博多を巡る冒険 その4 洋菓子編 (2003/03/21)

 
 ある日、博多でのワインセミナーを終えた翌日、地元で人気の洋菓子を食べる機会に恵まれた。

 福岡市中央区薬院の住宅街に、この名店はある。「フランス菓子16区」である。一部の熱烈なファンからは、「東のピエール・エルメ、西の16区」
(註1)と言わしめるこの洋菓子屋さんは、店主が以前シェフを務めていた「ARTHUR」のあるフランスはパリ16区にちなんで命名されているようである。閑静な住宅街は、このお店だけ異様に繁盛していて、前評判どおりの確かさが伝わってくる。ここは、「鮨おさむ」を紹介してくれた某氏嫁と、もつ鍋の「越後屋」を紹介してくれた「函館の女」を唄わせたら右にいるのは北島三郎だけかもしれないという某氏の両者によって紹介された。感謝である。グルメ派の両人に勧められて、ここを訪れないなんてことは、ありえない。特に北島三郎云々の某氏は夜のパトロール隊長を兼ねているが、昼間はトンと苦手でこのフランス菓子屋さんしか知らないというから、ますます興味もそそられる。

 綺麗な店構えの中にはいると、ホワイトデイの翌日ということもあってか、名品「ダックワーズ」
(註2)を買い求めるカップルらでかなりの賑わいだった。「ダックワーズ」やケーキのそばに置かれた「おくれてごめんね」の文字が女性心をくすぐる(かもしれない)配慮からして、女性客の心をガッチシつかんでいるような雰囲気が満ち溢れている。しかし、それでも混雑する店内にちょっとうんざりしていると、二階にサロン・ド・テが併設されていて、ここで自慢のケーキが食べられるという。そんな情報を前にして、私たち一行はスイスイと二階に上がったのだった。

 二階は静かだった。移転前のキノシタを一回り大きくしたくらいの大きさで、カップルや女性客チームで賑わいつつも、みな静かに、しかしうれしそうにケーキを食べていた。禁煙席に陣取り、さっそくショーケースのケーキを選びにいった。どれもうまそうだが、モンブランに惹かれた。一人一個ずつ頼んだところで、なぜか某アイ○ルのコマーシャルよろしく、オペラという名のチョコケーキに釘付けになってしまった。「どうするアイ○ル」のフレーズが耳にこだまし、結局メニュ変更でオペラにしてしまったりした。

 席に戻って茶をしばく。いやいやコーヒーを頂く。コーヒー皿には、フランス語で「大切な家族か友達と、いつもチョコレートをどうぞ」のような文句が書かれていて、ほっと気が穏やかになる。私はコーヒーだったが、ここのアイス紅茶は、氷も紅茶で出来ているようで、氷が解けても薄まらないことこだわりに、いたく共感したりした。

 肝心の味わいだが、例によって行ってのお楽しみにしておこう。ただ間違いなく言えることは、この店が近くにあったら、個人的にダイエットとはまったく無縁の生活を余儀なくされるということだ。必ず通う。すばらしい。ここのケーキやデセールには感動という表現がぴったりかもしれない。ところで私たち一行の満面の幸せが態度に表れていたのだろうか。実習中の店員さんが、わざわざ三嶋シェフを厨房から呼んできてくれた。一つ一つの説明を伺い、感慨もひとしおである。すべてのテーブルのお客さんにも笑顔で挨拶されていたが、ケーキの説明を受けたのは私たちだけだった。ラッキーであり、表情は豊かなほどいいもんなのだと実感したりした。幸せは、幸せを呼ぶ。いい感じである。

 改めて某氏と某氏嫁、そして北島三郎の(以下略)の某氏に感謝である。

註1 イデミスギノもうまいとの情報を多数お寄せいただき、感謝です。
註2 三嶋シェフが1979年にパリで発案した「ダックワーズ Dacquoise」は、アーモンドの風味を生かした焼き菓子で、
    その名の通り、アヒルのくちばしの様な形をしている。繊細で上品な味わいである。


 
つづく


目次へ    HOME

Copyright (C) 2003 Yuji Nishikata All Rights Reserved.