龍と虎と鳳と 2 (2003/09/17)

 
 白金にある中華料理の店「ロンフウフォン」で二ヶ月ぶりに食事をする機会に恵まれた。

 しかし、ここの料理とサービスはすばらしい。正直な話、ロンフウフォンが二度目の今回は、初回ほどの感動を期待していなかった。あの感動の延長戦上のバリエーション違いくらいかなあと勝手に想像していたのだった。しかし、ところが、どっこい、スットコドイなのである。初めての時とはまた違うサプライズと喜びが、ここにある。そしてまた、食事の合間に楽しむメートルの森田さんとの小気味よい会話が何とも幸せなのである。なぜに、ここまで感動させられるのか。うがった心境で訪問した我を恥ずべしであり、予想を超えた食空間のプレゼンテーションに、ただただ脱帽なのである。(このサプライズは中野の鮨さわ田と共通である)。

 今回のテーマは、森田さんと相談して、「辛甘苦い」の流れになる。はじめに大皿に盛り付けられた料理をサロンの片隅で森田さんが四つにとりわけ、サービスしてくれる。白いお皿に盛られた一品一品の説明は例のごとく割愛させていただくが、これがまた見た目に美しく、食材のもつうまみ成分を十二分に引き出す力強さと絶妙の火加減の妙に圧倒されるのだった。一皿毎の辛味と甘みと苦味のバランスが最高で、ここに中華のうまみを見る思いである。そして辛いのが続いた後にそっと出される甘み系の一品に思わず箸も和むというものだ。食に流れがあり、それがいとも自然体で表現されている。これもスローフードの醍醐味なのだろう。

 ロンフウフォンがなぜに、これほどまでにすばらしいのか。その答えのひとつにメートルの森田さんのサービスがあるだろう。ワイシャツ姿の森田さんは、その笑顔と背中から、優しいお人柄のオーラが溢れ出ていて、なにげない、しかしベストタイミングのサービスに心が和む。ロンフウフォンのおいしさをなにより森田さんが一番知っていて、そのおいしさを優しい語り口でそっと伝えてくれる。なにより一皿一皿に込めた愛があり、その愛を共有させてくれるサービスに、心底惚れてしまうのだった。これぞサービス。サービスの極意が、ここにある。そんな思いがしてならない。俗に予約が取れない中華として、その評判も高いのに、それに奢ることなく、実るほど頭を垂れる稲穂かな、の姿勢に、なんだか心が洗われる思いである。

 森田さんのサービスの一例を紹介してみよう。それは紹興酒がサービスされるときだった。3つのグラスに注がれた紹興酒は、その量がバラバラだった。たっぷり注がれたグラスと少しばかりのグラスが3種類サービスされる。一見不平等に見えるこの注ぎ方に、私はサービスの極意を知った。なぜならば、それぞれの量の紹興酒は、それを飲む人にとっての適量だったからだ。シャンパーニュ、ブルゴーニュと飲んでいたので、同じテーブルを囲みながらも各自の飲みたい量は違っていた。大森さん(仮名)は、まだ飲み足りないモードだったが、もう一人はあと少し飲みたいモード、そして私は結構酔いも廻っていたので、ほんの少しテースティング程度でよかった。紹興酒を一合?注文した時点で、それぞれの適量を瞬時に察知し、その人の適量をサービスする。一見すると量がばらばらだが、実はそれぞれの適量がサービスされていたのだった。なんということか。私たちの僅かな言動と仕草から状況を察知され、適量をサービスする。完璧といわずして、なんと言おうか。すばらしいのである。そして暗黙のコミニュケーションに、ちょっとうれしいのである。

 またお邪魔したい。季節ごとにロンフウフォンの料理を楽しみたい。そしてまた森田さんのサービスを受けたい。そんな夜を待ちわびる日々もまた、楽しいから不思議である。おいしい食事に乾杯。

おまけ
 ところで、紹興酒の後に、もう一種類ワインを飲ませていただいた。1976年のドイツ・モーゼル・ザール・ルーバーのベーレンアウスレーゼ(造り手、畑名は失念)だった。これが杏仁豆腐と驚異的なベストマッチを見せてくれるから、驚きとともに感動なのである。



おしまい


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