＜特級ボンヌ・マール＞
　抜栓後40分。デカンタはせず、そのままINAOグラスへ。やや高めの温度設定である。すうっとなめし皮のブーケが立ちこめて、しっとりした極上のピノ・ノワール節の香りがしてくる。黒系果実味がきれいに熟成している。さすがドメーヌ蔵出し直後の完璧な熟成感である。黒系ルビー色に茶色が品よく混ざり合り絶妙。
　これからいよいよ熟成の頂点を迎えるに当たり、じっと力をためつつも、その力を隠しきれず、あちこちからこぼれ出している。しっぽりとした媚びない甘味をもちつつ、辛口がしっかりしているところは、さすが特級である。1999の圧倒的なパワーはないが、ボンヌ・マール特有の荒々しさを持ち合わせている。ただし、その荒々しさが辛さとあいまってやや充実感というかバランスに欠ける思いもある。そこで新品のポマールグラスに注いでみた。

　おおお。こう来たか。グラスに沿って味わいが丸くなっている。荒々しさがなくなり、やさしい甘味が辛さを覆い隠している。うまい。しっぽりうまい。極上のワインを本当に楽しむなら、極上のグラスも必要なのだとつくづく実感する。それが証拠に、INAOグラスに戻ると辛さが強調されすぎて、せっかくのボンヌ・マールの実力を表現できなかったりするからだ。このしっぽりした甘さは円く、大きめのグラスでこそ、である。

　このボンヌ・マールをデカンタしたらどうなるだろう。デカンタしてポマールグラスに注ぐにはやや力強さが足りない。味が壊れて、酸味が強調されかねない。デカンタしておいしいところを飲むならINAOグラスで、グラスの中で変わり行く変化を堪能するならポマールグラスのような大きめのグラスで頂くのがよいだろう。そして晩秋の特別な夜に、このワインがあったなら、するりとした喉越しの癖に完璧な味わいと長い余韻を楽しめることだろう。

　抜栓してすぐにINAOグラスに注いでも、辛さだけが強調されかねない。そもそもこのボンヌ・マールには最近流行りのデュガ的な甘さがない上に、本来の辛口が全面に出てしまうリスクがあるからだ。またグラスを回して急激に空気に触れさせてしまっては、この絶妙なうまみが味わえない。グラスをくるくる回すにはブルゴーニュは余りにも繊細過ぎる。少しずつ変化する味わいも、すっとんでしまう。酸っぱいだけの赤い酒にしてはならない。いいワインを本当においしく飲むためには、ワインに合わせた時間のゆとりも必要だったりする。ワイン一杯の中に、せわしない日常から少しだけ離れた非日常的な時間の過ごし方があるのだから。
　
　グロフィエの評価は1995年以降、目を見張るものがある。今回のワインは1993であり、大絶賛の直前のビンテージである。なるほど、造り手の評価はある年から突然跳ね上がるのではなく、1993というちゃんとした布石があるのである。

　2001年グロフィエのセラー蔵出し
　パーカーズポイント89点。ただし最近の再評価で96点に訂正されたとの情報あり。


＜参考1999ボンヌ・マール＞
　ううっう。これは偉大なワインである。エレガントにして、すごいパワーを持ち合わせている。丸い。そんな言葉がぴったり当てはまるワインである。何が丸いのか。それはワインの全体像が、である。濃く、強い味わいにもかかわらず、タンニンの渋さも酸味感も感じさせないからである。タンニンも酸味も探せばしっかり秘めているが、全体のバランス感覚がそれをうまみ成分に換えている。
　
　ボンヌ・マールの評価としては、繊細で優雅なシャンボール・ミュジニー村にあって、この特級は独特なものがある。優雅なワインという評価はあるものの、若いうちは荒っぽさや動物香を気にする向きもあるからだ。しかし、このグロフィエの1999ボンヌ・マールはまったくエレガントである。うますぎてコメントするのがためらわれる。しばしの至福に酔いたい気分である。このエレガントさは花の香りからくるものだろう。土壌香がなく、そのために荒々しさも感じさせないのだろう。黒系果実にやや紫が入る色合いも、深みがあって、見ていて飽きない。当然のことながら余韻も長い。この裕福な余韻は部屋全体にも及び、感動の共有は何事にも代え難い。この感激はしばらくつづくのだった。
　ちなみに98点評価にして最高評価らしい。


以上