続 鮨とワイン (2007/11/10)

 

 ずいぶん前に鮨とワインの相性について触れたことがありますが、今回はその続編として。

 先日、都内某有名鮨店で、ワインセミナーを開催しました。また、これとは別の機会にも鮨とワインについて考えることがありました。結局、お鮨とワインは、あうのでしょうか。この話題に関しては、巷を含めて、いろいろ楽しい会話が繰り広げられていますが、私が思うに、お鮨の場合、それをカウンターで食べる場合は、お鮨とワインの相性を問う前に、鮨職人と自分との相性のほうが遥かに優先すると信じます。

 カウンター商売の難しさ。お鮨屋さんというカウンターの向こう側とこっち側で、繰り広げられる食空間は、概ね食べ手側とご主人との相性が良いと、この上なく幸せで、お鮨もワインもおいしく感じられるもの。その一方で、相性が悪く、居心地の悪さを意識してしまうと、それがどんなにすばらしいお鮨であろうと、ちっともおいしくなく、ひいてはワインも語るに落ちるというものかもしれません。

 人の相性は、ひとそれぞれ。

 Aさんにとっては最高でも、隣のBさんにとっては最悪という状況は容易に想像がつきます。一度でも、ご主人の態度や会話に癪に障るところがあれば、これはもう食事どころの騒ぎではなくなります。あの程度のネタならどこにでもあるしね。そんな思いが募るごとに、ハッピーな食卓は遠くに立ち去ります。そして少しでも極上マグロに筋張ったところがあるならば、それはもう癇癪のスイッチも入るというもの。逆に、好きな職人が握る鮨は、多少の贔屓を持ちつつ、やはりおいしいものなのです。

 ワインに理解のある鮨職人が握る鮨に、ワインはあうと思います。それは、鮨とワインの相性以前に、価値観の共有がそこにあるから。逆につっこむならば、ワインと鮨をあわせることに意識を持つと、伝統の鮨から少し逸脱しかねず、それは、それを好む人には絶妙なマリアージュを提案し、新たなる料理が誕生するかもしれませんし、それに抵抗を感じる人には、それは鮨ですらなくなる可能性も秘めているかと思われます。

 価値観の共有。

 全てはそこに集約され、ワインと鮨のマリアージュに興味を持つ鮨職人と食べ手の価値観が一緒になれば、ハッピーな食卓が展開され、どちらかの思いにすれ違いがあるならば、それはもうお互いにとって不幸な夜となってしまうのでしょう。食は難しいですね。相性のいい鮨職人さんがいるということは、とても幸せなことと思います。しかし、相性のあう鮨職人に出会うには、そう安くない鮨のカウンターでは、一発勝負の相性合戦のようなものもありそうで、気に入れば通うが、駄目なら一生ご縁がない。そんな場面も容易に想像されます。それがカウンターの醍醐味であるとともに、怖さでもあるような、そんな気がして、鮨とワインの相性を考える前に、そんなカウンターの風景が頭をよぎるこの頃なのでした。

 というわけで、私はお茶をすすりながら、今日もいつもの回転寿司でおまかせの握りを楽しんだのでした。こっちのほうが気楽でいいなあ。回転職人の鈴木さん(実名)との会話も盛り上がるし・・・(笑) 油断すると食べ過ぎてしまいますが・・・。
 

おしまい

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