天候に恵まれなかった1998年のコート・ド・ボーヌ地区であるが、その被害の大きかった畑をパーカーとタンザーの記事を基に再現すると以下の表になる。両氏の指摘する畑は微妙に異なるが、畑の地勢等をかんがみれば、概ね同一地区にあるので、大きな差はないように思われる。それらはブルゴーニュ委員会の発表とも矛盾していないようである。そして両者の指摘はあくまで畑の状況にとどまっており、個別の造り手やワインそのものに関しては各自のテイスティングに基づいて指摘するのみである。タンザーについて言えば、1998年は気象状況には恵まれなかったために生産者ごとのばらつきが大きく、特にムルソーでは品質に相当の開きがあることを認めつつ、シャサーニュ・モンラッシェでは1997年よりも良い出来であるという主旨の記事を発表している。 その1 被害状況 被害報告(畑は各氏の列挙順)
その2 他の生産者 上記資料の被害状況は、天候による畑の被害が大きかったものを挙げているにとどまり、それぞれの造り手のワインの評価ではない。ドーブネやルフレーブ、ラモネをはじめとする他の優良生産者のワインについて1998年ビンテージのワインがどうなっているのかは、私は最近該当のワインを飲んでいないので不明のままだ。悪天候にメゲズに超熟タイプのワインを造ったところもあるかもしれないし、ワイン造りの難しさを実感したところもあるかもしれない。答えは闇の中だが、その答えはワインの中にある。飲んでみないと分からない。しかしトップ・ドメーヌのワインは安くないだけに、そして思い入れもあるだけに、なかなか試すことが出来ないところが辛いところだったりする。某氏いわく、「同じワインは必ず二本買って、まずは一本飲んでみる。その判断をもとに二本目の飲み時を探るべし」。なるほど。言い得ている。 ビンテージ情報とワインの品質には相関関係はあるものの、絶対的な要因ではない。ワイン造りは、天候のほかにも醸造技術や栽培方法、哲学などによって大きな違いが生ずるのだから、あくまでもひとつの目安にすべきなのだろう。 少ない例ながらも、ドーブネのムルソー・ナルボー1998は、昨年末の段階ではしっかりとした果実酸があり、1997年ほどの華やかさこそなかったものの、さすがドーブネ、と唸らせるほどであった(超熟タイプではなさそうだが・・・)。ポール・ペルノの1998ACブルゴーニュは、国道74号線の西側(つまり特級畑側)にあり、ACピュリニー・モンラッシェに接する畑から造られているが、先週時点でもとてもチャーミングに仕上がっており、おいしくいただくことが出来た。そして2年も前の話だが、ラモネのバタール・モンラッシェは、当時はとてもすばらしかった。今どうなっているのかはワインが手元にないので不明のままだが・・・。 その3 だからブルゴーニュは面白い ブルゴーニュでは原則として白ワインはシャルドネ、赤ワインはピノ・ノワールを醸造して造られている。醸造には葡萄だけを用いて、水を足したり、薬味を入れたりすることはない。葡萄の質がすべてを決める。葡萄品種は一種類なので、その葡萄品種がダメージを受けると、生産者はほかに為す術がない。唯一、収穫時に傷んだ葡萄を取り除き、健全な葡萄だけを選ぶしかないのだ。事実、コント・ラフォンはモノポール畑のムルソー・クロ・ド・ラ・バールの生産量の大幅な減産を余儀なくされている。1997年という大成功を収めた年のクロ・ド・ラ・バールは38樽( = 約11,400本)分生産されたが、1998年はわずか18樽( = 約5,400本)しか造る事が出来なかった。通常生産量を減らすとワインの質は向上するものだが、生産量を半分以下に落としてもなお、ワインのポテンシャルは本編の通りだったのだ。むむむ。しかし、これがブルゴーニュの最大の特徴。単一葡萄品種によるワイン造りの逃れられない現実なのだ。 初冬の小雨降るブルゴーニュの畑を歩いていると、合羽を着て腰をかがめながら作業をする生産者たちの姿をよく見かける。寒いだろう。重労働だろう。腰が痛いだろう。眼鏡も曇るだろう。葡萄の収穫は年に一回。毎日の辛い畑仕事の成果が出るのは年一回きり。そしてそれがワインとなり、食卓に運ばれるまで数年、数十年の単位の歳月が必要なのだ。ワイン造りとは、結果が出るまで相当の歳月を必要とする地道な仕事。彼らの農作業風景を「現場で」見るたびに、ビンテージの一喜一憂があほらしく思えてくる。葡萄、そしてワインは、大地の恵みであり、天の恵みの反映であり、人の努力の結果ならば、すべての年のすべてのワインに敬意を表したい。(DRC共同経営者でもあるアンリ・フレデリック・ロック氏によれば、彼が経営するドメーヌ・プリューレ・ロックのシンボルマークはそれらを象徴しているという) ただ、ワインはその年の天候によってその性格を変えてくるので、ビンテージ情報や評論家の試飲情報を参考にしつつ、いつ飲むべきか、どうやって飲むべきか、何と合わせて飲むべきかを考える。すべてはおいしく飲むために。1998年のムルソー斜面側の畑から造られたワインは、コント・ラフォンとコシュ・デュリに限って言えば、今がピークと推測できる。1998年のムルソーという夭折なビンテージをいかに楽しむか。ワインを知れば知るほどその楽しみ方を考えたくなるから、ワインは面白い。 そして天は、2000年という年に1998年の恨み節を晴らすかのようなグレイトな天候を用意してくれた。1998年の楽しみ方と2000年の楽しみ方は当然違う。畑、造り手、ビンテージ。ワインの質を決める三要素を大いに見極めて、そして大いに楽しい夕べを過ごしたい。 さらに先日某所で試飲したDRCによるブルゴーニュ・オート・コート・ド・ニュイ・ブランもビンテージは同じ1998年ながら、畑がだいぶ離れていることもあり、硬質な酸が長期の熟成を約束し、ランクはACブルゴーニュながらも、DRCの名に恥じないワインを今現在でも発揮している事実は、ブルゴーニュの1998年の白を知る上で大いに参考になることだろう。 <参考資料および引用> PARKER'S WINE BUYER'S GUIDE Sixth Edition Robert M.Parker,Jrwith Pierre-Antoine Rovani Stephen Tanzer's International Wine Cellar Issue 86 ブルゴーニュ委員会B.I.V.B公式サイト オスピスドボーヌ公式サイト 以上 |