつもやわらかく、ほくほくさせながら食べるとあっという間に6人前のもつ鍋は視界から消えてしまった。白味噌仕立ての上品な味わいに、柚子とからしがワンポイントアクセントとなり、妙なうまみが絡み合う。このうまみ成分は、大銘醸ブルゴーニュワインと共通する味わいだ。すごい。凄すぎるかもしれない。

 お代わりを頼みたくてしょうがない。しかしすでに閉店時間が迫っている。バイト君に何とか交渉しようと思うと、彼は意外な提案をしてきた。ちゃんぽんを入れるとうまいという。ちゃんぽんは飲み物のラストオーダーまでOKとのこと。ではそのちゃんぽんを頼む。その間、先に頼んでいた単品料理に舌鼓。これもなかなかイケテイル。そうこうするうちにちゃんぽんが到着し、軽くゆでて、食べてみた。気持ちアルデンテ。あちゃ。これも絶品。汁がなくなる前にちゃんぽんのお代わりを注文した。

 時を忘れて夢中で食べる。これ以上の幸せは、あまりないぞというくらいうまい。

 今こうして当時の模様を思い出しながらパソコンに向かっていても、なぜだかパブロフの犬のように唾が溢れてくる。すごいぞ。もつ鍋。3年前の某店もうまいと思ったが、この店のレベルはそこを遥かに凌駕している。すばらしい。感動である。店じまいを始めたバイト君に、汁だけでも売ってくれないかと無理難題を問いかけるも、答えは即答で無理とのこと。残念だった。なんでもBSE騒動の時に汁のお土産はやめてしまったという。こんなところにも余波があったとは、悔しさもにじみ出るというものだ。

 お店は博多でも一、二を争う名店らしく、今回のように事前に予約した方がいいとのこと。美野島店のほかに、西新と大名にもあり、そちらにも足を運びたくなるから不思議だ。もっと早い時間に来て、ガンガン好きなだけもつを食べたい。この店のバイト君と近日中の再会を約束し、店を出る頃には博多の雨もやんでいたりした。そして私たち一行は、満腹のおなかをさすりながら、第二ステージの豚ばら肉と焼き鳥のうまい店に向かったのだった。

 もつ鍋、恐るべし。博多、恐るべしである。
 
 ちなみに四人で結構飲んで12000円ちょっと。一人3000円。安すぎである。

 余談ながら、玄関で頂戴したパンフレットには「お得なコース料理」や「もつ焼きコース」が紹介されているが、私はこのパンフレットの裏に注目している。白紙の右隅に「感」の文字を囲むように、「激」「謝」「銘」「動」「嘆」の文字が赤い。感激に感謝して、感銘を受けて、感動して、感嘆した。その6つの漢字に、この店の真髄を見たような気がした。


つづく


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