「博士の愛した数式」 (2006/02/02)

 
 「博士の愛した数式」 小川洋子 新潮社文庫刊

 かつて「妊娠カレンダー」で芥川賞を受賞した小川洋子氏による「博士の愛した数式」は、第一回本屋大賞に輝いている。私がこうして手に取っているものは文庫化されたもので、ちょうど近所の映画館でも、今まさに上映されている作品だ。タイトルからして、またその映画の宣伝文句からして、ちょっと木っ端はずかしい系の物語かと思いつつ、映画館でお金を払って鑑賞するには地味すぎるかと思って敬遠していたが、昨日本屋で同じ作者の新書を立ち読みをして、その中でこの物語が数学を扱ったものであることに興味を抱き、早速文庫を買い求め、過去最短記録を塗り替えたかもと思えるスピードで読了してしまった。

 和風「アルジャーノンに花束を」的ともいえるこの作品は、数学とは結局無縁のままに今日に至る私に(笑)、その素敵さを教えてくれるものだった。事故で記憶に障害を持った数学者と、家政婦さんとのやり取りは、常に数字にまつわる話から始まり、たとえばそれは、24という数字が持つ特性だったり(=4の階乗)、5761455の個性だったり(=1億までに存在する素数の数)、220と284の関係だったり(=友愛数)、28の完全数的な特徴だったり・・・。

 「完全数は、連続した自然数の和で表すことができる」(71頁参照)

 いまこうして、階乗だの友愛数だの、完全数だのを列挙してもその説明は要領を得ないが、作品を読み続けていくと、不思議とそれらの意味がわかり、そしてそれをとても美しいと思わせてくれる。数学のこの美しさに、中学時代に気づいていれば、その後の私の人生は大きく理系に染まっていたであろうにと思うと、「ハートで感じる英文法」ほどのショックも受けつつ、まあそれはそれで、致し方なかろうと微笑んだりする。

 作品は、江夏豊がなぜかくも偉大な選手だったかの紹介と共に展開し、彼の背番号が、完全数であることを知らせてくれる。ストーリーには悲しさが満ち溢れているが、ふとしたときに、暖かいものが流れるようで、なんだか読後清涼感がすがすがしい。今なら映画も上映しているので、早速観に行かなければと思いつつ、文庫で抱いたイメージと映画との間に変なギャップがないことを祈りつつ、その帰り道に、数学の本でも立ち読みしようかなと思ったりする。

 数学もまた美しい学問だったんですね。(ついぞ気がつきませんでした・・・)


 おしまい


目次へ    HOME

Copyright (C) 2006 Yuji Nishikata All Rights Reserved.