コラム2 ワイン初心者によるもっと初心者のためのワイン講座

 一口にワインといっても、その種類は多種多様で、これからワインを知ろうとする人にはどこから 切り込んでいいのか戸惑ってしまう。フランス、イタリア、ドイツ、スペイン、ポルトガル、チリ、 カリフォルニア、ハンガリー、アルゼンチン、日本、などなど何がいいのか悪いのかさっぱり 分からない。しかもそれぞれのワインは生産された年によって味わいが違うという。ワインというと ワイン通と自称する人達のあのワイングラスの持ち方からして鳥肌物であり、気障っぽくどうも 取っ付きにくいものだ。

 しかし、ワインは美味しい。この味を知らずに、死んでしまうには余りにも勿体なさ過ぎる。 シャンパンの清涼感、極甘口ワインの豊かさ、赤ワインと料理のベストマッチ。口の中で広がる、 あの染み込む感覚を是非味わってもらいたい。そんな思いを込めて、初心者の私がワインについて 語ってみようと思う。

 ワインを知るにはどうしたらいいのだろうか。僕の経験からいえば、まず一杯ワインを飲むこと だろう。できればワインの知識がある人と飲むのがベターだと思う。ワインの世界に魅了されると、 自ずとワインの知識欲に目覚めるものである。

 ワインは何万種類もあるから、全部は覚えられないし、覚えたところでただの暗記で終わって しまう。ではまず何を押さえるべきか。世界の一流品を覚えたい。ブルゴーニュならロマネコンティや シャンベルタンなどの有名どころを。ボルドーならばビッグ9と呼ばれるワインを押さえれば、 かなりの通になれる。

 その世界のトップを知ることが、世界全体を知る近道だと思う。相撲を知るなら、横綱貴乃花、 F1ならばシューマッハ、ゴルフならジャンボやタイガー・ウッズだろう。一流プレーヤーを 知ってこそ、その世界の魅力に引き込まれるというもの。大相撲を極めるのに、序の口の力士からは 調べないだろう。同じ理屈で、ワインの世界の一流品を飲むのが宜しいかと思われる。一流たる 所以を知れば、必ずワインの世界に魅了されるはずだ。

 しかし、そういう名品は高いのでそんなにめったやたらと飲める代物ではない。そこでテレビや 本で一流を研究したら、実際に自分で飲めるワインを探したくなる。そのワインの情報は、格付けと ヴィンテージチャートとラベルから知ることができる。

 有名ワインには格付けという便利な尺度がある。ボルドーならば1級から5級までの格付け ワインとブルジョワ級やテーブルワインなどで、ブルゴーニュならば、特級畑や一級畑などだ。 核付けワインには子分的存在のセカンドラベルというのもある。格付けは必ずしもワインの味を 表現していないというが、大まかな目安にはなる。

 ヴィンテージチャートという各年のぶどうの出来不出来を表にしたものもある。ヴィンテージ チャートというと、いかにも通ぶっているが、ヴィンはワインのこと、テージはエイジつまり 生産年の事、チャートは表の意味だ。言葉の意味を知れば、何も怖じ気付く事もない。各年の出来、 不出来を知ることでその年の善し悪しが分かる。同じ銘柄のワインでも生産年によってワインの 価格が違うのも、品質に差があるからだ。

 そしてワインは、ラベルに情報が記載されている。

 例えば日本が世界有数のワイン王国であるとしよう。世界の金持ちがこぞって日本のワインを 買い漁っている状況を強引に想像してみる。日本には、北東北、関東、信濃川流域、京阪神、玄海灘、 という産地がある。その中から一つピックアップして、どれでもいいんだが、とりあえず関東に しようか。

 ここに関東産の赤ワインを4本用意した。ラベルには、それぞれ関東、神奈川、湘南、大磯とある。 どれが美味しいのだろうか。そんなもの飲んでみなきゃわからないと、お嘆きの貴兄にも一理あるが、 大体の目安として、この4本のワインは左から作られる地域が限定されている。一都六県という 広大な土地から生まれる関東ワインよりも、地域を一県に絞った神奈川ワインのほうが、個性というか こだわりが強そうだ。わざわざ神奈川産をアピールしているのだから、関東という大きな枠で 括られることを嫌っているようにも見える。同じ理由で、神奈川よりも湘南ワインの方が海の幸に 恵まれた条件をその味わいに反映していそうだ。さらに、大磯という限定された畑から収穫される ワインには職人のこだわりが感じられる。自信があるから、自分のオリジナルワインを生産 できるのだ。この畑にこだわりを持つ人々が世界中にいるのだ。関東地方のワインよりも、信濃川 流域の南向きの畑のほうが偉いといったりする人達だ。大量生産される関東よりも小規模経営で、 作った人の名前が分かる信濃川流域が通の心をくすぐったりするらしい。これを真似したのが フランスのボルドーだ。ボルドー産よりもメドックという地区名ワインが、メドックよりも ポイヤック村産が、さらにシャトー・なんとかといったように、畑が限定されて行けば行くほど ワインの個性が表に出てきて、値段も高くなっていく。

 フランスには、ボルドー、ブルゴーニュ、アルザス、ロワール流域、シャンパーニュなどの産地が あり、ボルドーにはメドック、ソーテルヌ、サンテミリオン、ポムロールなどの地区があり、 メドックにはポイヤック、マルゴー、サンジュリアンなどの村があり、ポイヤックにはシャトー・ ラトゥールやシャトー・ムートン・ロートシルトなどがあるのだ。地区と村を知ることでそのワインを 知ることができるのだ。すこし分かりにくい例えだっただろうか。

 ボトルには産地の他にブドウの品種が書かれている場合がある。カベルネソービニョンやメルロー、 シャルドネ、ミュスカデなどだ。ワインはブドウから作られているので、その品種の味わいを知ると、 飲む前に味の見当ができる。カベルネソーピニョンは渋く重いが、メルローは柔らかい感じが したりする。ただし、こればかりは飲み比べないと分からないので、本で調べるよりもまず自分で 飲むことだろう。幸い品種名ラベルのワインは高くない。おおいに挑戦したいところだ。

 次にフランスの代表的な産地ボルドーとブルゴーニュの違いについて考えてみよう。

 両者の違いはその瓶を見れば一目瞭然だ。がっちりタイプがボルドーで、撫で肩の瓶が ブルゴーニュ。ボルドーが数種類のブドウ品種をブレンドして作るのに対し、ブルゴーニュは単一種の ブドウからワインを作っている。畑の土にも違いがあり、ボルドーが砂利質でブルゴーニュは 粘土質だ。この土の違いは実際畑を歩くと、はっきりと分かる。さらに所有者にも違いがあり、 ボルドーはシャトーと呼ばれる醸造所で大量生産され、その多くは、ロスチャイルド家などの貴族、 または、アクサ生命保険などの企業によって運営されている。かたやブルゴーニュは村の農夫たちが 自分たちのドメーヌで小規模に作っているという印象だ。かのロマネコンティでさえ、鶏小屋の ようなところで作られている。

 シャンパーニュのモエ・エ・シャンドン社は世界最大級のシャンパンハウスだけあって企業が作る シャンパンという印象がある。シャンパン通りの一番手前に8階建てぐらいのオフィスを構え、 日本でいうビール会社の本社を思わせる。

 ボルドーの有名ワインの多くが年産30万本も生産されているのに対し、ブルゴーニュは 3000本程度もざらにあるそうだ。その限りあるワインを世界中の富豪がこぞって買い漁るのだ。 だから一本何万円もしてしまうのだ。

 なぜ地域によってはワイン作りのスタンスが違うのか。それはフランスの歴史にあるようだ。 畑を細分化させたブルゴーニュとそれを阻止したボルドーの貴族、企業。この辺りを研究するのも 上級者へのステップなのだろうか。

 ところで高級ワインを味わう時はいつなのだろうか。大型倒産時代に一本2万円もするワインの コルクを抜くのは、何かの記念日だったりする。こんな高価な飲み物を味わうには最高のOPTが 必要だし、それなりのグラスも大切だ。この瞬間への投資に対しての理解も必要だ。どんなに高価な 銘醸ワインでも、その価値を認識してこそ飲みがいもあり、僕に言わせれば、この最高の瞬間の 共有ができてこそだと思うのだ。

 今夜、貴女とこの場所で、このワインを飲むのがどんなに素晴らしい事か。そのワインは誕生年産 だったり、シャンパンだったり、生活のレベルと比べて無理目のワインだったりするわけだ。 あくまでも主役は食卓を囲む貴女と僕であるわけで、その食卓を彩るのがワインだと思う。その 最高のステージを飾るに相応しいワインを求めて、人々はワイン通になり、思い余って薀蓄人間に なってしまったりするのだ。

 ワインはよく女性に例えられる。グラマーな女性が好きな人もいれば、スマートな女性がタイプの 人もいるわけで、どのタイプのワインがどの地域にあるかを探るのが、結構楽しかったりするわけだ。 料理との相性もある。ワインは料理と常に一緒だからだ。そしてその相性が完璧にあった喜びは、 実際に飲んだ人にしか分からない。一人でも多くの人にこの瞬間の喜びを感じてもらいたいと思う。 素人にはどの料理にどのワインが合うか分からない。当然だ。だからこそソムリエがいる。ソムリエは 食卓のアシスタントであり、この時間のお手伝いさんなのだ。理屈は簡単だ。ゲストは貴女であり、 ホストが僕なのだ。ホストのアドバイザーがソムリエということになるのだ。

 薔薇の代わりに赤ワイン。水槽の代わりにシャンパン。食事を締め括る極甘口のデザートワイン。 ワインを飲める余裕があることを僕は、幸せに思いたい。

 足首がキュッとしまっている女性を探すように、僕はワインを求めてさ迷い続けよう。




 おまけ(シャトー・ラトゥールとレ・フォール・ド・ラトゥールの間にあるもの)

 シャトー・ラトゥールはメドック地区の第一級格付けワインで、世界の富豪の食卓を飾っている。 かたやレ・フォール・ド・ラトゥールは、同じ畑の若い木から取れたブドウから作られるワインで いわばラトゥールのセカンドラベルだ。両者の違いはラベルに象徴される。ラトゥールには一本の 塔の上にライオンが描かれている。レ・フォール・ド・ラトゥールにはライオンはいない。 その代わりに塔が3本に増えている。二流から一流に上がるには、両脇の塔を捨ててこそライオンを 射止めることができるのだ。一流は孤独だがライオンがいる。そんな意味が込められて いるのだろうか。

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