ブルゴーニュ魂的 超ウルトラスクープ 余談

DRCの超ウルトラスクープにかなりの反響をいただいております。
余談ながら、DRC一級ワインについて探ってみようと思います。

テーマ Vosne-Romanée Premier cru Cuvée Duvault-Blochet by D.R.C.

 
DRC社は、ロマネ・コンティを筆頭にAOC特級ワインしか生産しない超一流ドメーヌですが、1999年ビンテージに特別にヴォーヌ・ロマネ一級ワインをリリースしました。これは1999年の出来が非常にすばらしかったための特別な処置と聞き及びます。このワインは特級ワインのブレンドで、ロマネ・コンティを除いた特級畑(ラ・ターシュがメイン)で特級ワイン用の収穫を見送った二番収穫のぶどうから造られ、2万本あまり生産されたとのこと。

 ところでDRC社は過去にもヴォーヌ・ロマネ一級ワインをリリースしています。1930年代やそれ以前にいくつかの年で造られたようで、今回は69年ぶりとのことです。キュベ名のデュヴォー・ブロシェはDRC設立当時の功労者の名で、氏に敬意を表してキュベ名になったようです。 

 このワインの人気ぶりはすさまじく、ネット上では9万円で競り落とされたり、つい先日の恵比寿某所のワインショップの案内では7万円弱の価格で販売されたようです。ブルゴーニュ魂ではまだこのワインを飲んでいないので、味わいについては何とも言えませんが、複数の試飲者から漏れ聞くところによると、「いわゆる一級なり」の表現がしっくりきているようです。それはともかく、DRC社のこの特別処置からも分かるとおり、1999年はコート・ドール地区にとって偉大な年のひとつとして後世に語られることでしょう。

 ところでこのワインの中身は、ラ・ターシュをはじめとした特級ワインのブレンドであり、一級畑の葡萄はブレンドされていないとの情報があります。つまりは、ラターシュ、ロマネ・サン・ヴィヴァン、リシュブール、グラン・エシェゾーそしてエシェゾーの若木やその名に相応しくない格下げのワインなのです。いつもならばネゴシアンに樽ごと売られていたワインで、DRC名をつけずにネゴシアンに売るには忍びないほどの出来栄えなのでしょう。いよいよ飲みたくもなります。しかも中身はすべて特級ワインなのですから。


 では、なぜこのワインは一級なのでしょうか。
 
 特級ワインしかブレンドされていないなら、特級を名乗ってもいいような気がします。
 しかしAOCはこのワインを特級とは名乗らせません。


 なぜか。


 それはヴォーヌ・ロマネ村にはヴォーヌ・ロマネ・グラン・クリュというAOCがないからです。
 

 この村にある特級を整理してみましょう。特級畑は8つあります。このうちグラン・エシェゾーとエシェゾーは行政上はフラジェ・エシェゾー村に属しますが、AOC法上はヴォーヌ・ロマネに属します。これはAOCにフラジェ・エシェゾーがないため。商売的にも世界的に有名なヴォーヌ・ロマネの方が、フラジェ・エシェゾーよりも優位に働くのは想像に難くありません。

ヴォーヌ・ロマネの8つの特級畑  ロマネ・コンティ
 ラ・ターシュ
 ロマネ・サン・ヴィヴァン
 リシュブール
 ラ・ロマネ
 ラ・グランド・リュ
 グラン・エシェゾー
 エシェゾー
ロマネ・コンティの畑と十字架

 
 ロマネ・コンティはロマネ・コンティ以外の畑の葡萄をブレンドするとロマネ・コンティを名乗れません。同じくラ・ターシュもしかりです。グラン・エシェゾーとエシェゾーは名前は似ていますが、まったく別の畑です。両者を混ぜてしまってはそれぞれのAOC(アペラシオン)は名乗ることが出来ないのです。今回のDRCのワインは、ロマネ・コンティ以外のDRC社が所有する特級ワインのブレンドですから、ブレンドされている以上は、それぞれの特級ワイン名を名乗ることが出来ません。では何を名乗れるか。残念ながらヴォーヌ・ロマネ村には上記の8つの畑以外には特級を名乗れるAOCはないのです

 この村にあるAOCはあと2つ。ACヴォーヌ・ロマネとACブルゴーニュです。このうちACヴォーヌ・ロマネのカテゴリーとしてプルミエクリュ(一級)と村名のふたつがあり、当然ながら格が上なのは、ヴォーヌ・ロマネ一級です。一級畑の小区画畑からだけの葡萄ならば、これに続けて畑名を入れられますが、このワインにはそれらの畑は入っていないので、一級としか明記されません。DRC社がただの村名ヴォーヌ・ロマネや地方名ブルゴーニュを名乗らないのは、それぞれの特級ワインが、一級格付の構成要件を満たしているためであり、あえて格下のワインにする必要はないからです。


 というわけで、DRCのヴォーヌ・ロマネ一級ワインは中身はすべて特級ワインなのに、ヴォーヌ・ロマネ一級ワインとしか名乗れないのです


 ちなみにヴォグエのミュジニ・ブランは、シャンボール・ミュジニに白のAOCが特級ミュジニしかないために、特級を名乗らない以上はACブルゴーニュを名乗らざるを得ず、またドメーヌ・イヴ・ビゾーはクロ・ド・ヴージョの城壁に接するヴォーヌ・ロマネ内でシャルドネを植えているがために、ヴォーヌ・ロマネは赤ワインのAOCであり、格下のACブルゴーニュを名乗っているわけです。


<余談の余談>
 仮にこれがシャブリ地区だったらどうなるか。
 当然特級ワインとしてグラン・クリュが名乗れます。
 なぜか。

 シャブリには4つのアペラシオンしかなく、個々の畑には単独のAOCがないからです。

 おっと。話が長くなりそうなので、シャブリの話は別の機会に。


 用語補足
 特級 = グラン・クリュ = GRAND CRU
 一級 = プルミエ・クリュ = Premier cru = 1er cru
 村名 = ヴィラージュ = Village


 2002/12/06 UP

以上
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