ドニ・モルテ
試飲日 2000年6月15日
場 所    神奈川県内JR沿線某所     
照 明 蛍光灯
種 類 フランス ブルゴーニュ産AOC白ワイン
生産者 Denis Mortet (Gevery Cambertin)
Vintage 1996
テーマ 世界最高峰の赤ワインを造るドニモルテが
白ワインを造った。
ワイン Bourgogne Chardonney
 

 ドニ・モルテといえばブルゴーニュ赤ワインの5大ドメーヌとして周知の事実だが、 その彼が作り出すACブルゴーニュクラスの白ワインを試飲する機会に恵まれた。 感想を率直に言えば、過去最高レベルのACブルゴーニュであり、かのコシュデュリーの コルトンシャルルマーニュにでさえ一歩譲りはしても二歩は譲らない存在だった。 価格は有力ドメーヌのこのクラスでは中堅どころだ。4,000円でおつりがくる。 決して安くはないが、同じ予算でこの感激を味わうことは不可能であるから、 まんざら高いとは言えない。安いくらいだ。いや、安すぎる。その10倍の価格をもってしても、 まだ払い足りないくらいだ。先のコルトンシャルルマーニュは1本10万円する。ただこちらも その価格を超えた感動があり、存在自体が憧憬の的であるため、価格を評価の対象にすることは 無意味であるともいえる。

 で、今回はドニ・モルテの白について。

 ドニ・モルテは赤ワインの最高の造り手である。シャンベルタン・クロヴージョを筆頭に ジュブレ-シャンベルタン村・マルサネ村で世界最高の赤ワインを造りだす。その味わいは DRC・ルロワ・ヴォギュエ・デュガピーと肩を並べるだけあって、品性に長け、力強さの中に 繊細さを持ち合わせ、余韻は恐ろしく長く、その印象は生涯忘れることがないだろう。 しかし白ワインではいい畑を持っていない。おそらく自家用に僅かばかり造っているのだろう。 その自家用のワインを運良く試飲した。

 はじめの印象はコートドニュイの白が持ち合わせている味わいそのものだった。 以前ポンソのモレサンドニの白を楽しんだことがあるが、その味を思い出させた。 コートドボーヌの白が持つ辛口の中にある甘味とは成分が異なるのか、辛さが舌の上に残る 感じだった。アロマもボーヌの持つ個性的かつ力強いそれが感じられず、冷やし気味に サービスされた温度も関係してか、名醸辛口白ワイン特有の甘味が隠れてしまっていた。 正直、赤ワインの名手が造った物珍しい白ワイン、それが最初の印象だった。

 真っ先に比較の対象となったのがドーブネのアリゴテと今回と同ランクのコシュデュリーの ACブルゴーニュ白。まずはドーブネ。マダムルロワの個人所有のドメーヌで赤白両方とも 名作を造りだしている。白にも名醸ワインをもつドメーヌと比べることの無意味さを感じつつ、 あのアリゴテの感激が再燃しつつあった。ドニ・モルテの白ワインが目の前なあるにも かかわらずである。目の前にないワインを話題にすることは禁句であるはずなのに、 目前のワインに限界を感じた。言葉は悪いが所詮赤の作り手なんだと。赤と白は同じワインでも 別のカテゴリーなのだと。ドーブネは、見劣りするアリゴテを世界有数の名醸に造り替えた。 さすがドーブネ、恐るべしである。しかしドニは・・・。残念だ。

 次に同一ランクのコシュデュリーが舌に蘇ってきた。白ワインの名手が造りだす並酒は、 そのレベルの高さに驚嘆させられる。ワインのランクは同じでも価格はドニの倍はする。 この価格差が味の差なのか。コシュデュリーと比べること自体両者に失礼だったのか。 赤の名手は土俵が違えば、ただの人? コシュデュリーのブルゴーニュはしみじみした味わいで、 品のあるワインの底ヂカラを見せ付けていた。白のトップドメーヌはすべてのワインが 超一流なのだ。ドニは白はこのワインしか造っていない。その差の表れなのか。残念だ。

 ところがである。時間が経ち、グラスの温度も若干上昇し、赤ワインのテイスティングの 準備に取り掛かったときだった。うおおおおおおおおおおおおおおお。

 第一印象は完全に覆されていた。別のドメーヌと比較した愚かな行為をただ 恥じるばかりとなった。マロンフレーバーがINAOグラスに満ち溢れ、その味は コルトンシャルルマーニュそのものになっていた。とろみがあり優雅で気品漂う極上の白。 にぎやかなテイスティングルームは静寂に包まれ、言葉を発することに意味を見出せず、 誰もが極上の味わいとその長い余韻に浸っている。極上のワインは、音を消す。会話も雑音も 空調の音でさえも。静寂こそがワインを味わう最高の場所であり、ワイン自体がそこへ 導いてくれる。

 本来ワインとは食中酒であり、おいしい料理と楽しい会話と共に飲まれるはずで、 あくまでもゲストと料理がメインであるはずだ。しかし、最高傑作の粋に達するワインは、 本来の目的を超越し、芸術あるいは文化の世界に誘う。ワインの持つ魅力にまたしても 引き込まれてしまった。おそろしい。ドニ・モルテ。第一印象の誤解を訂正してお詫びしたい。

 そもそもこのワインの素性はたかが知れている。赤の名醸地の片隅で極わずかに造られた 趣味的なワインのはずなのに。しかし、このエレガントさはなんなんだ。余韻の長さも甘い香も 半端ではない。

 おそろしい。ワインは場所が最優先される。モンラッシェはモンラッシェを名乗れる 畑からしか生産できない。コルトンシャルルマーニュしかり。しかしドニのこの白ワインは、 ブルゴーニュ地方の何処で作っても同じ名前を名乗ってしまう。コルトンシャルルマーニュと ブルゴーニュ名ワインとではその格の差が歴然としているのに。厳格な法律によってワインの ランクは決定されるのに、それなのにこの味は白ワインの頂点にあるのだ。なぜこのワインを 造れ得たのか。不思議であると同時に、驚異を感じる。

 ブルゴーニュは作り手で選ぶべし。青天井が常識の名醸ワインの世界にあって居酒屋での 飲み代よりも安い価格で取引されるワインがあるのだ。絶対におかしい。しかし、現実には それが存在する。しかしのしかし。このワインを楽しめるのは、ワインを 求めている人だけであることも、思い知らせてくれる。

 このワインを飲んでから早一ヶ月が経とうとしている。されど印象は衰えることを知らず、 かえって鮮明に思い出される。もう一度このワインに出会えることが出来たら、 全財産はたいてでも購入すべきだ。そう思わせるワインはめったにあるものでもない。

 とはいいつつも、私のセラーに一本仕舞ってある。内緒である。数年後にあけたとき、 どう熟成されるか楽しみは尽きない。ありがとう、ドニ・モルテ。

以上


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