博多を巡る冒険 その2 焼き鳥編 (2003/03/20)

 
 ある日、博多でのワインセミナーを終えて、憧れのもつ鍋を食べる機会に恵まれたあとに焼き鳥を食べに行った。

 美野島の交差点近くの越後屋サンから歩いて、福岡銀行の脇を曲がって歩くこと3分。越後屋サンのバイト君に、「自分的にはここがうまいです」と勧められた焼き鳥屋「50円屋」はビデオ屋さんの横にあった。その名の通り焼き鳥のメインメニュのほとんどが一串50円という安さを売り物にした焼き鳥屋さんだ。しかしである。50円だからといって馬鹿にしてはイカンのである。ここもまた福岡の真髄に接する極上の空間にして、私はひっそりと感動を隠せなかったったりした。

 「飲み物は」と、かわいいバイトちゃんに聞かれて答えるべくは、芋焼酎。関東風にロックで二杯と注文すると、「うちは量り売りになります」との予想だにしなかった答えが返ってきた。おおおお。ここは福岡。久しぶりの量り売り。ちょっと感動せずにはいられない。その昔、「函館の女」を唄わせたら北島三郎と双璧と自他共に認める某氏らと、博多パトロールをした日々が懐かしく思われる。量り売りとは、ボトル(たぶん四合瓶)で飲んだ分だけ会計するという関東にはないシステムだ。いいぞ。ここは福岡。ここは博多っす。一串50円の焼き鳥をバラ肉を交えて注文し、50円ではない野菜などを織り交ぜながら適当にテーブルを満たしたりした。

 う。うまい。やはり豚バラ肉に芋焼酎は、完璧だった。私はこれ以上のマリアージュは、鹿にヴォルネイ、鴨シャブにジュブレ・シャンベルタン、エスカルゴにブルゴーニュ・アリゴテ、三陸海岸の生牡蠣にミュスカデ・セーブル・デ・メーヌ、かっぱ巻きに極冷やしのジャ・ンリケール、愛しの女性とシャンパーニュ、フォアグラにディケム、の組合せしか知らない(本当はもっとあるが、今は思い出せない。今、思い出せるのは芋焼酎に豚バラだけだ)。

 ここは、福岡。時刻は日にちが替わったくらい。なぜだか隣のテーブルには、「越後屋」サンのバイト君たちがうまそうに焼酎を飲んでいる。四人もいるぞ。なんでもバイト君の一人が今宵を最後にやめるらしい。送別会のようだか、ここはまずまず芋焼酎。うまい。何の縁があってか知らないが、こうして酌み交わすオンザロックは五臓六腑に染み渡るのだった。

 店には、ポラロイドカメラがあり、壁一面に酔っ払ったお客さんたちの幸せそうな面々の写真が所狭しと貼られていた。もちろん私たち一行も無理を承知でリクエスト。おそらく、バイトちゃんが約束を守ってくれているのなら、私たちの結構間抜けなポラロイド写真が、50円コーナーの一角に今でも飾られていることだろう。

 豚バラに芋焼酎。世界最高の組合せに、博多の夜は少しばかり朝が来るのを待ってくれているようだった。
 気になる会計も一人1000円もしなかった。なんでだろう。


つづく


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