博多を巡る冒険 その7 鮨おさむ再び編 (2003/12/03)

 
 今年3月に旅して以来久しぶりの博多訪問であるが、今回のツアーもかなり濃い内容になり、関係各位に感謝と共に、すこしばかり記してみたいと思う。

 福岡市南区長住は福岡のベッドタウンであり、おおよそ観光客が来るような気配は全くといっていいほどない街である。しかし、ブルゴーニュ魂は一泊二日の限られた日程にもかかわらず、メインテーマに必ずこの場所を訪れることにしている。市内中心部からは西鉄福岡駅(天神)より150円(2003年12月現在)の切符を買って、各駅停車でいくつか目の駅「高宮」で降りて、タクシーに乗り込み長住小学校を目指してもらおう。1000円を少し越えたあたりでタクシーを降りれば、目の前にそのお店はデンと構えていてくれるはずだ。

 店の名を「鮨おさむ」という。ご主人の武藤修さんの名前を「ひらがな」にしたこのお店は、「博多を巡る冒険 その3 お寿司編」に詳しいが、今回は季節を変えての再訪である。事前に予約の電話を入れ、営業開始ちょうどの12時に寄りたい旨を伝えると、「お稲荷さん」の注文が数多くあるために(理由は後から聞いたものだが・・・)、勝手言ってすまないが30分ほど遅らせて欲しいとの回答であった。何の問題もない。この日のために待ちわびた時間に比べれば、30分なんて、私には5秒ぐらいの時間でしかないのだから。駅の本屋さんで立ち読みして時間を過ごしてから、いざ店内へ・・・。

 同行していただいたヘビースモーカーの某氏に煙草を我慢してもらい、まずは魚を少し造ってもらいながら、ビールを楽しむ。昼からビールは旨いなあ、である。私たちが12月最初のお客さんですと、ご主人に笑顔で言われて、ちょっとうれしくなる。魚は、フグのお造りであった。美味である。絶妙な歯ごたえを楽しみながら、もう師走なのだとフグが教えてくれているようで心地もよい。で、昼間につき、早速握ってもらう。ビールはほどほどに、メニューにはないはずの芋焼酎「魔王」をロックで頂きながら「おまかせ」の4000円コースをお願いする。まずは白身から。「同じ白身でもみな食感がちがうんですよね」と、アラから続く白身の握りの一つ一つの説明をしてくれながら、穏やかな笑顔がなんとも幸せである。鮨は小ぶりで、気持ちシャリ(ごはん)の温度が高い。しかしここにもご主人のお人柄が鮨に表れるような温かみがある。このちょっと高めの温度が、ネタに絶妙に合い、また温かいシャリでは相性が悪そうなネタには、きちりと適温して握る様が、絶妙なのである。

 鮪は中トロを炙りと生の2パターンで握ってくれる。「この中トロは、同じ部分なんですけど、レアで炙るのと生で握るのとでは、また違う味になるから不思議なんですよね。」食べて納得の違いが、とてもたのしい。若い衆に指示するときの厳しい目つきとは打って変わって、私たちとの会話は何とも穏やか。左手にご飯粒をいくつか残しながら握ってくれる鮨の数々。小指にご飯粒ついてますよと言いたげな気分にさせつつも、そんな姿にお茶目なご主人のお人柄が表れているようで、これもまた一興である。

 アナゴをタレではなく、モミジおろしでいただいて、あまりのおいしさに某氏は追加でもう一貫握ってもらい、私はさっきから「ううう」と唸っていると、つづいてウニがでてきた。

 「あれ。軍艦巻きじゃないんですね」私の素人な質問にご主人の答えは明快だ。
 「海苔の風味がウニの味わいを消してしまうんですよ。」
 「なるほど。あれ。でねイクラは軍艦巻きなんですね」
 「そうですね。イクラはそろそろおしまいなんですが、今度は海苔がイクラのうまみを後押ししてくれるんですよ」

 そんなカウンター越しのやり取りが楽しい。一連の動きには無駄がなく、小ぶりの鮨はズイズイ胃袋に収まり、このお店の看板の「あなたの言いなり」と言いながら出してくれる山葵と胡麻が利いたイナリ寿司に感激しつつ、唐津のネギでひととおり、である。最後に光物がなかったような思いがあり、生で鯖を握ってもらう。絶品である。本当はシメサバの方がご主人としても握り甲斐があるらしいのだが、〆具合があと少しということで、次回のお楽しみにとっておこうと思ったりした。お土産に1000円のお稲荷さんを3セットつくってもらい、割り勘の会計はジャスト1万円だった。九州ならではの「白身」を十二分に楽しみ、鮨は10数貫。フクはお造りで、魔王と共に。お味噌汁と漬物もまたグー。これを安いといわずして、なんと言おう。それに代わる言葉を捜すより、私はただ、ただ「旨い」と唸りたい心境なのである。

 「鮨おさむ」には、私の心をグイッとつかむワールドがある。男性用トイレに貼られた「つづいてこそ道」の言葉を思い出しながら、特製の湯のみ茶碗をもらいつつ、大変ご馳走様なのである。うれしい、おいしい、たのしいお鮨に大感謝である。


おしまい


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