にっぽんハッピーワイン



 日本の赤ワインの実力。

 先日、山梨県と富士山を共有しつつ、県境がいまだに確定していない静岡県某所で、【にっぽんハッピーワインの会】を企画した。日本ワインのおいしさを静岡市民の皆さんにお伝えできてうれしいぞと思いつつも、実は、この会では隠れた裏テーマがあったのだった。それは、日本の赤ワインの現状を、日本の赤ワインを飲みなれていない人たちに飲んでいただき、どんな塩梅かを探るというものだった。

 参加者は9名で、すでに食前酒(デラウエアの新酒)と、甲州のスパークリング・ワイン(いつものあれで、貴重品なのに、定番化しています・・・)、そして甲州の白ワインとマスカットベリーAの赤ワインを紹介しつつ、食事と共に楽しい時間を過ごさせていただいた。酔いもいい塩梅になったころに、その企画は立ち上がったのだった。

 これは、普通のワイン愛好家の食卓を想定したもので、赤ワインを飲む環境は、ある程度のワインを飲んだ後に、メインのお料理と共に味わうことが多く、その前提条件に近い環境にしたかったためであり、素面下で白衣をまとった中でのブラインド・テイスティングとは趣を変え、ワインを評価するのではなく、楽しみとして、そのイベント性に重きを置いた結果、このような形をとったのだった。

 ワインは4種類用意し、過去の経験から、すべて2時間前に抜栓して、ブショネチェックを終えた後、デカンタに移して、蓋をしていた。液温は室温に近く、冷暖房も要らない心地よい秋の夜だった。3本のワインは事前に銘柄をオープンにし、もう一本だけは品種は同じにしたものの、あえて銘柄は伏せたまま紹介した。グラスはINAOグラスを4脚ずつ用意して、二宮シェフ自慢のお魚料理を、美しい村松さんの素敵なサービスとともに、食べていただいている間に、それぞれのワインをサービスして、ブラインドでワインを楽しんでいただいた。(余談ながら、二人の名前でこのレストランがわかった人は、相当の静岡レストラン通です・・・(笑))

 用意したワインは次の通り。
 
 2002 キザン・セレクション カベルネソービニョン/メルロ   機山洋酒工業
 2004 グランド・キュベ メルロ (JWC金賞受賞)        イケダワイナリー
 2004 万力 カベルネソービニョン/メルロ (天然酵母発酵) 金井醸造場
 1998 シャトー・ポンテ・カネ ACポイヤック 5級         シャトー・ポンテ・カネ

 自分調べながら、にっぽんハッピーワインの代表格にして、他所では味わえないこだわりのリストになったと思うが、いかがだろうか。試飲は、順番も内緒にしたままに行い、しかし結果的に上からの順番どおりで、シャトー・ポンテカネだけは全く銘柄を公表せず、またイケダだけがメルロ単独ということで、単独品種も当てなきゃという無言の?プレッシャーも感じさせつつ(笑)、喧々諤々、楽しいドリンキングが始まったのだった。

 ここで、それぞれのワインについての特徴を記しておこう。
 (ただし、私はサービスする関係からもブラインドでは試飲していない。)

 2002 キザン・セレクション カベルネソービニョン/メルロ   機山洋酒工業

 品種の比率は60:40。色合いがもっとも薄く、香には茎っぽさが現われ、それは果実味のボリューム感が弱いために起こるものと想定される。味わいのインパクトは、それほど強くなく、しかしうまみは乗っていて、余韻も長い。鼻腔に漂うほっくり感もいい感じで、うまみベースのおいしい赤ワインである。完売品のため、ある意味お宝映像かも。またこの年はメルロの出来がよく、アートラベル仕様で、メルロ単独でもリリースされている。(こちらも美味・・・)。2,100円だったかな。


 2004 グランド・キュベ メルロ (JWC金賞受賞)        イケダワイナリー

 今年のJWC(Japan Wine Competition)で金賞を受賞した逸品。長野県の契約農家栽培のメルロを勝沼のイケダワイナリーで醸造したもので、通常はセレクト赤としてリリース予定も、秀逸ということで他の品種とブレンドされることなく単独でリリースされた。コンペ当時は、諸般の都合によりオープン価格だったが、実売価格は3,000円だった。(ここらへんの経緯はセミナーで紹介したいと思います。結構笑えます・・・)で、色合いは濃く、リリース直後ということで若々しいニュアンスも持っている。香は強烈な樽香があり、これは好みを分けるだろう。バニラの中に黒系果実とスパイス香に彩られ、味わいもコクがあり、しっかりタイプ。余韻も長めで、ハイ・インパクトな味わい。北米系メルロの装いかも・・・。酒質から見て、熟成を経て、相当の年月が経過すれば、もしかしたら途方もない偉大なワインになっている可能性も頭をよぎったりする。


 2004 万力 カベルネソービニョン/メルロ (天然酵母発酵) 金井醸造場

 低農薬農法(いわゆるビオディナミに準じている)により栽培された山梨市万力の斜面のぶどうを、天然酵母により発酵させ、亜硫酸の使用を極力抑えた逸品。色合いは濃い目で、イケダよりもやや明るい基調。香はやや還元的で、時間と共に複雑な香に満ちてくる。味わいは、複雑味と表現するか、雑み感とするか微妙なニュアンスを持ちながらも、全体的な滑らかさが印象的。そしてこのワインは飲み終えた後にやってくるうまみ成分が、とても心地よく、長い余韻に包まれながら、フランスの自然派に通じるうまみに身を寄せたりする。僅か307本生産の3,800円。


 1998 シャトー・ポンテ・カネ ACポイヤック 5級
 
 これだけやはり異色な印象を持つ。濃い色調ながらもエッジにガーネットがうっすらと入る色合いは、熟成モードを感じさせ、香には温かみのある土のニュアンスが好印象で、カシスに混ざるスパイス香が、たまのボルドーも悪くないかもと思わせたりする。スケール感があり、構造的にランクアップした味わいは否定しようもなく、うまみのあるおいしいボルドーである。(参加者にはまだ内緒だったが・・・)。5,301円。


 してその結果は・・・

 で、ある程度試飲も終わり、お肉料理と共に、楽しいワイン談義に花を咲かせつつ、銘柄を伏せたままでアンケートをとってみた。まずは、不味かったワインはあるかの問いに、全員がないと答え、それぞれにおいしいということで、私をホッとさせた。そこで、どれが一番おいしかったの評をとることにした。9人中6人が4番目に出したワイン(つまりポンテ・カネ)がうまいといい、残りの票は割れながらも3番目(万力)に支持が集まった。2番目(イケダ)は樽香が強すぎて、これがこの場ではその評価を大きく落とし、一番目(キザン)のうまみ成分は、日本のワインを意識させるとの評だった(メンバーの中に勝沼通いをされている方もいて、また先月にも日本の赤ワインを紹介していて、両方に参加されている方に、そのときの記憶が蘇ったよう・・・)

 今回は、ボルドー5級のワインと伍してみたが、日本ワイン群もボルドーワインを圧倒するほどのパワーはまだ持っていなかったものの、かなりの線にいることが確認された。価格も概ねボルドーの半値ということも加味しつつ、万力の不思議な魅力と、キザンの安定したおいしさが、心に残ったのだった。そして、議論はイケダのワインに集まった。

 イケダワイナリーのメルロの、この樽香が、特に自然派ワインに慣れたものにとっては、馴染めない要素であり、JWC金賞という評価を意識すればするほど、そのコンクールの審査員たちとの味覚のずれを感じざるを得なかった。イケダのワインは突出した樽香を考慮しなければ、相当高いレベルの味わいを醸しだしていて、それは相当の評価を得てしかるべきではあるが、これが金賞かと思うと、返ってその評価に疑問符が点灯せざるを得ず、その矛先はコンクールの権威性と、審査員たちの審査レベルへの疑いに向けられるのだった。

 ワインコンクールが、ハイ・インパクトなワインを選ぶきらいがあるとするならば、コンクールの評価は、薄味のうまみ余韻系を好む私にとっては、大した指針にはなりえず、それは商業的な、「なかよしこよし」的な印象を持たざるを得ず、私のようにワインに点数をつけたり、ランク付けすることを好まないものにとっては、一層そこに「距離」を感じるのだった。ワインコンクールが、日本のワインを盛り上げる手段として、マスコミに紹介され、活用されるのなら面白いが、(以下略・・・(笑)

 コンクールの話は、とりあえずあっちに置きっぱなしにしておいて、話を纏めるならば、日本の赤ワイン(日本で栽培されたぶどうを用いて、日本で醸造され、日本で課税されたという意味)の実力は、すでに「おいしい」の領域に達しており、いまはまだボルドーワインとは水をあけられた感もあるが、その距離はかなり縮まっていることを意識させ、それにトコトン付き合う作業に、楽しみを見つけてしまったことを実感するのだった。

 探せば、3,800円以下で、買える上質な赤ワイン・・・。うまい。こんなワインが、レストランで楽しめたら、きっと凄く楽しい食卓になるだろう。また家庭で飲んでも、ワインが過剰に圧倒してこないために、家庭料理にも合いそうで、円満な家庭が想像できたりする。

 日本の(ちゃんとした)赤ワイン・・・いいぞ。

 でもどこで買えるんだろう ??? (← この問題は改めて・・・。)



注 なお、万力とキザンは、生産本数が少なく、コンクールの出品基準(1000本以上)に達していないために、
   コンクール自体に参加していない。



2005/10/22記

つづく





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