三ツ星レストラン その1 (2004/03/07)

 
 先日のブルゴーニュ合宿では、ガイドブック「MICHELIN LE GUIDE ROUGE」で最高峰の評価・三星を得ているレストランを訪問し、楽しい食事を堪能することが出来た。この場を借りて関係各位に大感謝なのである。フランス国内に20数店ある三星レストランの中で、今回はパリの「ル・サンク」と「タイユバン」、シャニーの「ラムロワーズ」の三店も行ってしまい、それぞれの個性と素敵な食空間を共有させていただき、今後の食空間のありように一撃を投ずる結果となった。

 いわゆる三星レストランは、タイヤメーカーのミシュランが勝手に評価付けしているもので、ホテルのように玄関先に星の数を明記したりしていないが、その評価は世界中が注目する一大事であり、星の数によってシェフが解任されたり引き抜かれたり、食の世界の華々しさと影を同時に映し出している。そのミシュランが認める三ツ星レストランの食事やワイン、サービスはいかがなものか。三店を比べることで、いろいろと発見があるから面白い。

 今回は、特にお気に入りのラムロワーズについて、ちょっと触れてみたい。

 ラムロワーズは白ワインの大銘醸地モンラッシェに程近く、ワインの街ボーヌから各駅停車で一つ目のシャニーという町にある。アリゴテで有名なブズロンへ歩いていくなら、この駅で降りると小一時間で着くことが出来るので、ブルゴーニュ魂もシャニー自体には度々寄らせてもらったりしている。(ラムロワーズはもちろん初めて・・・) ラムロワーズは宿泊設備を整えていて、常連と思しき宿泊客はノーネクタイで食事を楽しんでいるようで、ドレスアップが標準装備と思いがちの三星の中でも特異な存在かもしれない。しかしカジュアルに崩すのではない、さりげないお洒落に、フランス上流社会の一端を見せつけられるようで、いやはや何ともだったりする。ブランド物で固めないお洒落感がすばらしい・・・。

 エントランスで予約の名を告げ、マダムにコートを預け、突き当たりのクリーム色で統一されたウェイティング・ルームに案内される。そこで食前酒を楽しみながら、メニュとワインを選ぶ楽しみは、思いのほか楽しい作業だった。結局はメンバーと一時間もメニュとにらめっこして、辞書を片手にどれにしようか、合わせるワインはどれにしようかなど悩みつつ、ソムリエやメートルたちとの小粋な会話も楽しかった。日本では料理の選択に一時間もかけたりしないが、ここでは極普通に、そんなメニュ選びの時が楽しいのである。これが、ただ食べるだけでない食空間の楽しみなのだろう。

 食事はレストラン内を少し歩いて、入り口近くの丸テーブルにて。このレストラン内を歩くという作業も実に楽しい。日本では、入り口と食事席の距離が離れておらず、いきなり席に案内されることの方が多いが、ここでは意外に広い室内を歩かされるので、歩きながら観光客よろしくキョロキョロしてはいけないぞと思いつつ、豪華ながら、さりげない装飾に目も奪われ、レストラン内を歩くことが、こんなにも楽しいとは思わなかった。席に着くまでのこのウキウキ感は、何ともいえないくらい気持ち良いものである。

 食事はゆったりと楽しませていただいた。一つ一つのお皿はそれぞれに美しく、それらは見事に統一感があり、立体的で薫り高い料理に、感無量である。味わい自体は伝統的で濃い味付けベースかも。日本人の好みとは若干異なるかなあと思いつつ、本場の味を大いに堪能するのであった。ワインもパリ市内の某有名ワインショップでは考えられないくらいの低価格で、しかも品揃えがよい。お土産に何本か買いたいくらいであるが、そんな野暮はせずに、次回来た時は何を頼もうかと思いあぐね、そんな未来系の食の喜びは続くのである。

 しかし、意外な面もあった。サービスである。三ツ星から連想する、目の行き届いた至れり尽くせりのサービスを期待していたのだが、現実にはそんなことはなく、日本人の期待するサービス感とフランス式のサービスには若干の違和感を感じつつ、日本のグランメゾンといわれる一流店のきめ細かいサービスのすばらしさに、一目もニ目も置きたくなってくるから不思議である。絶妙のタイミングでのサービスというのはあまりなく、少なくなったワインを注ぎ足して欲しいと、もこちらから催促する光景も目の当たりにしたというか、私自身がスタッフに声をかけるシーンを度々演じてしまったりした。しかし、これもフランス流のサービスと思えば、なるほど的で、違和感は覚えるものの決して悪くはないのであるから、ここらへんのタッチの違いも面白い。

 いずれにしても、メニュ選びに1時間、実際の食事に3時間という時の過ごし方は、リッチでかつ居心地もよかった。ここに食空間の頂点があり、世界中のレストランが、この店を目標にしているのだと想像するのはそんなに難くない。頂点を知ると見えてくるものがある。そしてラムロワーズという「ものさし」をもって日本のレストランを鳥瞰すれば、それぞれのレストランの個性が鮮明に浮き上がってきて、埋没するレストランは少なくないが、しかし一方で日本のそのお店の際立つ個性に、帰国後すぐに行きたくなる衝動にも似た思いに駆られたりもする。ラムロワーズと匹敵する食空間は、さすがに装飾関係で引け目を感じることはあっても、味自体やサービス、違った個性では互角に勝負するお店が、日本にも数店あることを、実感するのであった。日本に住んでいるものとして、そんなお店に通いたくなる・・・。

 今回は料理やワインについての具体的な紹介はしないが、ひとつだけ紹介するとすれば、ブルゴーニュにお越しの際は、是非にラムロワーズでリッチな夜を楽しんでもらいたいなあと思いつつ、ドメーヌ・トロ・ボーのサビニー・レ・ボーヌ1級ラピエールの1996は、同じ年のデュガ・ピィの特級マジ・シャンベルタンと共に記憶に残るほどのおいしさなので、オンリストにあるうちに試してもらいたいと思ったりする。


つづく

目次へ    HOME

Copyright (C) 2004 Yuji Nishikata All Rights Reserved.